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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第六章 アガルタ国編

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第百四十一話 モンスターペアレント

ラマロン皇国の皇都は、数日前からの雨が未だやまず、ぐずついた天気のままであった。その鬱陶しい天気そのままの、重苦しい雰囲気が宮殿内の一室を支配していた。

その部屋には四人の人間がおり、そのうちの二人は首を垂れている。そして、その二人を、まるで汚いものを見るかのような視線を投げかけているのは、ラマロン国皇太后、ラマロン・クロウ・レイシスである。そして、その母に心配そうな視線を投げかけているのは、ラマロン国皇帝、ラマロン・クロウ・フレインスである。

「面をお上げなさい」

皇太后は、情を一切感じさせない、冷たい声を二人の男に投げかける。それを受けて男たちは、ゆっくりと顔を上げる。ラマロン国宰相のマドリンと、軍総司令官のカリエス将軍である。

「将軍、息災そうですね?」

皇太后の、感情を一切出さない顔と声。しかし、それだけに、彼女の腹の中に渦巻く沸々とした怒りが、彼らには手に取るようにわかる。そんな雰囲気の中、宰相のマドリンは肥った体を大儀そうにゆすりながら一歩前に進み出る。

「恐れながら、この夏の収穫につきましては、絶望的でございます。加えて、秋の収穫に付きましても、昨年とほぼ同じ程度の収穫量しか見込めません。誠に恐れ多いことではございますが、宮殿内に備蓄しております兵糧を、民にお恵みいただきますようお願い申し上げます」

「宰相・・・それは、どうにもならんのか?」

皇帝が眉間にしわを寄せて尋ねる。マドリンはさらに畏まるようにして体を曲げる。

「誠に恐れ多きことながら。こればかりはいかんとも・・・」

皇帝は目を閉じて天を仰ぐ。時が止まったかのように、誰も動かない。しばしの沈黙が訪れるが、それを破ったのはやはり、皇太后の声であった。

「将軍、何か言うことはないのか?」

カリエス将軍はキョトンとした表情を浮かべながら、答える。

「私が、でしょうか?あいにく、私は政治的な話は・・・」

「宰相が食料不足のために、宮殿内に備蓄している兵糧を民に与えよと申しています。これを聞いて、何か言うことはないのですか」

「天気、天候は我々の力の及ぶところではございません。ここは、我らが主神様であらせられる・・・」

「おだまりなさい!」

皇太后の一喝が部屋の中に響き渡る。一瞬、時が止まる。

「元はと言えば、アガルタに送った軍が、食料を持ち帰らなかったことが原因ではありませんか!それが上手くいってさえすれば、このようなことにはならなかったはずです!将軍、貴方は総司令官として責任を感じないのですか!」

カリエス将軍はふぅと息を吐き、再び姿勢を正して腰を折る。

「恐れながら、立場上の責任を取ることは吝かではありませんが、私の与り知らぬところで立てられた作戦につきましては、責任を負いかねます」

「あなたは一体・・・自分が何を言っているのか、分かっているのですか!」

「どのような作戦であれ、敗北すればその作戦は失敗と歴史に記されます。そして、誰が立てた作戦であっても、それは皇帝陛下のご失政と歴史に残るのです。皇太后陛下、誠に僭越ではございますが、ジゼウの作戦失敗は実にお気の毒様でございました。ジゼウにつきましては、これも、私も宰相殿も与り知らぬ所で処断が下り、処刑されてしまいました。作戦失敗の責任はジゼウにもありましょう。彼は処刑されてその罪を償いましたが、しかし、それでも、陛下のご失政という汚点は消すことが出来ません」

カリエス将軍は怒っていた。さすがにそれを表に出すことはしない男ではあったが、しかし、言葉の端々に彼の怒りは見て取れた。皇太后は目を見開いて聞いていたが、やがていつものような表情に戻り、静かに言葉を発する。

「では、陛下の汚点を消すためには、どうすればよい?将軍?」

「その汚点を上回る成果を上げることかと愚考いたします」

皇太后は満足そうに頷く。

「では、将軍。その成果とやらは、どう上げるのです?」

カリエス将軍は、顔を上げ、皇太后を真っすぐ見据えて返答する。

「まずは、軍の再編をいたします。しかる後、私自ら一軍を率いてアガルタに向かいます」

皇太后は大仰に驚いたような顔をする。

「将軍自らアガルタに向かう、というのか?」

「はい。アガルタにはラマロン皇国軍兵士2000が捕らわれております。それを解放するための交渉として赴きます。そこで私がアガルタ王に謁見し、その場で王と刺し違えます」

