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アイムトリッパ 作者:亜牙憲志

第2部

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マンゴーシュ

第三十八話 マンゴーシュ

 冒険者6人は酒場の表の通りへ出た。

 三と三で対峙する乾いた土の決戦場を、風が一吹き逆巻き砂埃が舞う。


 ルシフィスがマルスフィーアに声をかける。

 「あなた? お名前は。わたくしは執事のルシフィス」
 続けて、うやうやしくカピの方を指先揃えた手で指し示し頭を垂れ
 「そしてこの御方が、わたくしが御使えしております、カピ様でございます」

 取り合えず自前の槍を持ち、流されるまま彼らの後を付いて外に出たものの、今だ状況が飲み込めたとは言いがたい眼鏡の少女。

 「あ、はい! マルスフィーアです。どうも、この度は、この様な事になりごめんなさい!」

 名を名乗り、革の帽子から背中に垂れた、長く綺麗な髪を一跳ねさせる深々としたお辞儀をすると、どうやらこの人間の男の子が偉いご主人様なのだと感心した。

 「う~ん……ま、まあお互い様と言うことで、よろしく」カピの軽い挨拶。


 ルシフィスは先ほど自分も手に持った、可笑しな槍を値踏みしながら彼女に言った。

 「マルスフィーアさん、あなたきっと只の足手まといでしょうから、カピ様の近くで適当に逃げててください」

 「マルちゃんでいいですよっ呼び方。長いし、そう学校でも呼ばれていたので」

 「マルスフィーアさん、言っておきますが……わたくしが守るのはカピ様なのでお忘れなく。自分の身は自分で、お願いします」

 「マル…ちゃん。気にしないで、僕の後ろに居て」
 カピは早速、彼女の愛称で呼びかけながら……浮かぶ未経験の新鮮な思い。

 (「僕の後ろに居て」……ん? なんだろう? この初めての感覚! 彼女を見てると…………! もしかしてこれが…………愛おしさ? そう……誰かを守る、頼られる感じ。こんなこと今までに無い!)

 変な名前、おまけに貧乏…ではあるが間違いなく名門カピバラ家。その一家の主として過ごして来たこの一月あまり、少数精鋭スーパーな冒険者ぞろいに囲まれた生活では到底ありえなかった立場。カピの新たな役割、自分よりか弱き者を守るという使命が心を強く奮わせていた。


 その様な御主人様の湧き上がる熱き思いなど、全く知らぬ執事は「ふぅ~」と本日何度目かの聞こえるほどの深いため息をついて、腰のレイピアを抜き放った。

 執事のルシフィスを前衛に、下がってカピとマルスフィーアが立つ。


 ベテランレンジャーのシザーはその面子と向かい合って考えを廻らせる。

 (ちっ、クソ生意気な奴ら……教えてやるよ、相手の力を見誤るとどうなるのかを、お前の知らない世の中には、どんなずば抜けた才能の冒険者が存在するのかってのをな!)

 左右に首を振り、仲間の自信と闘志に満ちた顔を確かめる。金属プレートの鎧装束の戦士グーン、巨漢の斧使いヌッパ。シザーは改めて勝敗の行方を確信する。

 (エルフの武器は細身の剣、剣士か……注意すべきは落ち着きはらった妙なお前ぇのみ。後の二人は子供。おそらく奴は、あのとぼけたガキ、どこかのボンボンに雇われた護衛役って所だろう。俺一人でも余裕だとは思うが……一応、あいつには二人で当たるか、そしてガキ共の相手は弟に任せ、いっそう奴の動きを牽制してやる)

 シザーの隣に、グーンが使い込まれた鋼のミドルソードを構えて並ぶ。

 「グーン、俺と来い。ヌッパ! 適当にガキと遊んでやれ」

 「あいよ、あんちゃん」

 両手持ちの重そうなバトルアックスをブンと軽く振り回すヌッパ。


 グーンは、もう長い付き合いとなるシザーと上手く間隔を保ちながら、レイピアを構えたルシフィスの方へ一歩一歩足を進める。
 (なるぼどこのエルフと言う種族、初めてじっくり間近で見るが……確かに身軽で早そうだ。けっ、そうして自惚れてりゃいい、だがシザーには決して勝てない!)

