挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
結界師への転生 作者:片岡直太郎

第四章 ニザ公国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

100/263

第百話    ひきこもり野郎、出て来いヤァ!

「ほう・・・これは・・・」

薄暗い部屋の中、俺は思わず驚きの声を上げた。


ドワーフ王から頼まれたコンシディー公女の件は、はっきり言って俺には興味が持てなかった。ぶっちゃけ、この公国の最大懸念事項である農地復興とほぼ、関係がないからだ。

しかし、取りあえず様子を見るだけ見ることにする。俺は案内されるまま、コンシディーの部屋にやってきた。

部屋の中は豪華という一言に尽きた。贅を尽くした調度品が並んでいたのだ。カーテンが引かれているのか、部屋の中は薄暗いが、それでも、この部屋のある物の高価さと豪華さは認識することができる。

俺が与えられている部屋と同様に、この部屋もバス・トイレは完備しているようだ。コンシディーはどうやら、自分の寝室でひきこもっているらしい。

・・・これまた豪華なベッドの上に、コンシディーは居た。きちんと正座をし、その傍らには剣を携えている。何より驚いたのが、彼女の周りには結界が張られていることだ。

同じ結界師として俺にはわかる。これはかなり優秀な物だ。おそらく自分が許した者しかこの結界を通ることは出来ない仕様になっている。これを破れるのは、LV4以上の魔法や剣術などが必要だ。彼女はおそらく、LV3の結界スキルを持っているのだろう。

「姫様は一日中このようにして端座されていまして、全く結界から出ようとはなさいません」

女官長は困った顔をしながら俺に耳打ちをする。

「この結界は一日中張り続けているのですか?相当MPを使うと思うのですが・・・」

「いえ、誰かが入ってくると結界を張られます。それ以外は・・・」

「なるほど。ということは、寝る時は・・・」

「部屋にカギをかけて休まれます」

・・・蟄居じゃねぇじゃねぇか。単なる「ひきこもり」だ。バカバカしい。

「国王様は、姫様がこのようなお姿になり、心を痛めておいでです。侯爵様の手で、何とか姫様を・・・」

「別にこのままでいいんじゃないですか?」

「は?今何と?」

「別にこのままでいいと思いますよ?生活に緊張感があって。こういうファンキーな人生も、アリだと思います」

「ふぁんきー?」

「お姫様がこの状態で、何かダメなことがありますか?」

「国王様が・・・」

「いや、モノは考えようです。ずっと部屋にいるのですから、安全は保障されます」

「それは・・・」

「部屋を出そうと思うのであれば簡単です。沢山の家臣で見張ればいい。そのうちMPが尽きて気絶します。その時に、この部屋から引っ張り出せばいい」

「ふざけないでください!」

コンシディーが剣を携えて、ベッドの上で仁王立ちになっている。

「私の気持ちも知らないで!」

「貴方の気持ちは、残念ながらわかりません」

「・・・」

彼女は俺を睨みつけている。

「ではなぜ、このようなことをなさいます?」

「・・・私は、罰を受けねばなりません」

「罰?」

「私は・・・博士の、レコルナイとウトニカたちの陰謀を見抜けず、母を殺しました。そして、鹿神様の御心も察せずに、討伐しようとしました。しかも、父上には国王の資格がないとユーリー殿に吹き込み、ガルトーの兄を唆して鹿神様の討伐命令を出させてしまいました。その上、私に従った冒険者たちも全滅させてしまいました。全ては私の責任です。私は罰を受けねばなりません」

「つまり、責任を取って、この部屋と結界に閉じこもっていると」

ゆっくりとコンシディーは頷く。

「コンシディー様がこの部屋から出るのは、いつになりますか?」

「わかりません。私が許されたと思えば出るでしょうし、そう思わなければ死ぬまで出ないと思います」

「おいたわしや、姫様・・・」

女官長は涙を浮かべている。

「ミンシ、これは私が、私へ科した罰なのです。あなたが悲しむ必要はないわ」

「姫様・・・」

「そうですよ女官長様。悲しむ必要はありませんよ」

「「えっ?」」

ミンシは俺を凝視し、コンシディーは座ろうとしている途中の姿勢で固まっている。

「きっと、お腹がすいたら出て来られます。取りあえず、帰りませんか?」

「侯爵様!」

「コンシディー様も、閉じこもるのであれば徹底的にやりませんと。だって、人が来るたびに結界を張りなおすんじゃ面倒くさいでしょ?」

俺はコンシディーにかなり強力な結界を張ってやる。

「ほら、これで誰もコンシディー様の結界には入ってこられなくなりました。ほぼ、無制限に稼働し続けます。これでわざわざ結界を張りなおす手間が省けました。わーパチパチー」

