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さようなら

作者: 目262

『さようなら、お母さん。ぼくを育ててくれてありがとう。さようなら、お父さん。ぼくのためにいっしょうけんめい働いてくれてありがとう。さようなら、先生。勉強を教えてくれてありがとう。さようなら、学校のみんな。一緒に遊んでくれてありがとう。今日ぼくはみなさんとお別れします。そうしろと言われました。本当にありがとう。さようなら』

「先生、今朝うちの子の机にこんな手紙が。あの子はどこに行ったんです!」

「お母さん、同じ内容のメールや手紙が私や同級生達にも届きました。今、全職員と警察で捜索しています」

「この手紙には、誰かにそうしろと言われたと書いてある。息子はいじめられていたんじゃないのか!」

「落ち着いてください、お父さん。彼は勉強もスボーツもできて、誰からも好かれて、クラスの中心でした。決していじめなど。その証拠に全校の生徒達も進んで探してくれています」

「しかし、この手紙は明らかに遺書じゃないか……」

 三人がいる職員室に重い空気がのしかかった。あの快活で天使のように愛らしい少年が、まさか。全く考えられない事だ。そこへ、少年の同級生が飛び込んできた。

「先生、いたよ!学校の屋上に!」

「まさか。最初に探したのに」

 彼らが屋上に上がってみると、全教員と生徒達、警官、地元マスコミ等の人だかりがあった。その中心に一人の少年が泣きながら立っていた。

 母親は一目散に駆け寄り、少年に抱きついた。父親が息子の肩に手を置く。だが、彼は泣きじゃくり、こう繰り返していた。

「さようなら。さようならみんな……」

「そんなこと言わないで。私達、あなたを守るから」

「そうだ。だから生きてくれ」

「違う。違うんだ」

「何が違うの?何を言いたいの?」

 戸惑う両親に、涙を流して少年は呟く。

「さよならするのは、ぼくじゃないんだ」

 その時、上空から大きく太い声が響いた。

〈お別れは言ったね。では消すよ〉

 次の瞬間、少年を除く全員が掻き消えた。学校も、町も消えた。地平線が見渡せる程に何もない平原に少年だけが立っていた。

「本当にぼくだけになっちゃったの?」

 彼は天に向かって心細そうに尋ねた。

〈君ともう一人が、この世界に残された。君達だけが正しい人間だったからだ〉

「これからどうしたらいいの?」

〈もう一人と仲良く暮らしなさい。そして地に満ちなさい。全てをやり直しなさい。新しいアダムよ〉

 唐突に少年の前に少女が現れた。彼女も泣いていた。少年と同じ経験をしてきたのだろう。一目で少年は少女が好きになり、この子がいれば寂しくないと思った。彼女も同じ気持ちらしい。二人は泣き笑いを浮かべながら、同時に口を開いた。

「こんにちは」

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