「将軍、それは・・・」

宰相のマドリンが口を挟む。しかし、カリエス将軍の気迫に押され、マドリンも絶句している。

「ホホ、ホホ、オホホホホホホ」

皇太后の笑い声が響き渡る。そして彼女は、いつもの表情に戻る。

「それで?」

「アガルタ王と刺し違えました後は、皇国軍が一気にアガルタになだれ込み、素早く占領いたします。その後、アガルタの食料を接収しまして・・・」

「もうよい!」

再び皇太后の一喝が部屋に響き渡る。

「そのような荒唐無稽な話、誰が取り上げましょうか。万に一つ上手くいったとして、そもそも、アガルタに捕らわれている者たちをどうするつもりなのです?まさか、皇国に連れ帰るのではあるまいな?一旦、おめおめと敵の軍門に下った者たちの帰参を認めるのですか?それこそ皇国の恥、陛下の治世の汚点となるは必定。ただでさえ皇国内では食料が不足しているのです。捕らわれている者たちが帰参すれば、それだけ食料が必要になるのでしょう?そのような話は認められません」

さすがに宰相のマドリンが一歩前に進み出る。

「お言葉ながら皇太后陛下、捕らわれし者たちを迎え入れることが、何でご失政になりましょうか。寧ろ、徳厚き皇帝として未来永劫称えられることかと存じます」

皇太后はマドリンの顔をじっと見つめる。

「宰相がそこまで言うのならば、勝手にするがいいでしょう。しかし、軍の再編を行いつつ、その作戦を実行するのは、少々無理があるのではないか?将軍、そなたは、軍の再編に全力を挙げるがよろしいのではありませんか?」

「し、しかしお母上様、そんなことをすれば、我が皇国軍全軍の指揮が疎かになります」

さすがに皇帝が口を挟む。皇太后は満足そうに微笑みを湛えながら頷く。

「さすがは陛下。よくぞそこにお気づきになりました。それならば、全軍を統括する司令官を置けばよいのです」

「お母上様、全軍を統括する指揮官とは?」

「ご安心ください、陛下。誠にふさわしい人材がおります」

皇太后はポンポンと手を叩く。すると、後ろの扉が開き、きらびやかな軍服を身に着けた青年が入室してくる。

「お召しにより罷り越しました。ケーニッヒ・ラフェンテでございます」

ケーニッヒと名乗る見目麗しい青年は片膝をつき、恭しく首を垂れる。その青年に皇太后は、満足そうな眼差しを送っている。皇帝は笑みをこぼしながら、

「おお!ケーニッヒ公爵か!皇都防衛軍の司令官である公が、軍を統括するか。それならば朕も安心だ」

皇太后は鷹揚に頷く。

「ケーニッヒ公爵は、私の姪を母に持つお方。言わば、私の妹の孫に当たります。これは、誠に恐れ多きことながら、陛下と公爵様には同じ血が流れております。公爵様ならばきっと、陛下のお心をお汲み取りになり、御意に沿うような働きをいたしましょう」

「さすがはお母上様だ。ケーニッヒ公爵、そなたをラマロン皇国統括司令官に任ずる。これからのこと、よろしく頼む!」

「畏まりました」

ケーニッヒ公爵は恭しく一礼する。

「時に公爵様、先ほどのカリエス将軍のお話は、聞かれましたか?」

皇太后の問いかけに、公爵は毅然として答える。

「はい。総司令官殿の作戦は見事かと存じます。この上は、皇太后さまのご命令通り、軍の再編に注力されるのがよろしいかと存じます」

しかし、皇太后はゆっくりと首を振る。

「いやいや、私は軍に関しては不案内です。判断は、あなた方がして下さい」

公爵はにっこりと笑う。

「畏まりました。それでは、私の判断で、カリエス将軍は軍の再編成に注力していただきましょう。ちょうど、ジゼウ元司令官の部隊の後任がまだ決まっていませんね。カリエス将軍にはまず、ジゼウ元司令官の部隊の再編を担っていただきましょうか。その後、将軍の作戦を決行されるのがよろしいかと思います。いかがですか?」

公爵に顔を向けられたカリエス将軍は、彼を一瞥して、一切の感情を込めずに答える。

「ああ、いいだろう。そうさせてもらおう」

ケーニッヒ公爵はニヤリと笑い、

「私も、アガルタを揺さぶる策を考えてみましょう。民を飢えさせることは私の本意ではない。思いはひとつです。お互い、協力してやっていきましょう!」

「ホホホホホ、さすがは公爵殿。やはり、ラマロン軍はこうでなくてはならぬ。これで皇国軍は一枚岩になれました。陛下、これでしたら、宮殿の兵糧を民に与えてもよいのではありませんか?」

「ああ、そうですね、お母上様。マドリン宰相、宮殿に備蓄している食料を供出することを許す」

「・・・ありがとう存じます」

マドリンはゆっくりと頭を下げる。

「何と慈悲深い皇帝陛下であられますこと。陛下のこの善政は、未来永劫語り継がれることになりましょう。ホホホホホ」

「その通りでございます。皇太后陛下」

皇太后と皇帝、そして公爵が、それぞれ満面の笑みを交わす。その横で、マドリン宰相とカリエス将軍は無表情のままで首を垂れ続けていた。

外の雨は勢いを増し、雨粒が宮殿の屋根を激しく打ち付けていた。
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