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アイムトリッパ 作者:亜牙憲志

第2部

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円卓の舞台

第二十七話 円卓の舞台

 カピは応接室の中で近づく廊下の足音を聞いていた。何やら笑い声もする。
 (な~んだ、結構和やかな感じじゃない……上手く終われそうだな)

 ノックがして執事ルシフィスが挨拶の後、ドアを開けた。
 「カピ様、アザガーノ侯爵様です」


 黒を纏った大きな男が空気を揺らし入ってきた。大男の使用人スモレニィと変わらぬほどの背丈、190センチはある。
 彼ら、今日の客人達が冒険者であると言うことは知っていた。が、所詮は貴族、身分の高いセレブリティと聞かされると、カピはもっとぽっちゃりした、おじさんみたいな人を想像してしまっていた。

 ところがどうだ大剣こそ背負っていないが、これではまるで前線で戦う屈強な戦士。

 無口なときのルシフィスにも似た匂い。

 「これは、カピ殿…初めまして、アザガーノです」
 右腕を前、腰辺りで曲げ軽く頭を下げた。聞く者の腹に響く声だ。

 面を上げながら白銀の双眸がカピを捉え、値踏みをするようにじっくり動く。

 (なんだ? あの目、この人……人間なの?)
 「はい…初めましてアザガーノさん、僕がカピです」

 カピはそう言葉を返しながら(握手を求められなくて良かった、初対面のシーンでよくある力比べにでもなってたら、軽く握りつぶされそうだ)と胸をなでおろしていた。


 「カピ様、サザブル伯爵様が、お入りになります」
 ルシフィスが部屋の様子を注意しながら、サザブルを紹介する。

 第二の客人は、カピの想像する貴族に近い見た目だった。太めで薄い頭の中年男が笑みを浮かべながら入ってくる。

 「おお! こりゃ思っていたより若い。カピ殿、カピ君? ハハハッいいねぇ若さは、っと失礼。私はサザブル。以後お見知りおきを」
 カピを一目見るや否や陽気に挨拶を交わすサザブル。

 すぐ後を続けて護衛の剣士達が入り、カピに対して頭を下げた。


 応接室にはどっしりした造りの円卓が備えられていた。入り口を入って奥にカピが座り、手前の窓側にアザガーノ、同じ並びの対面にサザブルが着席する形に落ち着いた。

 最初の挨拶が済むと、ルシフィスはドアを閉めカピの後ろに立つ。サザブルの護衛達も御主人の後ろ左右に立っていた。薄いコートを脱いで、腰に刺さっている剣を握り確かめている。

 本日の会のホストとして、カピが戸惑いながらも改めて挨拶の弁を述べる。

 「アザガーノさん、サザブルさん。今日はわざわざ僕のためにお越しいただいてありがとうございます。僕……右も左も分からない未熟者なので、どうかお二人の力を貸してください」

 サザブルが猫なで声で答える
 「何をおっしゃる。そう畏まりなさんなカピ君。カピバラ家と私達の親しき間柄ではないか! 本日もマックス卿からのご招待を受け、喜び勇んでまいりましたぞ…何の遠慮が要りましょうぞ」

 カピは友好的な雰囲気でスタートできて、ほっと安心し、笑顔で相づちを打ちサザブルを見る。すっと笑みがサザブルの顔から引き

 「おっと、失礼失礼。マックス卿はもうとっくに死んだお人でした……手紙をいただいたのは、そちらの執事。妙に気が利く亜人の執事殿からでしたなぁ」
 サザブルは意味ありげにカピとルシフィスを交互に目する。

 少し声を抑えて続ける
 「カピ君、頭の切れる執事は使い勝手が良く、我々、上に立つものとしてはありがたいものですが…そうですなぁ出過ぎるというのも困り者ですぞ」

 肉付きのよいふっくらした綺麗な手を口元に当て
 「中には主人を意のままに操りたいという、腹の中で何を思うか分からぬ、とんでもない側近も多い。世間知らずの君に、一応老婆心ながらご忠告を……だがまあ、こちらのちょいと不気味な執事は先代からの古株。過ぎた行動もカピ君のためを思ってのこと、よもや己の欲ためなんて事はねぇ……。心配しすぎというものでしょうかな、ハッハッハッ!」

 冗談ですよとばかり大声で笑うサザブル。

 それをカピの後ろで黙って聞いていた、ルシフィスが動く。

 僅かに目元に力が入り、燕尾服の内に手を忍ばせる。サザブルが笑いと緊張の混じる眼差しでその動きを目に捉えた。護衛の剣士も構えの動作を取り始め――。

 ルシフィスがカピの前に割り込んで来る。

 懐から取り出したのは短剣だ。

 サザブルが大金を出して雇っている親衛隊の剣士は、相当な手練。ルシフィスが短剣を取り出すか出さない間に、既に二人とも艶かしい光を軌跡に残し、剣を抜き放っている。

 今さら取り出した短剣で、さすがの俊敏なルシフィスがどうしようとも、彼らの双剣に切って捨てられる運命は逃れられない。

 マジックマスター、偉大な魔法使いとして名の通ったサザブルも侮れない。いつの間にやら内隠しに差して置いた、携帯の杖、マジックワンドを愛でている。
 剣士の一人は、いつでもぶった切れると余裕の笑いを満面に浮かべ、この場を圧倒している自分達の優位性に酔っていた。

 (愚かなやつめ、つまらぬエルフのプライドとやらを傷つけられ暴挙に出たか。それとも? もしやわしの言ったことが図星だったのではないだろうな……ほほほっ予想外に簡単に潰せそうだ)
 「さあ! やってみろ、宣言しようじゃあないか。指一本でも私に触れた瞬間…その腕切り落とす。お前がどれほど素早かろうと無駄ぁ絶対にな」