 「おう、お前らって素早いんだって? けどよ、リーダーには通用しねぇぜ」

 (そうさ! どんなに早くても、絶対勝てねぇ。なんてったってシザーにはすげぇ魔法がある……ありゃもう! とんでもない才能、化け物さ)


 カピはふと思った。コレが初めての戦闘だ。
 不思議なことに大きな恐怖や緊張感は無い。隣にいつもの平然とした頼れるルシフィス、そして守るべき女の子がいるからだろうか。それともこの感じこそが、この独特な異世界のもたらす副作用なのかもしれない。

 昔誰か…そう、お爺ちゃんだったかに聞いた話を思い出した。
 戦前の日本、幼き頃、川原で真剣を持った者同士の斬り合いを目撃した話。その時の向かい合った二人は異様なほど緊張した顔で、長い間、一定の間を保ったままじりじり動くだけだったそうだ。刀を振り回すことも無く。

 (刃物を向けられ、刺され死ぬかもしれない時って、現実の人間の行動はそんなものなのだろうなぁ…きっと)

 だが今のカピに沸き起こる感覚は、全くそれとは違った。せいぜいスポーツの試合を前にした緊張と言う程度だろうか。

 (自分の感覚、この世界にしばらく居る事で変になったのだろうか? 順応しだしたのかな……)


 ルシフィスは思った。どうやら予想に反し、相手は3人まとめて自分にかかってくるのではなく、一人をカピの方へ向けるつもりのようだ。
 (少し予想外でしたが……一応、注意すべきは、レンジャーの男のみ……)


 シザーは低い構えを取り、鋭敏な短剣を前に寝かせ、唇を一舐めすると、すり足でルシフィスとの間合いを狭める。
 (度肝抜いてやるぜ、あと五年、いんや三年修行すりゃ、最強クラスのシノビにさえなれる俺様ぁ)

 「よそ見してんじゃねえ! まずはお前がどの程度のスピードか、見てやんよ!」

 刹那、バネの様な、しなやかさでルシフィスに飛び掛った。大口を叩くだけある、目にも留まらぬスピードで何度も切りつける。

 ルシフィスはその場を一歩も動く事無く、レイピアを空気裂く音と躍らせ、すべて弾いた!

 シュッと土煙を上げ、数メートル飛び離れたシザー。

 「ほう……、通常のスピードでは受けるか、さすがにエルフと言うところだな」

 素早い剣の応酬に、入る隙をまだ見出せないグーンは、ミドルソードを持つ構えを変え次のチャンスをうかがう。

 (なかなか……しかし受けきるのもあれが限界、リーダーはまだまだ全開じゃねえ、使ってねぇ、次はタイミングを合わせ、あの細い剣をへし折る一撃を食らわせるか……隙の出来る下半身をザックリ切ってやるぜ)


 30キロはありそうな、でかいアックスをウォーミングアップがてらに振り回し巨漢の戦士ヌッパがカピ達に近づいてきた。一振り一撃を地面に突き刺すと恐ろしいほど深くえぐれ土塊が飛ぶ。

 「おい坊主。遊んでやるぜ。まあ、腕の一つ二つ、もげちゃってもごめんよ~」

 カピの脳裏に映像が浮かびゾクっとした。

 その恐怖の浮かぶ顔を見てヌッパが笑う。

 「ガハハハハッ、小便ちびんなよ~、それでもおまえ、お姫様を守るヒーローだろぉ?」

 もちろん、カピが本当にヒーローだとは、万分の一にも思わず言った台詞だった。


 マルスフィーアも屋外で再び並べ見る、あまりのお互いの体格差に恐れをなしたようだ、心配そうな声でカピに囁く。

 「ど、どうしよう? 私、やっぱり……謝って、許してもらえないかな」

 「大丈夫…………たぶん。……とにかく、ルシフィスが向こうの二人を片付けるまで粘ればいいから……」

 戦い馴れしていないカピ、彼女の不安が伝染してくる。そんなに大丈夫そうじゃ無い顔色で答えながら、腰の短剣、マンゴーシュを鞘からゆっくり抜く。


 マンゴーシュ、カピの為にルシフィス達が用意してくれた武器。長さ30センチほどの両刃の短剣で、特徴的なのは握りに大きなガードがある事。普通のナイフより長太く大きなつばと、持ち手を覆う流線型の小さな盾が付いている。

