私とMMC その3
「うちの学校には魔女がいる」
普通の学校ならばそんな言葉は下手糞で落ちのないジョークか何処にでもあるような怪談話の類として処理されるだろう。
でも、うちの高校は違う。
「うちの学校には魔女がいる」
と誰かが言えば、
「ああ、長柄さんのことだろ?」
と誰かが答えることだろう。
うちの高校において魔女とは長柄さんを指すということは常識らしい。
まあ、長柄さんを一目見れば分かると思う。腰辺りまで滅茶苦茶長い黒髪、私以上に不健康な青白い肌、ぎらぎらと光る切れ長な金色の瞳、妙に赤い唇。そして魔女に付き物の例の三角帽子に黒いローブ。ほら、見てよ。魔女じゃん。てか魔女じゃなかったら魔女以外の何者よと逆に聞きたい。
うちの学校の魔女こと本名長柄潤子さんは三年生でうちの倶楽部の部長を務めている。この不法占拠地帯の最終責任者にして私達のボスだ。
「こんにちは。長柄さん」
私は魔女に挨拶して手近なテーブルに鞄を置いた。
長柄さんは机の上にある紙に何やら一生懸命に書き物をしているようだ。時折、気難しげに首を傾げている。
私は特にやることもないのでお茶でも淹れることにした。
「秋良さん。今日はそのBの箱のお茶とAのお茶とKのお茶とAのお茶を淹れて下さい」
「………はぁ……」
どーいう理由があるのか分からないが長柄さんは毎日お茶を淹れる時にこういった注文を付けてくる。お茶の箱はAからKまである。私にはそれぞれが何で、どんなものなのか分からない。ただ言われるままに淹れるだけ。別にいいんだけどね。
えーと、BとAとKとAて、Aが二つ…。
「……わざとですか?」
「うふふ、分かりました?」
そりゃ分かる。
「うふふ、本当はAとKでお願いしますね」
やれやれ。面倒臭いなあ。
「おはようございます」
お茶の量を測っていると時間外れな挨拶の声が聞こえた。
第一事務室から壁の大穴を通ってやってきたのは二年の澄石さんだ。長い前髪を左右に分け後ろは耳辺りで切り揃えた髪型、猫を思わせる大きな瞳、いつも少し端が上がっている桃色の唇。すっと通った鼻筋。大層美形な女性だ。
この澄石さんは生徒会のナンバー3のポストである書記長を務める倶楽部の副部長だ。大人しく生徒会のお仕事に集中してればいいのに。
「今はおはようじゃないでしょう?」
長柄さんが言った。
「いえいえ、おはようで良いのです」
澄石さんはにこにこ明るい笑顔で言った。
「何故なら、私はさっき起きたばかりだからです。ほんの十数分前まで夢の国にいました。えへん」
胸を張る澄石さん。全然威張ることじゃないよ。生徒会のナンバー3がそんなんでいいの?
「問題ならありません。私は上体を起こしたまま微動だにせず寝ることが出来るのです。澄石ちゃん十の秘密の一つ!」
再び胸を張る澄石さん。張る胸も無いけどね。
「……涎の跡が…」
「おっと、失礼」
澄石さんはブレザーの袖で口の辺りをぐしぐしと拭う。
お茶が出来た。
「花町先輩はまだですかね?」
私は長柄さんにお茶を差し出しながら何気なく聞いてみた。今現在うちの倶楽部は長柄さん、澄石さん、そして私ともう一人の花町先輩という方の計四名で構成されている。
「そーですね。遅いですね。呪いですね」
「呪い………」
「ええ、魔法魔術倶楽部なんですから、それくらいしなくては名前負けしてしまいますわ」
変な理由。
「何がいいですかね? リクエストなんかあると決め易いんですけど」
「そんな今日の晩飯どうするみたいなノリで聞かれても……」
「偏頭痛の呪いはどうでしょう?」
私が困惑していると澄石さんが意見した。
「しかし、下痢も捨てがたい」
しかも、どーでもいいことで悩んでる。
「まあ、とにかく呪ってみましょう」
長柄さんは爽やかに微笑んで言いながら立ち上がった。そんなところで爽やかアピールされても……。
しかも、書きかけの紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んでから歩き出す。一生懸命書いてたのは何なのさ?
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