倫理に反する事も色々と出てきますが書きます。
おこがましいかもしれないけれど、反面教師として、
似たような境遇に今いる人に何か一助となれば…
と少し思ってます。
第33話『迫りくる春に怯えて』
神経性胃炎と胃潰瘍。
それに過呼吸の発作が併発。
胃の内部のそこらじゅうがボロボロになっていたらしく、
「よくこんなになる迄、我慢してましたね。」
と医者に言われた。
二月に入る頃から、
仕事で大きなストレスを抱えていたこともあり、
そこへもってきてノブヒコさんとも多忙の為に逢えない時間が増え…
確かに、このところ気持がかなり辛かった。
もっと逢いたくても、
そんなことは言えない。それが不倫の恋人。
次はいつ逢える、
せめてその予定があるだけで、その日を楽しみに毎日を頑張れる。
でも、予定なんて貰えない。
スケジュールの隙間と、タイミング、言い訳出来る状況と空気、
それらがうまく揃う瞬間はいつやってくるか読めないのだから。
今日は逢えるかも!
期待しては、その勝手な期待は裏切られる。
胃が毎日痛くて、「ああ、年だわ〜」なんて思ったりしてた。
もちろん、”倒れる→救急車→入院”なんて初めてのこと。
御蔭様でこの歳になるまで、”入院”には縁が無かった。
かつぎ込まれた病院で薄れそうな意識の中、
医者や看護婦が私に訊ねるのが聴こえた。
「御家族の連絡先は??」
私に家族なんてものは居ない。
その時初めて、自分が”天涯孤独”の身であることを
リアルに実感したような気がする。
アル中・虐待・労働放棄で借金まみれの父、
その実の父に殺されかけたこと…
そんな酷い父との間に無責任に子を産み落とした母、
出しゃばりでモラハラ、不倫に走る母…
私の中に両親への恨みが巨大に根付いていて、
私が我が子を三人も殺してしまった過程で
このことが大きな影響を及ぼしていたのは述べてきたとおり。
(※第18話『親というもの…』参照)
その実家とも私がニ度目の離婚をして以来、縁が切れたままだった。
離婚をどうこう言われたからでは無く、
ちょうど都合がいいから私から関わりを絶っていたのでした。
本木家というまともな家に嫁いでいた私は、
結婚中は婚家からの指示や夫からの指示もあって、
盆と正月には夫を伴って実家に顔を出していた。
けれど、離婚したのでもうその必要も無くなった。
私にとってはこのまま実家との関わりを絶つ良いきっかけだったのだ。
したがって、私は”天涯孤独”の身、
緊急入院したって知らせる家族は居ない。
「家族も親戚も誰も居ません。
だから誰にも連絡しなくて結構です。」
朦朧としながらそれだけ答えた私は、
そのまま沈静剤か何かのせいか、深い眠りに落ちていった。
気がつくと病室のベッドにいて、
傍らにはノブヒコさんが居てくれた。
倒れた時の現場には彼は居なかったけれど、
直属の上司である彼にはすぐに連絡が行き、駆け付けてくれたのだった。
「驚いたよ。無事で良かった…」
「ごめんなさい…、私…」
「入院しなきゃいけないらしいから、
着替えとか必要なもの僕が松尾さん家から取ってくるよ。」
彼が”天涯孤独”のはずの私の家族の代わりをしてくれた。
普通の彼氏ならまだしも既婚者である彼が…
「こんな時に力になれて嬉しいよ。心配しないで、何でも言って。」
それから私が入院している一週間余りの間、
彼は毎日欠かさず仕事帰りに私の病室に通ってくれ、
面会終了時間ぎりぎりまでずっと傍にいてくれた。
普段の生活なら毎日逢いに来てくれるなんて事は無いのだから、
私のストレスはたちまちに消えていった感じだった。
片時も手を休める事無く突っ走り続けていた仕事も、
何も無い病室では一切忘れるしか他になくて、
入院中の私は、ぼんやりと一日中考え事をしている状態だった。
ノブヒコさんと出逢ってからもうすぐ丸一年。
出逢った頃のドキドキ…
