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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第五章 新・ジュカ王国編

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第百十五話  王都の惨状

王都の空が白み始める。いつもと変わらぬ朝。冬の寒さは和らいでいる。しかし、王都に住む住人の心は凍えたままだ。

昨夜も何やら騒動があった。何十名もの兵士が北に向けて騎馬で通り過ぎていった。西門からまた、軍勢が出撃していったようでもある。こうした夜の後は決まって、新しい死体が往来に転がっているのが、ここ最近であった。場合によっては、城壁に吊るされている場合も多くあった。

恐る恐る家の扉を開けた住民たちは、王都がいつもと違うことを敏感に感じ取った。町の中にいつも停滞している「殺気」のようなものが感じられなかったのだ。

兵士に見つからないように外に出て見ると、住民たちは驚愕する。今まで自分たちを苦しめてきた黒騎兵たちが、大きな穴の中に放り込まれていたのだ。それだけでなく、南門では、夥しい黒騎兵たちの死体が、まるで魚のように整然と並べられていたのだった。

そしてそこには、見たこともない冒険者風の男数名と、大きな立て札が建てられていた。そこにはこんなメッセージが書かれていた。

「本日をもって、この王都はヒーデータ帝国が解放しました。これまでのご苦労は察して余りあると思います。今後は、我々がこの王都を守っていきます。ご安心ください。決してむやみな殺生や略奪は行いません。食料は十分にあります。まずは、今日の昼に炊き出しを行います。よければお越しください。  場所:北門前(ただし、食器持参のこと)

バーサーム・ダーケ・リノス」


夜明けとともに俺は屋敷に転移する。そして、リコたちに炊き出しの準備をお願いする。皆、こうなる予想はあったようで、まずは、クルムファルとニザ公国から集められるだけの食材を、メイとリコが担当となって、集めてくることになった。屋敷ではペーリス、フェリス、ルアラが米を炊き、片っ端からおにぎりを拵えていく。

それを見ながら俺は宮城きゅうじょう へ向かう。まだ宰相閣下は出勤していなかったが、陛下にはすぐに直接会うことができた。

「・・・相変わらず、素早いの」

「ええ。全ての作戦が予想以上にうまくいきましたので」

「よくやってくれた。今は何をすべきかの?」

「取りあえず、王都の抑えとして帝国の兵が入った方がいいでしょう」

「いや、それは王都民の心を逆なでするだけじゃ。やめた方がよい」

「どういうことでしょう?」

「考えてもみよ。これまでラマロンに蹂躙されてきた王都民なのだ。鎧を着た兵士たちへの恐怖は想像以上のものがあるであろう。しばらくは、リノス殿の手勢で王都を抑えてもらいたい」

「・・・しかし、治安などが」

「悪くなるようであれば、帝国の兵を入れよう。それまでは、何とか頼みたい。その代り、必要なものがあれば、何なりと言ってもらって構わぬ」

何だかうまく陛下に言いくるめられたような形で部屋を後にする。まあ、王都を見る限り衛生的には良くなさそうなので、落ち着いたら医者や大工などをまとめて借りる必要がある。その時は勅命でも発してもらおうと、自分に納得させて屋敷に戻った。

屋敷にはリコもメイも戻ってきており、炊き出しの手伝いをしていた。クルムファルもニザも、大量の食糧を調達することに成功したようだ。その報告を聞いて満足した俺は再び王都へ転移する。

北門前では、人化したゴンとクノゲンの部下たちが炊き出しの準備をしていた。俺は彼らの労をねぎらいながら、非常用の弁当を出してやる。そして俺は、南に向かって王都を歩き出した。

城壁には何人もの人が吊るされている。それを兵士たちが一人一人と下ろしていた。その下の、元々は広大な耕作地であったところには、夥しい死体が放置されていた。男も女も老いも若きもあらゆる世代の人々の遺体がそこにあった。

余りの光景に思わず住宅地の方に目を向ける。元々建っていた家に交じって、バラックのような掘っ立て小屋もあちこちに見える。子供の姿が見えたが、俺を見てすぐにどこかに逃げてしまった。

