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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第六章 アガルタ国編

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第百四十九話 言葉にできず、ただ泣き濡れる

9月も終わりに近づいている。普段であれば、秋の気配が漂うのだが、今年のアガルタは、まだ暑さが残っている。

約二か月前から開始された迎賓館の建設は、ほぼ完成に近づいている。職人たちの腕が抜群によかったのもあるが、ここひと月は、職人同士の腕比べが暴走気味で、ほぼ突貫工事となっているのも影響しているようだ。

リコはようやく安定期に入り、数日前からアガルタに出勤してくるようになった。これまでも、三日に一度は顔を出してはいたが、俺のお願いでほぼ実務には携わらず、本当に顔見せ程度にしてもらっていた。まあ、後から聞くと、俺の知らない所でかなり仕事を手伝っていたようだが。

リコの妊娠が分かった時から、俺は彼女が担っていた行政業務が滞ることを覚悟していた。しかし、それは杞憂に終わり、フェリスとルアラが中心となり、スタッフ一丸となってその穴を見事に埋めてくれている。

その中でも頭角を現しているのが、マルノアとセオダルとウェルネの三人だ。

マルノアは、フルチン野郎が攫ってきた女の一人である。かなり深い心の傷を負っていたが、リハビリを兼ねてフェリスとルアラの仕事を手伝っているうちに、とてつもない能力を身に付けていることがわかった。今では、彼女らにスカウトされる形で働いてもらっている。その能力とは暗算であり、とんでもない桁数の計算を一瞬で終える。しかも、抜群に正確である。

セオダルは、都の人々との太い人脈を持つ男であり、私利私欲がなく、都の人々の声を拾い上げて、それを政策として反映している。どこかの国の国会議員に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいの働きぶりである。

そして、ウェルネはあの、サラセニア伯爵の娘である。彼女は父の反対を押し切って、家出同然で都にやってきた。16歳という年齢にふさわしく、彼女は恐れを知らず、実に行動的だ。いきなり俺に面会を申し込むと、言ってのけた言葉が男前だった。

「一か月間、私をここで働かせてください。お金はいりません。一か月経って役に立たないと思われるのであれば、大人しく父のもとに帰ります。その代り、食事と寝る場所は与えてください」

凡そ貴族の娘とは思えない言葉に、さすがの俺もひるんだが、なかなか面白そうだったので、一か月間、彼女を雇ってみた。昭和の「モーレツ社員」の如く、彼女は貪欲に仕事を覚えていった。元から事務仕事に適性のあったためか、今ではフェリスとルアラの妹分として活躍している。なにより、下級貴族の事情に明るいので、その考え方や嗜好などをアドバイスしてくれる。ゆくゆくは、まだ俺に従わない貴族たちの窓口になってくれればと期待している。

国の実務に関しては、この5人が実質切り盛りしており、後は折に触れてやってくる領主たちが、意外にいろんなことを手伝ってくれている。

「フェリスたちが、あんなによくできるとは思いませんでしたわ」

ある時リコが彼女らの仕事を見て、フッと俺に漏らした。

「フェリスたちは、リコがやっていたことを真似てるだけだって言ってたよ?」

「私は、あそこまでの仕事量はこなせませんでしたわ」

「いや、リコが彼女らを育てたんだよ。リコがいなければ、今のフェリスたちはなかった。リコのお蔭だよ」

「そんな・・・。でも、私はもう、引退ですわね」

リコは寂しそうに呟いた。

「何言ってるんだ。これからリコは子育てという仕事が待ってるじゃないか。本当に頼むよ?丈夫な子を産んでくれよ?」

「そうですわね。頑張りますわ!」

とびっきりの笑顔を見せて、リコは愛おしそうに自分のお腹を撫でた。

安定期を迎えたリコの今の仕事は、迎賓館の内装についての打ち合わせだ。彼女の一流のセンスで迎賓館の内部が、粋で洗練されたものになりつつある。町の業者や大工たちと打ち合わせをするリコは、とても楽しそうだ。

そしてリコは同時に、新しい妻たちが入る予定である後宮についても、打ち合わせを始めている。

コンシディー公女もソレイユも、当初の予想通り、数名の従者を引き連れて輿入れしてくることになった。特にコンシディーには、女官長のミンシを筆頭に、20名もの侍女を連れてくる。対してソレイユは、アステスを筆頭に10名のサイリュースを連れてくる予定だ。

既に都にはミンシとアステスがやってきており、建設途中の迎賓館を見ながらいろいろと打ち合わせを行っている。

さすがにリコ一人では負担になると考えた俺は、現在ホテルクルムファルの総支配人である、リコの側近中の側近であったクエナにサポートをお願いした。彼女は喜んでアガルタに転移してきた。

色々と相談の結果、後宮の女官長にはクエナが就任することになり、ホテルクルムファルのスタッフの一部を後宮に入れることになった。現在は、行儀作法についての打ち合わせをクエナ、ミンシ、アステスが中心になって行っている。

