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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第七章 クリミアーナ教国編

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第百七十四話 研究発表

クリミアーナ教国の首都、アフロディーテにある大聖堂は、立錐の余地もない程に人で埋め尽くされていた。そこには教皇以下、全ての枢機卿が列席し、ある種の荘厳な雰囲気を醸し出している。そして、その前には二人の男と一人の女性が静かに座っている。

臨時枢機卿会議・・・。このクリミアーナ教国、もしくは全世界に影響があると思われる事件、災害、発明、発見があった場合に召集される会議であり、その権威は高い。大魔王の蹂躙によってジュカ王国の滅亡を受けて開かれて以来、数年ぶりに開催された会議である。前回は非公式の会議であったが、今回の会議は公開されるとのことで、アフロディーテに住む人々の高い関心と注目を集めていた。

「それでは、始めてください」

教皇の一言で、大聖堂が静寂に包まれる。そして、一人の男性がゆっくりと立ち上がり、口を開く。

「クリミアーナ医学研究所所長のイマーニでございます。この度は、私どもにこのような機会を設けていただき、歓喜に耐えません。今回、臨時枢機卿会議の開催を要請いたしましたのは、数千年の間、我ら人族を苦しめ続けてきた難病、キリスレイ、ガイッシャ、ルロワンスの原因究明とその特効薬を、私どもの研究所員が発見するに至りましたので、そのご報告をさせていただきたいと思い、要請した次第でございます」

その言葉を受けて、座っていた二人がゆっくりと立ち上がる。

「私ども研究所の副所長を務めますダリナーと、特効薬を発見しました研究所員のグラリーナでございます」

二人は恭しく一礼をする。

先ほどから淀みのない声で、さわやかな弁舌を振るうイマーニは、知性溢れる顔つきをした医学研究者である。教国始まって以来の天才と称され、数々の医薬品の開発と手法の発明は、数多くの人族を救済してきた。その中でも、人体再生のスペシャリストとして高い評価を受けている研究者である。

本来欠損した人体部分は、LV4の回復魔法を駆使しなければ再生することはできなかったが、イマーニは魔術と薬品を組み合わせることで、徐々にではあるが欠損部分が再生することを発見した。つまり、LV3の回復魔法でもLV4の効果を発揮できることを発見したのである。

温厚篤実な性格ということもあり、全ての研究者から慕われる人物であった。

一方、副所長のダリナーは、一言でいえば、忍耐強そうな顔をした男である。実際、彼は何度も何度も失敗と挑戦を繰り返し、成果を上げてきた言わば叩き上げの研究者である。その豊かな経験に裏打ちされた含蓄は、所長のイマーニの研究を大いに助けており、言わば彼はイマーニの右腕であると言える。

そして、唯一の女性であるグラリーナは、一人、異彩を放っていた。

既に中年の域を出ようとしているイマーニとダリナーと比較すると、彼女は格段に若い風貌であった。それもそのはずで、イマーニは五十歳、ダリナーは四十八歳という年齢のなか、グラリーナはわずか二十六歳という若さであった。そのまだ若き研究者が、全世界に影響を及ぼすかもしれない大発見をしたというのである。この事実に、大聖堂に集まった人々は驚愕したのである。

しかも、グラリーナの風貌も、人々の関心を引いた。ちょっと猫背でありながら、瞬きの少ない、潤んだ黒目は溢れる知性を感じさせ、日に焼けていない少し青白いその顔色は、昼も夜も一心不乱に研究に打ち込んでいる姿を想起させる。小柄で痩せた体、そして何より、イマーニとダリナーが司祭の礼服に身を包んでいる中で、彼女一人が白衣姿であったのだ。

「それでは、これらの病が起こる原因と、その特効薬につきまして、グラリーナ研究員より発表させていただきます」

グラリーナはゆっくりと口を開く。

「私どもの研究によりますと、キリスレイ、ガイッシャ、ルロワンスを発症する原因は共通しており、それは、獣人の体液を媒介して感染することがわかりました」

大聖堂が揺れる。人々の唸り声で、振動しているのだ。

「静粛に」

教皇が右手を上げて清聴を促す。先ほどの大歓声が嘘のように静まり返る。

「具体的に申し上げますと、いわゆる眠り病と言われるキリスレイ、これは犬獣人の体液を媒介して発症します。そして、段階的に筋肉が硬直していく病であるガイッシャ、これは狼獣人の体液を媒介して発症します。最後に、突然死に至る病でありますルロワンス、これは猫獣人の体液を媒介して発症することがわかりました」

再び大聖堂が大歓声に包まれる。教皇以下枢機卿は微動だにすることなく、彼女らを見つめている。教皇は目を閉じてしばらく物思いにふけっていたが、やがて聴衆が落ち着きを取り戻したことを見計らうと、ゆっくりと口を開く。

「なるほど。それで、その特効薬はどのように作られるのですか?」

「はい。我々は、これらの病が発症するのは、人族に病に対する抗体がないためと考えました。そこで、最も病に対する抗体が強い生物を調べましたところ、羊獣人の抗体が最も強いことがわかりました。そして、その抗体は肝臓で作られていることもわかっております。その、肝臓で作られている胆汁に、私が開発しました酸液をある一定の分量で加えますと、これらの病のうち、キリスレイは完治し、ガイッシャは症状の進行が止まり、ルロワンスは発症が確認されなくなりました」

大聖堂は静寂のままだ。誰もがその成果に耳を疑っているのである。そのうち、会場の誰かが小さく手を叩いた。それが契機となり、大聖堂は万雷の拍手に包まれた。

教皇はその拍手が鳴りやむのを待って再び口を開く。

「クラリーナ女史が仰ることはよくわかりました。それを証明する根拠はあるのですか?」

その言葉を受けて、所長のイマーニが口を開く。

「クラリーナ女史は過去、私の研究におきまして、人体再生液に微量の塩分を加えることによって、その効果が高まるということを発見した実績がございます。彼女は一日に100本の研究資料を読み、ほぼ不休不眠で研究に没頭する才女であります。この研究成果は、我ら人族を救う大発見であると、私、並びに副所長のダリナーが証明いたします」

ダリナーも大きく頷く。教皇は目を閉じてしばらく物思いにふけっていたが、やがてゆっくりと目を開けて口を開く。

「イマーニ所長がそこまで仰るのであれば、大丈夫なのでしょう。わかりました。これより、我がクリミアーナ教国並びにクリミアーナ教は、犬獣人、狼獣人、猫獣人との接触を禁止します。彼らについては、今すぐこの首都からの追放を命じます。そして、羊獣人については・・・その身柄を拘束します。すぐ、首都にいる羊獣人については、その身を捕らえなさい。各地の羊獣人については、このアフロディーテへの護送を命じます」

教皇は壇上の席からゆっくりと階段を降りてくる。そして、イマーニたちの前までやってくると、一人一人の手を両手で握りしめる。

「三人とも、よくやってくれました。これで、人族は救われます」

「もったいないお言葉でございます・・・」

三人はあふれ出る涙を拭おうともせず、感涙にむせんだのだった。

その夜、教皇は執務室の机で積み上げられた書類に目を通していた。その時、ふっと頭の中にある考えが浮かんだ。

「そういえば・・・アガルタ王には羊獣人の妻がいましたか・・・。天道に従う国か、叛く国か、見極めるいい機会かもしれませんね・・・」

誰に言うともなく教皇は呟く。その顔は柔和な笑みのままではあるが、その目の奥は怜悧な光が宿っていたのだった。
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