 護衛の剣士のスピードに揺ぎ無い確信があったサザブルは、ゆとりのニヤケ顔でそう言い切った。カピバラ家の失態を理由に、この鬱陶しい会談を早々終わらせられる。

 (次があったなら、その間抜けな坊主を連れて、平身低頭でわしの屋敷にやって来い、おお…このまま殺してしまっても良いがな、その冷めた目つき虫唾が走るわ)
 サザブルは慇懃無礼な鼻持ちならぬ執事の牙城を崩せたことが心地いい。


 一気に緊張が高まった一同を他所に、執事ルシフィスは短剣を丸いテーブル中央にそっと滑らせ置いた。美しく装飾された鞘に収まったまま。

 「おや? どうなされました? サザブル様」

 全く意味が分からないサザブル。

 ルシフィスは続けて話す。
 「本題の前に、ご主人様からのささやかな心づけ、プレゼントを……まずはこちら、最高級ミスリルの小刀をサザブル様に。複数魔法を付与でき、偉大な魔法使いにはぴったりな一品かと思います」

 まだ現状を理解し切れていないサザブルではあったが、本来の強欲さがその宝剣に吸い寄せられ、完全に目を奪われた。

 執事は今一度、上着の内に手を入れ取り出す。今度は装飾品の納まった小箱のようだ。

 「アザガーノ様へはこちらを、僭越ながら英雄の御身に万一の事あっては大変と、身代わりの魔法が掛かっております。……このようなネックレスでございます」
 そう言って小箱を開けると、血の色、真っ赤なルビーの首飾りが入っていた。

 「どちらの品も、マックス様が『我が信頼なる者への感謝の印』をとの事でカピ様に託されたレアアイテムでございます」

 サザブルは涎をたらし思った。
 (レア? とんでもないぞ、良う見ればこの様な品、いくら金を積んでも市場に出なければ決して手に入らない超超一流品! さ、さすがはマックス卿、いや古くからの名家カピバラと言う事か……)

 「……これは、なかなか」
 先ほどの場の流れもすっかり忘れ、短剣を手に取りながら思わずため息が漏れるサザブル。その上、彼の欲望は他人のプレゼントにも惹きつけられた。

 (おおお! あの首飾りも美しい。宝石の価値もさることながら、身代わり魔法だと…どのレベルかは精査しなければ分からぬが、かなり高位の攻撃魔法を受け止められると見た)

 「アザガーノ侯爵殿には、その赤、良く似合いますな」
 (戦士である卿には、魔法防御アクセサリーは、確かに最適な選択だ……)
 欲深き男の性か、サザブルの顔にどうしても羨ましそうな気持ちが表れてしまう。


 アザガーノは大して興味も無さそうに、一言礼を述べただけで首飾りだけを手に取り懐に無造作にしまった。

 「お二人さん。プレゼントを気に入ってくれた?」カピが陽気に尋ねる
 「この度は、お忙しい所をわざわざ僕の家まで来てもらうということなので、ちょっとしたお土産を用意しました」

 「サザブルさん? 何か気を悪くする様なことが? どんな物が喜んでもらえるか僕も良くは分からないので……かえってお邪魔なら、別に無理には持って帰らなくてもいいけど」カピはそう言って
 (いや~ほんとに、要らないなら売ってお金に換えたいよ!)
 カピバラ家の苦しい台所事情に頭を抱えてる領主、カピはそう心から思っていた。

 「い、いや~しっ失礼。カピ君ありがたく頂きますよ!」額に汗してサザブルは慌てて短剣をしまう。

 「ん? どうしました。分かっておりますとも~そんな馬鹿な! 大切なお客に手を掛ける愚かな使用人が何処の世にいましょうか! 執事が剣を私に向けた? そんなこと私は一切思ってませんぞ。万が一、万が一そういう場合はどうなるか……」

 サザブルは額の汗をハンカチで拭きつつ弁明を続ける。
 「そう! そうそう、カピ君にデモンストレーションをば、ねっ」

 肉付きのよい両手を大きく広げて太った領主は
 「我々、偉大な力を持つ支配する者には、このように優れた護衛が常に居るべきなのです。特に君のようなか弱き青年には! 口で言ってもピンと来ませんからのぉ、実際にその凄さを少し披露したまで」

 そうであろうとばかり、サザブルは後ろに控える剣士に頭を向ける。

 親衛隊は、苦笑いを浮かべながら剣を鞘に戻し。
「は、はい。私のカウンタースキルで、高速の矢でさえも主人に届くことは決してありません。おっしゃられるように、触れる前に瞬殺いたします!」


 サザブルはやっと冷静になってきた。そっとアザガーノの顔色を伺う。いつもの様に心の内は読めない。
 (うぅ~くそぉ。執事のやつめ。やはり腐ってもマックスの側近、侮れぬわ! これ以上あいつを攻めてもボロは出さんな……)

 今一度円卓に集う面々を一巡りしてみたサザブルは、カピの顔に焦点を当てた。先ほどの一幕の間も、微かな危機さえ感じられる能力無く、ぼ~っと暢気極まりない平和そうな顔で座っている。

 「あ~ところで、カピ君」
 ハンカチを仕舞いつつサザブルは言った。

 「ん? なんですか」

 「失礼を承知で尋ねるのだが、どうしてこんな辺鄙な田舎の家など継ぐ気になったのかね?」
 サザブルは攻める砦を変えた。
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