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アイムトリッパ 作者:亜牙憲志

第1部

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老英雄の最後

第五話 老英雄の最後

――ラストダンジョン、過ぎ去りし過去。

挿絵(By みてみん)

 すすり泣く、か細い少女の声。

「大丈夫、大丈夫じゃよ」
 少しあつかいに困ったように老人は声をかけ、安心させようとしている。

 老人、確かに年老いた人間だが、その勇姿を語るに、この言葉では彼を描き示す事はとうてい出来ない。

 全身を魔力とオーラの淡い光り放つ、蒼いプレート鎧に身を包み、凛として立つ姿。引き締まった体躯によどみない動作、若さあふれんばかりの青年のよう、姿だけ見れば誰が齢80にもなる人間だと気がつくだろうか?
 さすがに顔は深いしわが刻まれ、力強い深い声で語る分厚い唇は、口ひげあごひげに覆われる。にっこり笑顔で、閉じられた目は眉に覆われ、目じりのしわに優しさがあふれていた。

 「もう、泣かんでもええぞぃ。お嬢ちゃんにはちょっとも触れさせんから、ぜんぜんこわくないぞぃ」

 地獄の底の迷宮に全く不釣合いな、ツインテールに髪を結った娘。真っ白なはだしの足は歩き回ったためか、すっかり擦り切れて血がにじんでいる。

 ごぉーっという腹の底に響く音がした。どす黒い球体が3つ空に現れ渦巻いた刹那。竜のごとく筋骨粒々で翼の生えた恐ろしい化け物が現れた。悪魔が召喚されたのだ。

 最高位魔族グレーターデーモンが3体。しかも真ん中は角が6つあるハイグレーターだ。並みの冒険者なら、やつらの放つ恐怖のオーラだけで即死だろう。

 老戦士は落ち着き払って大剣を抜いた。紋章の刻まれた伝説剣の両刃が光る。

「ちと、目つぶっときぃ……」

 少女の前にすっくと仁王立ちし魔物から盾になる。流れのままに振るった剣の軌跡を追って、ほとばしる光のオーラ横一線。すさまじいエネルギーの刃が放たれる。前の2対はかろうじて避けるが、少し遅れた右奥のデーモンの首が飛んだ。続けざまに、いつの間にか詠唱を終えた魔法の雷撃が落ちる。左手に飛んで逃れたグレーターデーモンが身の毛もよだつ苦悶の声をあげ燃え尽きる。

 刮眼せよ! これが人類最高峰の戦士の実力なのだ。ミドルクラスの冒険者パーティならば一体相手でも戦闘に勝利する事かなわない相手。魔族の最強種をワン・ターン・キルで葬り去ろうかという力。

 ハイグレーターの顔に戸惑いの色。想定をはるかに凌駕する戦闘力を理解したのか距離をとる。

 「ほぉ離れたか。遠距離での魔法攻撃に切り替えたかのぉ。お嬢ちゃんの服が焦げちゃあこまるぞぃ。さっさとけりぃつけるかな……」

 聖剣が宙に浮き閃光の矢になって飛ぶ。ハイグレーターデーモン――凡庸な剣技では毛をそる程度もかなわない悪魔の分厚い胸を突き抜け大穴を穿つ。


 ブスッ!! 剣が肉に突き刺さる嫌な音。

 何が起きたのか一瞬分からず、血を吐き出す我を省みる老戦士。

 「クックックッ……」楽しげに笑う無邪気な声がこだまする。

 少女!? 今一度彼女を見てみよう。ツインテールの髪型は少しおかしい。よく見れば前で結んで――まるで角を思わせる。容姿は相変わらず無垢な少女だが……。放たれるオーラが……。

 「あっあはははっはっ、可笑しい」

 「……」

 「まあぁでもぉ さすがねぇユニオンのトップクラス戦士は 3匹もこんな短時間でやっちゃうなんてぇ 危うく魔剣の仕込みが遅れそうだったわぁ~きゃっはははっはっあ~~」

 老戦士は剣を体から抜き投げ捨てる、本来ならこの程度の剣撃はすべて弾くはずのプレートをあっさり突き抜けていた。

 「ぐっふっ おっ お前さんは……」

 目の前で、ついさっきまで少女だった姿はみるみる大人の女性に変わっていく。

 「救世主のおじいさぁん! ホント 間抜けで助かったわあぁ」

 か細く幼い声から打って変わって、甘い女の声で囁きかける。服装も黒色のタイトなドレス、いつの間にかヒールをはいている妖艶な女。夢魔サキュバスか? 跪く老人の周りをゆっくり歩きながら嬉しそうに話し続ける

 「このっ馬鹿な、大間抜けぇ! こんな所に人間の子供がいるわけねぇだろぉ!! くくくっくっ ばぁ~かぁ」

 急激に抜けていく体力を感じながらも老人は答える。

 「……まいったのぉ…お嬢ちゃん……。たとえ99疑わしくても、1つでも可能性あらば、泣いとる子供を見捨てるなんて選択肢はありゃせんよ……。そいつがヒーローってもんじゃよ」

 女は今にもヒールで老人の顔を踏みつけようかと言う蔑みの表情で

 「はいはいはい! 負け惜しみ負け惜しみっ そんでぇ 1パーセントの逆転の可能性にかけるって~ かあぁあ? 無駄無駄。その傷、もうなおんないからっ 私の秘蔵の一物~最強魔剣ダモクレスでぶっさしましたんでぇ ジ エンド だっつうの」

 揺るがない勝利を前にして最後の陵辱のときを味わう女。

 老戦士は全身を襲う痛みで一瞬目を閉じる。

 「わしの負けじゃよ。認める。だけどなぁ……お嬢ちゃん。これで終わりってのには賛成できないぞぃ。……人間ってのはなぁ しぶといんじゃよ、あんたが思ってるよりずっと 必ずわしよりもっとすげーのが出てくる! そう、わしの最大の間違い、自分を過信し、本当の意味で仲間を頼れず……ソロで挑むおろかさ、こんな間抜けな行為を犯さぬ ……真の英雄がな」

 「ふふふ……だから、だから人間ってのはどうしょうもない! 救いようも無いくずなのだ」女の声のトーンが変わった。

 黒い影に覆われ一回り輪郭が巨大になっていく。深い地獄の底から響くような低い声で続ける。

 「相変わらず……お前の言葉を使うなら、相変わらず真に愚かで無知な英雄を生み出しつづける、最低な犬ころ、それが人間、お前たちの本当の姿だ」

 さっきのグレーターデーモンのオーラはただの微風だ! このっ……この黒い影の放つ波動、それは地獄の業火そのもの! 赤い瞳が跪く老体を見下ろす。


 最後を悟ったか、優しいまなざしの老英雄

 「そうかのぉ わしは楽しかった。人間で。いつの日か打ち砕かれるぞ、お前さんのそのすべて…… 魔王よ!」

 「!!!」

 魔王デアボロスのとどめ、黒き穿激が、英雄マックス伯爵を消し去った。

 閃光が迷宮を照らし、光の泡がはじけ飛ぶ。


 世界が一瞬悲しみに震えた――
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