そして、コンシディーとソレイユたちについては、それぞれの寝室は用意するが、基本的に帝都の屋敷で普段の生活は行うことになった。要は、朝、迎賓館に出張し、夕方になったら屋敷に戻るというサラリーマンのような生活を送ることになる。外部の目をごまかすために、それぞれの部屋に屋敷に通じる転移結界を張ることにし、基本的に結界について知る者は、クエナ、ミンシ、アステスの三人だけとすることにした。

ミンシはさすがに反対したが、コンシディー本人が希望していることを伝え、様子を見てもらうことになった。


そんな忙しい日々を送っていると、いつの間にか俺は21歳になっていた。


一部の者たちは、大将てぇしょうの誕生日だ、一つ、樽酒を積んで、芸者を呼んでドンチャン騒ぎといこうじゃねぇか!と景気のいい提案をしてくれたが、それは丁重にお断りした。寧ろ、迎賓館の完成の時に、思う存分ドンチャン騒ぎをしてもらうことにしたのだ。

そしてある日の夜、夕食を食べようと食卓に座った時、皆が俺にサプライズをしてくれた。

「リノス、お誕生日おめでとうございます」

リコの発声を機に、皆が口々に祝いを述べてくれる。そして、リコから小さな箱を手渡された。

「これは?」

箱を開けてみると、そこには真っ白に輝く石が埋め込まれたネックレスが入っていた。

「真ん中に光る石は、ダイストという石ですわ」

「ダイスト?」

「はるか北方にある、ストレンジ島のダゴイ火山の火口付近で採れる石ですわ。ストレンジ島は創造神ヒルムが降り立った地と言われていて、そこで採れるダイストは聖なる力を宿すと言われているのですわ」

「そんなに貴重な石なら、さぞ高かっただろう」

「いいえ。お金はかかっていませんわ」

「じゃあ、どうしたんだこれ?」

「ジェネハが採ってきたのですわ」

ジェネラルハーピーのジェネハが、わざわざ行って採って来てくれたらしい。そういえば、最近姿が見えず、イリモに聞くと狩りに出ていると言われていたので別段気にも留めていなかったのだが、まさかこんなことをしていたとは驚きだ。

しかもさらに驚くことに、普通であれば人がストレンジ島に行くためには1年は悠々かかる距離なのだが、ジェネハは何と10日間で往復したらしい。

「・・・ジェネハって、すげぇんだな」

「今そこに気が付いたんですか?」

フェリスが目を丸くして驚いている。

「ジェネハ殿の飛ぶ速さは、ハヤブサの倍以上の速さで、しかも長時間飛ぶことができるでありますー」

・・・まさかそんな能力があったとは。ジェネハには、ごちそうをたんと持っていくことにしよう。

ジェネハが採ってきたこの石は、メイの手で磨かれ、ネックレスとして製作されたのだという。メイ曰く、石が余っていたので他にも三つ、小ぶりのネックレスを作ったとのことで、これは新しく妻に迎えるコンシディーらにあげて欲しいのだという。

「ありがとうな、メイ。式典だけじゃなく、肌身離さず身に付けさせてもらうよ」

そう言って俺は早速、ネックレスを身に付けた。

「メイ、まだ石は余っているのか?だったら、いつでも構わないから、リコとメイの分も作ればいいよ。皆で、おそろいのネックレスをしよう」

メイはリコと顔を見合わせ、そして申し訳なさそうな顔をして答える。

「申し訳ございません、ご主人様。それは・・・いつになるのか、わからないです」

「何でだ?・・・ああ、メイも忙しいもんな。ゴメン、悪かった。今のは忘れてくれ」

「リノス、メイは作りたくても、作れないのですわ」

「何だメイ、どうした?怪我でもしたのか?」

「いいえ。メイには既に、出来ているのですわ」

「なんだ、じゃ、後はリコの分だけってことか。そうか、リコは・・・子供が生まれて、子育てがひと段落した時にってことか?そうだな。今ネックレスをすると、首に絡まる可能性があるし、生まれてすぐだと子供に引きちぎられるかもしれないしな。メイ、本当にいつでもいい。いつでもいいからな」

「私はもう、ちゃんと出来ていますわ」

リコがニッコリと笑う。俺は何の事だかわからず、首をかしげる。そんな俺を見てメイが申し訳なさそうに口を開く。

「ご主人様、私もその・・・できました」

「だから・・・」

「察しが悪いですわ、リノス!メイも、私と同じになったのです」

リコは自分のお腹を優しくなでる。

「うん?それって・・・まさか・・・」

「この間、リコ様の診察に来られたローニさんに診てもらいました。そしたら・・・もうすぐ三か月になるらしいです」

「う・・・う・・・え・・・あ・・・」

言葉が出てこない。

「ご主人、おめでとうございますでありますー」

「ご主人様、おめでとうございます!」

「師匠、おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

口々に皆が大喜びで、俺に祝いを言ってくれる。そして、メイにも同じように皆からお祝いを言われている。

俺は嬉しさのあまり両手で顔を押さえて、ただただ、泣くことしかできなかった。
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