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アイムトリッパ 作者:亜牙憲志

第2部

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愛馬と嵐の前の静けさと

第二十四話 愛馬と嵐の前の静けさと

 名門カピバラ家の新たな主人であり、へっぽこヒーローでもある青年カピ。

 この冗談みたいな名前はもちろん冗談ではない! もし馬鹿にでもしようとするならば…忠実なるハーフエルフの執事ルシフィスのレイピアが、その嘆かわしい舌を貫く……かもしれない。でもそれで文句を言ってはいけない。メイド長のダイアモンドの拳に顎を砕かれ一生しゃべれなくなる最悪の自体は避けられたのだから。

 カピが町から屋敷に到着し、新住居での初日いきなり、波乱万丈な出来事を数々迎えたのだが、その後は打って変わって対照的に穏やかな中三日が過ぎた。そしていよいよ、執事がカピの歓迎晩餐会にて言いそびれた、あの最重要会談が目前に迫っていた。


 ――の前に、平穏無事に過ぎし三日、カピはどう過ごしていたのか。

 屋敷の中を見取り図片手に見回ったり、部屋の調度品などを観ながら、1クルワも現金が無いと言う、寂しい懐具合に窮する我が家の金策を考えていた。

 時には、使用人である、職人のロックの作業を興味深く見せてもらったり、大男スモレニィと家畜の世話をして回ったりしていっそうの親睦を深めた。

 広い中庭では、修行と言うには程遠いが、リザードマンでコックのリュウゾウマルに剣の手ほどきを受けたり、「美しいドワーフ」のプリンシアに格闘技の初歩の初歩、受身や体のさばきなどを教えてもらったりもしていた。
 はっきり言うと、これでカピが特に強くなったとは言いがたく、楽しく遊んで過ごしたのが実情、二人の達人の華麗な技、スキルに見とれていた時間の方が長かった。


 一度、カピバラ領にある唯一の小さな村、通称カピバラ村へ赴くことにした。

 白馬に乗って執事と共に村に出かけた。この時まだカピは、正式には王に領主だと認められたわけではないが、実質的にはカピが領主なのであり、執事としても早めに報告に行くことは悪くは無いと賛同した。

 村人は温かく迎えてくれ、村長も出来る事は何でも協力すると言ってくれた。むろん、カピが先代のマックス伯爵のやり方を、これからも変えずに継承すると確約した結果であろうと思われる。暢気な世間知らずの青年がやってきた事に、よりいっそう組みし易しと影では喜んだかもしれない。


 この世界では基本的に、ちょっとした遠出や旅には馬で移動する。
 カピには今まで乗馬の経験は無かったのだが、心配したより簡単に馬に乗れた。練習にかかった時間は、小さい頃、自転車に乗れるようになった時に要した時間ほどだった。

 馬番のスモレニィが誠心誠意、馬達の世話をしている上、人間で言うと、おばあちゃんにあたる白馬ホワイティがとっても賢い馬だからだろうか、もしかしたらこの異世界の特殊状況が影響している可能性もある。

 カピはその優しい白い馬を見ながら、ふと中庭の林で見た可愛いモンスターのことを思い出した。(今度、スモレニィに知ってるか聞いてみよう……)

 現在カピバラ家には二頭の馬がいて、執事が乗った黒い馬はクロベエ。気性は少々荒いが、脚力は並ではない。最高速に達すると脚が八本に見えるという逸話を持つ名馬、執事ルシフィスの愛馬である。

 執事はカピと馬での散策を、マックスとのそれと重ね懐かしく思った。
 (カピ様が騎乗するのは、もちろんマックス様の愛馬ブチコマではないが……)


