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アイムトリッパ 作者:亜牙憲志

第2部

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テンカウント

第四十話 テンカウント

 この争いは、あくまでユニオン冒険者同士のバトルであり、無為な殺し合いではない。最悪で再起不能に陥ろうとも死ぬことは無いのではないか?
 しかし……攻撃を受けたのは、なんといっても最大HPがたった7の! 稀に見るか弱き主人公カピ、ヒットポイントが異常に少ない虚弱な体なのだ。

 その考えは甘かったのかもしれない。


 ――少女の盾となり、短剣マンゴーシュを両の手で支え受身の態勢を取るカピ。
 その頭上高く大きく振りかぶられた巨大な金属の戦斧が、戦士ヌッパの太い双椀で力の限り振り下ろされる。

 空気裂く唸りを聞きカピは悟った。

 (駄目だ……)


 この生死に関わるクリティカルヒット! を喰らった、ただでさえ最悪の瞬間。英雄マックス以上に予期できなかった『更なる一撃』を受けた。

 カピの背中に槍が刺さる。

 「????」

 背後でマルスフィーアが、その槍を持ち可愛い笑顔を見せた。

 ツーハンドバトルアックスによる最大パワーの衝撃がカピを真っ二つにした。



 もう……カピは、ピクリとも動かない。


 カピを幾何学的模様のサークルが囲い回転収縮し、体の丹田を中心に消える。

 マンゴーシュの刃で重い戦斧を受け止めた。――接触した一点を基点に斧の刃にひびが入り、――砕ける。

 ヌッパが込めたフルパワー、強力な力の波はカピの足元にまで到達し、革靴を履いた両足が土に2,3センチ沈み衝撃で地面に亀裂が入った。


 マルスフィーアが補助魔法『ストレングスオブソーマ』をカピにかけた。

 その存在さえ一般に知る人の少ないレアな上級補助魔法は、対象者の重量、質量を上げ体のコアから肉体を強靭化する。


 ヌッパの顔がサァーっと青くなる、今まで感じたことの無い理解しがたい恐怖。有り得ない事が現実に目の前で起きている。

 「ぬうううっ~ウガァ~!!」

 残された力を振り絞り、錯乱した勢いで刃の折れた斧を何度も振るうが、カピのマンゴーシュに軽く弾かれる。

 カピの体は微塵も動かなくなっている。マルスフィーアの唱えた高等魔法に守られている細い体、今や、鉛の様に重く、鋼の様に固く、ゴムの様にしなやかなのだ。

 「ぎょおぉ~! うわぁぉ~!」

 ヌッパの叫びは、徐々に泣き声と変わらぬ様になる。狂った機械のごとく振り回していた斧も半ばで捻じ曲がり、終に彼の両腕も限界の悲鳴をあげた。

 だらんとした腕と同じく意識も朦朧とその場に巨漢がへたり込んだ。

 最早彼の中に戦闘意欲は一滴も残されていない。ヒーローカピは一度も攻撃する事無く相手を屈服させた。斧使い戦士ヌッパとの戦いはこれで完全決着した。


 カピは後ろを振り返って背中を指差しマルスフィーアに言った。

 「あ、あの~マルちゃん……これ……刺さってますけど」

 「わわわっ」ビックリして彼女は槍を抜く。


 「だ、大丈夫ですよ! ほらこれ」

 そう言って、マルスフィーアはカピに槍の穂先を良く見せる。
 その細い木製槍の穂、金属の円錐形の先端は全く尖っていない。丸くなっていた。

 「尖ってたら、いつも持ち歩くのに危ないじゃないですか。だから、ちゃんと危なくないようにしてるんです」

 えっへんと自慢げに、奇妙な槍使いの少女は言った。

 「そ、そう!?」

 なんだか良く分からないカピだったが、後ろから刺し殺されるどころか、どうやら助けられたのは間違いない。

 「要らないお節介かもしれなかったけど、カピ様に魔法をかけさせてもらいまし……」

 最後まで言い終わらない内に、マルスフィーアは眩暈を覚えヨロっと倒れかける。

 慌ててカピが彼女の肩を支えた。

 カピのその腕と、地面についた槍に杖代わりにつかまることで、何とかこけずに済み立ったまま彼女は答えた。

 「……あっ、すみません大丈夫、MPが尽きちゃった……」


 「まったく……紛らわしいことしないで下さい。もう少しであなたの眉間にレイピアを突き刺す所でした」

 いつの間にか近くに来ていた執事ルシフィスが言った。

 「ルシフィス! そっちは片付いた?」

 「ええ、もちろん。ご覧の通りでございます」

 少し離れた所で、肉体的には無傷の戦士グーンが気を失ったレンジャー、シザーの肩を担ごうとしていた。

 「腕と才能はありましたが……到底カピ様の護衛にはふさわしくない男でした。残念ながら本日は収穫なしで帰ることになりそうですね」

 「う、うん……」

 「それにしましてもカピ様! 素晴らしい上達ぶり、わたくしも心の底から感服しました! 流れるような体さばき、プリンシアさんがカピ様がとても筋が良いと言っていたのも肯けます。もしかして……わたくしの攻撃でもかわせるのでは無いでしょうね」