「さっきから何なのですか!バカにして!こんな結界!」

コンシディーは剣を抜いて結界に斬り付けるが、あえなく剣は弾かれる。そして目くら滅法に斬り付けていき、最後は剣が折れてしまった。

「私の剣が・・・」

「ね?丈夫な結界でしょ?安心してひきこもられませ」

「侯爵様、あなたは一体・・・」

「一応、私の本職は結界師ですので」

コンシディーは目を丸くして驚いている。

「さあ、我々は帰りましょう。・・・あ、そうだ、言い忘れてた。その結界、一つ問題がありまして・・・。食事がとれないのは我慢すれば事足りますが、お手洗いに行けません。以前私の弟子を閉じ込めましたが、我慢できずに粗相を致しました。みんなの見ている目の前で。そうならないように、お気を付けください。では」

俺は女官長を促して部屋を出ていく。

「待って!」

絶叫にも似た声が背中越しに聞こえる。

「どうしてこんなことをするのです!」

「どうして?自分に罰を与えたいのでしょう?それでは罰になっていないから、罰になるようにしたまでです」

「あなたにこんなことをされる覚えはございません!」

「自分が許されたと思えばこの部屋から出る、なんて言っていたが、それが一体何になる?単なる公女様の自己満足でしかないってことだろ?そんな下らない三文芝居に俺を付き合わすんじゃねぇ」

「ぶ、無礼な!」

「無礼はそっちだろう。国王様から言われて来てみりゃ、下らないご託を並べやがって。いいか?罪を許すのは他人だ。自分の判断じゃねぇ。自分のしたことが罪だと感じるのであれば、何故罪を償わないんだ。迷惑をかけた人の気が済むようになぜしないんだ?」

「だから私はこうやって!」

「誰かがそれをやれと命じたのか?そうすれば罪を許すと言ったのか?」

「それは・・・」

「誰も言ってねぇはずだ。言うわけねぇよ。そんなこと誰も求めてないんだからな」

「求めて・・・ない?」

「母上も鹿神様のことも、公女の罪じゃない。知らなかったんだからしょうがないだろう。冒険者たちは気の毒だったが、俺から言わせればどっちもどっちだ。司令官の言うことを聞かない兵隊たちの責任までは取れない。冒険者たちも悪いんだよ」

「それでは私の気がすみません!」

「知ったこっちゃねぇよ。それなら迷惑をかけないで自分に罰を科せ。お前の勝手な思い込みと振る舞いで、どれだけの者が迷惑してると思ってるんだ。罪を償うとすれば、今、迷惑をかけている人たちに償え」

コンシディーは唇をキュッと嚙んで俺を睨んでいる。

「どうしてもひきこもりたければ、徹底的に不自由にしろ。粗末な服に身を包んで、暑さ寒さに耐えろ。食事も最低限にしろ。起きてから寝るまで座り続けて微動だにするな。人が来た時に結界を張るのではなく、ブッ倒れるまで結界を張り続けろ」

「だからって、私をこんな結界に閉じ込めるなんて、やりすぎだわ!」

「それが甘いと言っているんだ。肌に優しい服、寝心地のいいベッド、十分な食事、気を使ってくれ、何かと面倒を見てくれる女官長たち、国王様・・・。快適そのものじゃねぇか。罪を償うってのは不快の中に身を置くことから始まるんだ。当然それは、多くの人が不快だと認める環境だがな。それに耐える姿が、贖罪になるんだ。だから強力な結界を張ってやったんだ」

「・・・」

「公女、あなたがそこで粗相をするくらいまで耐えて、不自由さの中にあれば、みんなが納得します。それが嫌なら、これ以上人に迷惑をかけるのはおやめなさい。むしろ、人の助けになることをなさいませ」

コンシディーは泣いていた。俺は結界を解除してやり、女官長にその場を任せて部屋を出た。


数日後、俺はメイ、ゴンと共に、何もない、ただっ広い耕作地に立っていた。目の前にはドワーフと冒険者たち、そして、帝国から追加で募集をかけた、貴族の次男・三男たち、全て合わせて数百人が揃っていた。

「よーし、では始める!まずは、この山の木を切り倒す!そして、切り出された木は、ドワーフたちの所に運んでくれ!ドワーフはその木を角材に加工してくれ!」

ワラワラと男たちが動き始める。その中に混じって斧を振うドワーフの女性が一人いた。コンシディー公女だ。彼女は毎日ここに通い、男たちに交じって耕作地の復興を手伝うことになった。しかも、自分の身分を隠し、俺に別人に見える結界を張らせて。これが、彼女が考え抜いた末に行きついた、「人に迷惑をかけない贖罪」らしい。ドワーフ王も俺も、何も言わずに彼女を見守ることにした。きっと彼女は、色々な人々と交流することでさらに成長していくはずだ。

夏が、すぐそこまで来ていた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