 つまりこの短剣は攻撃よりも防御に重点を置いた特殊な短剣である。

 そして、名工ロックの手によって魔法が付加されている。二つの魔法石がブレードに埋まっている事で、防御魔法『プロテクトボディ』と『ハードガード』がかかっているのだ。

 『プロテクトボディ』は装備者の体の強度を上げ、『ハードガード』は装備自体の強度を大幅に上げる魔法である。

 これらの事を踏まえ、カピのマンゴーシュの武器としての能力スペックを解説するならば。短剣その物、品の良さはカピバラ家の武器庫に収められていた一品であるため超一流。

 更にロックの優れた技術でプラスされた魔石とチューンナップによって超超一流。

 封じ込まれた魔法錬度は、不本意ながら現在カピバラ家に超一流の魔法使いが不在のため、そこそこの魔力。

 最後に使用者がカピという、非常に残念なインテリジェンス能力の持ち主なので、例え魔法のかかり具合は上級でも、効果は中、低級になってしまう。

 このマンゴーシュ、間違いなく最高の一品だが込められた魔法に関しては、やや宝の持ち腐れといった所だろうか。


 ヌッパはカピの馬鹿さに大笑いする。この重い斧を、あのような小さな盾で一体どうするというのだろうか。
 「おいおいおい~おまえ? 頭のほうは大丈夫か、そんなモンで防げるわけねぇだろ!」

 ヌッパは軽々とアックスを振り、カピに襲い掛かった。

 一撃、二撃! カピは難なくかわす。正確にはかわすと言うより、振り下ろした斧が当たらないのだ。なぜなら! カピはヌッパより遥かにレベルが高く! そしてラックの数値が半端でなく桁違いに違う!

 神の攻撃判定計算式により命中率が天文学的に低い、ほぼ無効化されているのだ。

 ヌッパには知る由も無い。

 (くそ! 思ったより素早いな……幻にでも殴りかかってるみてぇじゃねえか)

 後ろに下がってるマルスフィーアも何か不思議なトリックでも見ている気になる。あらゆる角度で振り下ろされる斧が空を切るからだ。

 実はカピもほぼ同じ気持ち。自ら意図して避けきってる訳ではない。もちろん毎日欠かさず行ってる、ストライカーのプリンシアと、サムライのリュウゾウマルとの基礎練習が地味に利いてる気はしたが(あれ? 助かった~また当たらなかった)と不思議な感覚になる。

 バトルアックスを振り回す戦士が汗だくになる、その汗には激しい運動で出る汗だけではない、何か別の汗も混じりだしていた、その成分は恐怖。

 (お、おかしい、おかしいぞ)この気持ちを仲間に伝えたくて他の二人を見るが、向こうも予想外にまだけりが付いて無さそうだ。

 (絶対におかしい! なぜだ! かすりもしねぇ!!)

 悪夢に落ちたようでヌッパは叫んだ。

 「くそぉ~~~~!」

 ターゲットを変えた! マルスフィーアに襲い掛ったのだ。

 カピはその変化に何とか気が付き、ギリギリで体勢を向ける。彼女への一撃をマンゴーシュで受けた! しかし重い一撃。普通の短剣なら砕け散るエネルギーの重さ。だがこのマンゴーシュそこらの量産品ではない! かかった魔法『ハードガード』が紫の光を火花の様に散らして受けきった。

 短剣は受けきった。


 短剣が受けた攻撃の波は、カピ自身の体を襲う!

 大ダメージには至らないが、カピの体は弾けとんだ。軽いカピの体ではどうしようもないのだ。何とか立ち上がり次の攻撃に備えようとするが、腕が痺れ足がふらついている。
 もしも『プロテクトボディ』がかかって無ければ、腕の骨が砕けていたであろう。

 にやりと笑うヌッパ。

 「へへ、へっへへ。そうかい、当たるのかい……」

 「この女狙うと~~」大きく振りかぶり、次もマルスフィーア目掛けて強烈な一撃を振るった!

 カピは男だ! ヒーローは逃げられない。決死の覚悟で受けに回った。

 震え鈍い体に気合を入れる!

 マンゴーシュを逆手に持ち、両手を沿え打撃を受けた。


 ――無駄なことだった。

 物理的に無理なのだ。すべての破壊の波が無敵のマンゴーシュを通り抜け、カピに注がれる。カピの少ない体力では致命的なダメージとなる。

 (だ、駄目か……運がよければ、ルシフィスが後の始末を付けてくれる……間に合えば…………)

 カピの全身をヌッパの渾身のパワーが襲った。


 もう……カピは動かなくなった。
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