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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第五章 新・ジュカ王国編

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第百三十一話 考え方ひとつで見え方は変わる

目の前の陛下はニヤリと笑っている。俺は崩れそうな体を何とか踏ん張って耐えている。

「今後の国家の有り様については、朕も相談に乗る。いつでも相談に来られよ」

「お、恐れながら!・・・それにつきましては、私では務まりません。謹んでご辞退させていただきます」

思わず俺は言い放っていた。周囲がとんでもなくざわついているが、んなものは関係ない。誰が好き好んで、国王などになるものか!

「相変わらず名誉侯爵殿は遠慮深いの。ああ、言わんでもよい。そなたの妻、リコレットに遠慮しておるのであろう。安心せよ。リコレットには朕からよく言い聞かせておいた。この褒賞についてはすでに、リコレットも承知の上じゃ」

は?リコも承知?そんな話一言も聞かなかったぞ?どういうことだ?

「恐れながら、まだ妻とは相談しておりませず・・・。妻が宰相と言うのは・・・」

陛下はハッとしたような表情を浮かべる。

「これは朕としたことが!確かに、リコレットは王妃とならねばならぬ身。王妃が宰相を兼任するなど前代未聞じゃ。これは朕が誤りだ。ハハハハハ」

カラカラと陛下は声を上げる。周囲の貴族も笑い声が漏れている。そして、貴族たちはガヤガヤと話を始める。そのどさくさに紛れて陛下はその場を後にした。

「国王とは・・・大した出世ですな」

隣のライッセンが憎々しげに俺を見る。知らねぇよ。俺が望んだもんじゃねぇんだ。こっちだって迷惑してんだよとヤツを睨み返す。

俺は振り返ってリコを見る。申し訳なさそうな顔をして俺とは目を合わそうとはしない。何故だリコ。俺がそんなことを望んでいないのはお前が一番よく知っているだろう。

俺はリコの下に向かおうとする。その瞬間、会場を警備している近衛兵の一人が俺の背後から声をかけてくる。

「名誉侯爵様。陛下がお呼びです」

俺は兵士を睨みつける。しかし、彼を睨んだところで何も変わらない。俺は気を取り直し、陛下に一言文句を言うために兵士の後に従った。


「ご苦労だったの」

微笑を湛えた陛下が悪びれもなく俺に話しかける。

「陛下!何なんですあれは!」

「失礼いたします。リコレット様がお見えになりました」

申し訳なさそうな顔をしてリコが入室してくる。

「リコ!何でだ!」

「・・・ごめんなさい」

リコは泣きそうな顔をしている。

「まあ、リノス殿、座れ。リコレットを責めるのは、余の話を聞いてからでも遅くはあるまい?」

俺は渋々ながら、陛下の前に置かれた椅子に座った。そしてリコも隣の椅子に座る。

「さて・・・何から話せばよいかの。まあ、一言でいえば、リノス殿をジュカの国王にするのは、帝国にとってちょうど良いのだ」

「ちょうど良い?」

「考えてもみよ。ジュカの王都を落としたのは、我が帝国なのだ。王都をこのまま捨ておくわけにはいくまい?」

「・・・」

「国を併呑するとなると、侵略された国の国王以下、一族を皆殺しにしてしまうのが常なのだが、ジュカは事情が違う。既にラマロンに一度蹂躙されている。そして、ラマロンは討伐され、ジュカの内乱の元凶になった者も討伐されていると聞く。それをやったのは、我が帝国であり、リノス殿だ」

「だからと言って俺が・・・」

「まあ、聞け。ジュカに傀儡の政権を作ることも考えたが、それをするためには事前の根回しが必要になる。今回の侵攻はそれをしている暇がなかった。そうなれば、帝国より管理する者を遣わさねばならん」

リコが俯きながらそっと俺の手を握ってくる。

「貴族と言うのは、己の家を守ることのみに執着する。どの家を任じても、互いに足の引っ張り合いをするであろう。しかし、リノス殿であればそれが解決する。何せ帝国貴族のしがらみがない。さらに、王都を寡兵で落とした張本人であり、クルムファルとニザ公国を復活させた手腕もある。・・・いや隠さんでもいい。その家臣たちを使っている手腕を買うのだ。その実績であれば、帝国の貴族は今回の論功行賞に納得するだろう」

陛下はふぅと一息をつき、さらに言葉を続ける。

「宰相にリコレットを推薦したのは、リノス殿が最も信頼し、その片腕となるにふさわしい人材だと思ったからだ。そして、ラファイエンスだ。かの者は軍制を組織することに抜群の才能を持っておる。余が帝国内で最も信頼する男と言ってよい。その者を、リノス殿に預けるのだ。軍に関してはあの男に任せておけばよい。一度部下に謀られているが、それ以降はスキが無くなりおった。言ってみればリノス殿への最大の褒美は、ラファイエンスだの」

「しかし、俺は国王などは・・・」

「リノス殿が動く必要はない。要はいかに担がれるかだ。見たところリノス殿には良い人材が集まるようだ。おそらく、ジュカにリノス殿があれば、良い人材がジュカに集まろう」