デートを重ねた夏…
初めて二人で眠った私の誕生日…
この秋の横浜旅行での幸せな時間…
お互いにこんなはずじゃなかった。
こんなに深く愛しあうなんて。
愛し過ぎてしまっていることは痛感してる。
「僕は今まで、こんなに心底人を好きになった事、一度も無かった。
嫁さんとも恋愛だったけど、こんな気持にまでは、なったことは無いし。
こんなこと言っちゃいけないんだけど、
なんで出逢うのが今だったんだろうって思うよ。これが運命なんだろうけどね。」
ノブヒコさんは何度となくそう言ってくれていた。
真面目で、独身の頃から浮気なんてしたことがなくて、
一生浮気も不倫もしない自信があったと言うノブヒコさん。
実直で誠実な人だから、不倫の恋をしたからといって、
「家庭が上手くいってない」とか
「離婚してるも同然だ」とか
世の不倫男性がクチにしがちな調子良いことは一切言わなかったし、
それどころか、
「家庭は上手くいってるし何より子供が可愛いから離婚もしない」
と明言している。
もちろん私もそんなことを欠片も望んでいない。
だからこそかえって、ノブヒコさんの言葉には真実味があった。
31年のノブヒコさんの人生の中で、最大の恋愛だと…
私は?
私にとってノブヒコさんは?
私の29年の人生の中で最大の恋愛って?
人生最大の恋愛と聞いてもちろん頭をよぎるのは、
15歳からくっついたり離れたりを繰り返して来た筒井君だけど…
(※筒井君については大変ですけど過去を読み返してみて下さい。)
どんな恋愛をしても15年近くもの長い間、
結局誰も彼を超える事はなく、
「私には筒井君しかダメなんだ。」
という思いを確認するばかりだった。
こんなに愛しているノブヒコさんのことも、
所詮は筒井君にはかなわないのだろうか?
そんなことを自分に問いかけていた。
もう春がそこまで来ている…
私達が出逢ってから一年になろうとしている…
ノブヒコさんを含めて、我が社の男性社員は転勤族。
日本全国、いや世界中のどこにでも転勤を繰り返すのが当たり前なのです。
赴任の期間は様々だけど、一般的なのは三〜五年前後。
もっと短いのも長いのもあるけれど大体そのくらい。
ノブヒコさんは我が支社にすでに五年。
いつ転勤してもおかしく無い状態…
しかも前任地が隣接県だったことから、
次の転勤先は遠方の可能性が大なのです。
春が来る…
ということはノブヒコさんの転勤辞令が来るかも知れない。
我が社の人事異動は四、六、十月あたり。
四月が来たら彼が居なくなってしまうかも知れない…
「転勤で遠くに離れてしまっても僕の気持は変わらないから。」
「たとえ月に一度とか、何ヶ月に一度とかしか会えなくなったとしても、
僕の気持ちはずっと変わらない。ちょっと変わってて僕だけだと思うけど、
普通は逢えないと気持ちが離れちゃうとか言うけどね、
僕は絶対に気持ちが離れたりしないんだ。距離とか、逢う逢わない関係なく、
ずっと変わらずに想っていられるんだ。」
「それに、もう何があったって一生忘れられる訳がないんだよ。」
ノブヒコさんはそう言ってくれてた。
でも私は『遠距離恋愛不成立』論者だった。
”遠くのダイヤより近くの石ころ”
そうなるに決まってる。
離れたらお終いだと、そう思っていました。
人間はそんなに強いものでは無いから。
私自身が究極の寂しがり屋で、
たった数日逢え無いことに耐えられないというのに、
ずーっと離れているなんて絶対に耐えられる訳が無い。
絶対に離れたくない…
でも、転勤はいずれ近々必ずやってくる。
彼が転勤になった時、私は?
私は一体どうする?
迫りくる春を前に、私は必死にもがいていた。
いかがでしたか?
松尾璃玖の実話小説、
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