 前日夕食後、近頃はお馴染みになった、屋敷の皆そろっての食事が終わった頃。会談に向けての最終ミーティングが開かれた。

 その重要な会談の中身はあらためてこうだ。
 有力な貴族領主であるアザガーノ侯爵とサザブル伯爵をこの屋敷に招き、カピとの初対面を果たし、彼らの署名をもらうのだ。

 署名する書類は、カピを正式な後継者として、家督相続を王に認めてもらうもの。二人の有力者に、身元の保証、推薦後見人としてサインしてもらうのである。


 執事ルシフィスは、二つの賭けに出た。
 絶大なカリスマを持っていたマックスの力が最早及ばない今後、カピ及びカピバラ家の地位を堅牢なものに保つための賭けだった。

 一つ、形式上は挌上、同格の二人の領主を呼び付けた事。本来ならば、こちらから謙って彼らの元へ挨拶へ伺い、お願いをするのが筋とも考えられる。
 しかし、長らくマックスに使えていたルシフィスには、それはちゃんちゃら可笑しな話であった。
 マックスが所謂まともな、地位にそれなりにこだわりある人物なら、国への貢献度を考えると伯爵より上の侯爵の地位は当たり前、国王の右腕、いや王でさえ口出しできぬ位へ、就いていてもおかしくは無いのだ。仮に今回の会談がマックス直々の招待であれば、彼らはすっ飛んで駆けつけて来るであろう。
 つまり今一度、彼らのスタンスを見極めるつもりだった。

 二つ、前提として、カピバラ家への国王の信頼は今でも固い。不穏な動きも感じられるが、執事の得ている感触では、現時点ではまだ大丈夫だ。となればこの、カピを跡取りに正式認定する書類はあくまで形式的なもの、言ってしまえば誰の署名でも、最悪無くても良い。
 だがあえて、一番厄介な人物にサインを頼んだ。マックスの影響が薄れつつある今、最もカピバラ家を疎んじそうな領主達である。

 (彼ら自らの手で、正式にカピ様を認めさせるのだ)


 くれぐれも粗相の無いようにと、屋敷の皆に執事が口すっぱく念を押す。会談が始まれば何が何でも、彼らに署名させ、無事に終了させるのだ。

 「いいですか、たとえどんな屈辱をわたくし達が受けようとも、彼らにサインをさせ、この家から穏便に出てもらう事、それが最重要です」

 熱心な執事、その深いカピバラ家への思い、気苦労がいま一つピンと来ていないカピは、そこまで会談に対し乗り気ではなかった。
 「そうは言ってもルシフィス。サインしてやるから靴を舐めろなんて言われたらどうすんの? ちょっと…無理だよねぇ」

 無言になる執事、幾ばくか間が過ぎて
 「さ、さすがにカピ様に対してその様な無礼を仕向けることは無いでしょう、彼らがとんでもない愚か者、『下衆の上の中』でないかぎり」

 ルシフィスは改めてカピを真正面から見つめ、グッと寄り
 「しかし、わたくしで変われるのならば喜んで変わりますし、わたくしへの命令ならば即座に靴を舐めます! カピバラ家に何の害も無いことです。ええ喜んで」

 プライドの高い執事の、ここまでの発言を聞いて、本当かなと涼しげな眼差しを送りつつも、そうまで言わせるほど大事な会談なのかとカピは理解し始めてもいた。

 執事は、主に彼らと直接対応せざるを得ないメイドのプリンシアに向けて
「とにもかくにも、決して彼らを怒らせたり、気分を損ねたりさせないようにして下さい。要らぬことをしゃべらず、基本黙ってする事だけする。カピバラ家の命運、カピ様の今後がかかっていると思って」

 「了解了解! どんな事があっても、指示があるまで殴らないほうがいいってことよねぇ、じゃナックルは外して置くわぁ」
 何処まで分かってくれたのか、ドワーフおばさんプリンシアは相変わらずの笑顔だ。

 「あたりまえです!!」執事の怒鳴り声が食堂に響く。


 ――はたして翌朝、運命の日
 嵐のような会談が砂嵐と共に始まろうとしていた。
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