「そんなぁ」

「人・金・モノの支援は惜しまぬ。先ほども申したように、帝国の人材はいくら活用してもらって構わん。クルムファルもそのままでよい」

「完全に、拒否権はなさそうですね」

「ウム。帝国としてはこの論功行賞を受けてもらわねば困るのだ。リノス殿がジュカにあれば、帝国がジュカを併呑したことを内外に示すことができる。しかも余の義弟が統治するのだ。帝国の版図は大幅に広がり、国威は大きく上昇する。それどころか、両国に挟まれたニザ公国は後顧の憂いが無くなり、復興に全力を注ぐことができる。そして、南のラマロンにも大きな脅威を与えることができる。戦略的には一石二鳥にも三鳥にもなるのだ」

リコの俺の手を握る力が強くなる。リコ、痛いよ。

「ジュカに関してはリノス殿の好きにしてもらって構わん。まあ、年に数回は帝都に顔を出してほしいがの。リノス殿ならば無理な政治はせぬであろうし、荒廃した国内も復興させてくれるであろう。余にできることならば何でもするぞ?どうだ?」

「リノス・・・」

目を真っ赤にしたリコが俺に話しかけてくる。

「リノスが居れば、本当に民が幸せに暮らせる国が作れると思いますわ。私も兄上からこの話を聞いたときは即座にお断りしたのです。でもよく考えてみると、リノスなら人間も獣人も、魔物も、貴族も軍人も職人も商人も・・・皆が幸せに暮らせる国が作れると思ったのです。きっと、メイも、ゴンも、ペーリスも、フェリスも、ルアラも、クノゲンたちも・・・皆がリノスを支えてくれるはずですわ」

「そんな・・・自信ないよ」

「私はリノスと結婚してとても幸せですわ。きっとそれは一緒に暮らす皆も同じです。こんな幸せな国が作れたらどんなに素晴らしいか・・・。とても理想論であることは承知しています。失敗するかもしれません。でも・・・」

「よーし、分かった」

陛下が突然声を上げる。

「もし、ジュカで何かが起こったら、余が全ての責任を持とう。ただし、余と宰相のグレモントが生きている間だけだがな。リノス殿は以前余に言ったではないか。不安に負けてはならぬと。強気でいかねばならぬのではないのか?」

意地悪そうな顔をして陛下は微笑む。

「失敗したらその時はその時じゃ。その時考えればよいのじゃ。国王になる機会はそうそうあるものではないぞ?今ならねばいつなるのじゃ?世界中に国王になりたくてもなれぬ者が多くいる中で、リノス殿はその機会を得た。それを生かそうとは思わぬか?モノは考え方次第だぞ?」

「・・・まさか陛下にそんな説教をされるとは思わなかったです」

「・・・国王の話、受けてくれるな?」

「拒否権はなのでしょう?ならば、やるだけ、やるしかないじゃないですか」

「そうとなれば、決まりじゃ!」

陛下は立ち上がり俺を促して再び晩餐会の会場に向かった。

「皆に改めて紹介する。ジュカの新しき王となる、バーサーム・ダーケ・リノス殿じゃ。今後、帝国とジュカは従属関係ではない、対等な、兄弟同様の付き合いをしていく。余の義弟殿じゃ、皆も助けてやってくれい」

参列している貴族が恭しく首を垂れる。

「新国王様、このラファイエンス、新しき国の始まりに共に立てますこと、歓喜に堪えません。今後はこの身命を賭して仕えさせていただきます」

俺の前に進み出たラファイエンスが片膝をつき、頭を下げる。まだコイツを受け入れると決めたわけではないのだが・・・と考えていると、老将軍はスッと顔を上げ、俺にニヤリと笑い、ウインクを飛ばした。

「将軍、今後とも、よろしくお願いします」

「ハッ!」

相変わらずいい声だ。そして老将軍の横にはいつの間にかリコが控えていた。

「我が夫、そして新国王陛下、私も身命を賭してお仕え申し上げます」

「皆の者、今宵はめでたい宴じゃ。存分に楽しんでくれ!」

陛下のよく通る声が、広いパーティ会場に響き渡った。


「・・・本当に大丈夫かなぁ」

屋敷に帰る馬車の中で俺は呟く。今日はイリモを使わず、宮城きゅうじょう からの迎えの馬車を使ったのだ。あの後、帝国の貴族たちの売り込み攻勢にあって、逃げ出すのに苦労したのだ。リコが上手く裁いてくれなければ、俺は発狂していただろう。

「大丈夫ですわ、きっと」

リコが俺の手を握る。

「・・・私のこと、嫌いになりまして?」

「なるわけないだろう。俺はリコが居ないと生きてはいけないんだ」

「それは、私もですわ」

「これからどんなことが起こるか分からないけど、やるしかないんだよな。どうしてこう、俺は厄介ごとを引き寄せるんだろう?」

「その厄介ごとを全てやり遂げてきたではありませんか。それに、リノスは、私が全力で守りますわ」

「頼もしいな。リコが奥さんで本当によかったよ」

「私も、リノスが夫でよかったですわ」

俺はリコの手を再び握り返した。そして俺たちは屋敷に着くまでの間、その手を握り続けた。
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