そのまま俺は商人街に入る。西門の様子を見ると、倒したラマロン兵は既に俺が掘った大穴に放り込まれていた。かなり広く、深く掘ったのだが、数百人分がそこに入っているために、ほぼ満杯の状態だ。西門は閉じられており、数人が門とその上の城壁に配置されていて、外部からの侵入に目を光らせている。既にゴンは兵士たちに付いた呪いを除去してくれたようだ。彼らに労いの言葉をかけて、保護された女たちの屋敷に向かう。

女たちは悲惨だった。体の傷は癒えても、心の傷は癒えていない。俺の姿を見ると全員怯えた表情をし、体を震わせた。

「我々にも、こんな反応です。丁寧に接しているのですが・・・」

「まあ、仕方ないだろう。お前たちもすまないが、頼むな。女たちに食欲はあるかどうかわからんが、弁当を置いていく。朝めしだ、食ってくれ」

そう言って屋敷を後にする。そしてそのまま歩を進めた俺は、南門の王国軍本部の建物に着いた。その最上階、おそらくラマロン軍の司令官が居たと思われる部屋に、リシマをはじめとする、クノゲンの部下たちが休息していた。

「ここから見ると、壮観だな」

「ええ、魚を並べているみたいです」

「でも、はやく片づけないと、また臭いがえらいことになるな」

「そうですね。明日には片づけませんと」

「また、みんなには働いてもらわなきゃならないな」

「侯爵様、あのくらいなら、全然仕事のうちに入らないですよ」

そう言ってクノゲンの部下たちは笑う。

「まずは、ご苦労だった。メシを置いていく。これを食いながらゆっくり仮眠などして休んでいてくれ。あと、見張りに出ている奴らにも残しておいてやれよ?」

そう言って俺は転移結界を張り、ルノアの森に転移した。

『すまなかったな、お前たち。朝めしがまだだったな』

『それで、作戦の方は・・・?』

『成功だ。全くの被害を出すことなく、勝利を手にすることができた』

『さすがご主人様です』

『サダキチ、お前らにもう一つ仕事だ。朝めしを食ったら、王都に飛んでもらいたい。そして、あそこから出る異臭を抑える粉を撒いてもらいたい』

『お安い御用です』

『そして、しばらくは交代で王都の周囲を見張れ。怪しい者が居ればすぐに報告するように。あと、この国の中で気に入った場所があれば言え。そこにお前らの住まいを作ってやる』

『かしこまりました!』

フェアリードラゴンたちも随分と連携が上手になってきた。コイツらにはマジで働きに報いるものを与えてやらねばならない。

そんなことを考えつつ、再び帝都の屋敷に転移する。

屋敷では、ものすごい量のおにぎり、野菜のスープ、コロッケが出来上がっていた。

「リノス、もうダイニングでは置き場所がありませんわ!」

「わかった、王都へ持っていくよ!」

俺は休む間もなく、出来上がった炊き出し用の食材を王都へ運ぶべく、転移を繰り返した。

炊き出しを開始した当初は訪れる王都民が少なく、もしかして皆殺しになったのかと不安になったが、飯を食ったヤツから口コミで噂が広がったようで、北門には数百の王都民が押し寄せて、押すな押すなの大騒ぎになった。皆、服がどこかしら汚れていたり、破れていたりしている。だが、次から次へと運ばれてくる救援物資を見て、並んでいる王都民が歓声を上げる。元気はありそうだ。

リコを筆頭に皆、休みなしのブッ通しでやっているお蔭で、かなりスムーズに炊き出しは行われている。そんな中、列整理をしている俺のところに一人の老人が歩いてきた。

「リノス様かな?」

「ええ、そうですが」

「覚えておいでかな?肉屋の亭主だ」

「・・・ああ!ファンネルさん!」

ルノアの森で狩った魔物の肉を売りに行っていた肉屋の主人だった。以前とは比べ物にならないほど年老いている。俺は、これまでのことを聞いていく。

俺が王城をブッ壊した後の王都は、生き残ったカルギ派の一部貴族が私兵を入れて何とか統治を開始した。ほどなく、王国内では内乱状態になったが、王都に関しては基本的に全ての城門を閉じて「鎖国」の状態としていたらしい。これが幸か不幸か、王都民の流出を最小限に食い止めることができた。加えて、大魔王が降臨したという噂も相まって、王都には誰も手を出さなかったのだという。