 喜びのあまりルシフィスの饒舌さにエンジンがかかった。笑顔で一人肯き感心しながら話が続く。

 「ふふふ……それはちょっとお世辞が過ぎましたかな? まあしかし、さすがマックス様の血をひく御人、常人のスケールではお計り出来ません。毎日欠かさずの努力の賜物とは言いましても、数週間でこの様な実力を! おお! 思い出すだけで感動でございます」

 目をつぶり、首を振りながら感激に浸る執事。パッと目を開き

 「ところでマルスフィーアさん、わたくしの話を聞いていなかったようですね。カピ様を守るどころか、とんだ足手まといになるとは!」

 何とか眩暈は治まり、普通に立てる様になっていたマルスフィーアが平謝りする。

 「すみません!! もっと離れていようと思ったんです。でも私ったら、カピ様の戦いぶりに見惚れてしまって……すみません」

 「……ま、まあそれは……無理も無いでしょう。伝説に名を残されるかもしれない英雄の初陣を目の前でご覧になったのですから! ……それはともかく…………最後の、非常に、紛らわしい、魔法のかけ方は一体全体何なのでしょうか」

 怖い先生に叱られる女生徒のようだ。
 「す、すみません! 執事さん!! 少しでも何か手伝えたらと考えて……。魔法でサポート出来るかと思ったんです。それで何をかければ良いか迷いました。実は私……」

 眼鏡の奥、焦げ茶色の瞳を上目遣いで、言い難そうに続けた。
 「MPが少ないのです」

 マルスフィーアは驚くべき真実を述べる様に言ったが、ルシフィスは何を今さら言ってるんだ、という感じ。

 「はぁ? 何を当たり前な、戦士の皆さんは普通少ないものですよ」

 「そ、そうですね。そうです、それで多くの選択肢の中から一つを選ばなければならなかったんです。これが一番良かったかは分からないけど……『ストレングスオブソーマ』を選びました」

 「? 今何と? ストレングスオブ…ソーマって言いました?」

 「え? はい」こくっと仔リスの様に肯く。

 ルシフィスの緑の大きな目がすぼまる。先ほどの局面、瀬戸際でマルスフィーアがカピに補助魔法をかけたことは分かった。しかし何を使用したかまでは見極められなかった。あの短時間で高度な魔法を詠唱できたのだろうか? それ以前に、どうしてこんな若い戦士がその様な魔法を覚えているのだろう? ルシフィスにも使えない魔法を。

 「あ? 相手、あの斧使いさんに魔法をかける事も考えたのだけど……緊張で、はずしちゃうかもしれないし。確率的にも今回はカピ様にかけるべきだと思ったんです。やっぱり……この考えは間違えました?」

 「……MPが少なく、チャンスが一度しかないと言うのでしたら、間違いとは言えないでしょう」

 「ありがとうございます! 執事さん」

 先生に褒められ喜ぶ生徒だった。

 「私、実戦なんてほとんど初めてだし、普段は自分にしか補助魔法をかけないので万全を期すため……この槍を杖代わりに使って、カピ様に添えて、接触させ唱えてみたんです」

 カピが会話に割って入った。

 「ルシフィス~もういいじゃない。そんな尋問めいた質問攻めは。マルちゃんの機転はベストだったよっ、あの魔法のおかげでパワーアップできて確実に勝てたんだからね」

 「…………そう…カピ様が……仰るならば。マルスフィーアさん、無礼をお許し下さい。ありがとうございました」

 「そ、そそ、そんな事無いですよ~」マルスフィーアは頬を赤く染め照れている。


 「よ~し、立ち話はそれぐらいに。もう一度店に戻って注文したジュースを飲もう! 初勝利のお祝いだ。良かったらマルちゃんも同じ席においでよ」

 すっかりマルスフィーアとは心許せる仲間といった様子のカピ。

 執事は何か言いたそうに口を開きかけたが、何も言わず噤んだ。

 「ご迷惑じゃなかったら、ありがたく」
 マルスフィーアは可愛い笑顔で明るく答えた。

 こうして賞杯を手にした三人は揃って酒場へ足を向けた。


 そこへ「……お、覚えてやがれよっ、ガキども……」

 空元気を絞り出し、ドアをくぐろうとするカピに向かって何とか捨て台詞を口したグーン。カピは振り返った。

 他のヒーローはどうだか知らないけれど、カピはちゃんと彼らを見つめ覚えた確かに。

 何も答えず扉を開き中へ入る。


 通りに残された絶望の敗者となった三人、ルシフィスの必殺技を受けたシザーは、命に別状は無いものの今だ意識戻らず、グーンと茫然自失のヌッパに担がれてその場を暗く離れていく。

 時をおかず、寂しげな三つの影を追うように、酒場からひっそり外に出た一人の男が後に続く。

 その男の顔には良からぬ企みが透けて見えていた。
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