食料については、王都内の広い穀倉地帯のおかげで、何とか餓死しない程度の食料を確保することが出来ており、王都に残った冒険者などがルノアの森に入って狩をしていたこともあって、何とか命を繋ぐことが出来ていた。

最初こそ、大魔王を恐れて脱出を図ったり、発狂したりする者、略奪や狼藉を働く者もいたが、ようやく王都内も落ち着いてきたところに、ラマロンの軍勢が侵攻してきた。南から攻め上ってきたラマロン軍は、瞬く間に南部の紛争地帯を平定し、全ての住民を殺害したのだという。そして、王都に侵攻してきた。

兵士と冒険者の連合軍は良く戦ったらしいが、所詮500人程度の烏合の衆である。たちまち崩れた城壁の一部から侵入を許し、あっという間に蹂躙されてしまった。戦いに参加した者たちは全員殺され、あるいは生きたまま死ぬまで城壁に吊るされたのだという。

ラマロン兵は、最初こそは抵抗しない者には危害は加えないと約束したが、程なく食料の略奪が始まり、女たちは襲われ、拒否したり抵抗したりしたものは問答無用で殺された。

「・・・しかし、あんた達は、信用できそうじゃな。儂ら住民に食料を与えられたのは、初めてじゃ」

「俺たちは無駄な殺生をしたくありません。時間と労力の無駄ですから」

「これからどうするんじゃ?」

「取りあえず、王都を復旧させます。まずは食料の問題がありそうですね。俺の方で大量の食料を確保していますので、それをしばらくは配給します」

「儂も、何かあれば手伝うぞ。遠慮なくいってくれ」

「ありがとうございます。できるだけ多くの人に、この炊き出しのことを話してあげてください」

「うむ。おそらくここに並んでいる者たちが住人の全てじゃろうが、見かけたら伝えておくぞ」

俺は絶句していた。以前は兵士を含め数十万人が暮らしていた街なのだ。それが、現在ではわずか1000人程度になっている。ラマロンの苛烈な仕打ちが分かろうというものだ。

炊き出しを配り終えたのは、昼を大分過ぎたころだった。俺たちはほとんど空に近くなった炊き出しの残り物を分け合う形で昼食を済ませた。そしてすぐさまリコたちは夜の炊き出しの準備にかかった。

「カレーを作りますわ」

「材料は・・・」

「ご主人様、屋敷の蔵に、米も野菜もまだまだあります。リコ姉さまと炊き出しを配りながら相談したのです。カレーなら簡単に大量に作れるし、配るのも楽ですから」

「わかった。リコとメイたちに任せる」

俺は、近くで炊き出しを食べていた人々に、夜も炊き出しをすることを伝え、他の人にも伝えてもらうよう話をする。

「ご主人様、使者の方が」

メイの声のする方に顔を向ける。馬に乗った冒険者風の青年がそこに居た。

「馬上より失礼します。クノゲン様が、捕虜を連れて戻られました。王国軍本部に向かうとのことです」

「いや、そこではなく、南門から入って東側の貴族屋敷街を通り、北門横の兵舎まで連れて来てくれと伝えてくれないか?」

「了解しました!では!」

そう言って青年は颯爽と馬を走らせて去っていった。

俺は近くにいた門番の一人に声をかける。

「ご苦労だが、王国軍本部に行って、リシマにあの・・・何と言ったか、フルチン野郎も一緒に北門横の兵舎に連れてこいと伝えてくれないか?」

「畏まりました!」

「さて・・・どう成敗してくれようか・・・」

俺は王都の空に目を向ける。吸い込まれそうな青空が、視界いっぱいに広がっていた。
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