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魔女と子供の召使と魔女狩り

「魔女と子供の召使」の続編というか、こぼれ話です。

書きたくなったので、書いちゃった。

僕はいつも続編的なものを書く時、できる限り単体でも楽しめるように書くのですが、今回はあまり自信がありません。

 「僕をさらった? それなら、本当のママだね!」

 

 ロマスは、魔女のタバサが召使にする為にさらってきた子供だった。タバサがその事を伝えた時、何故かロマスはそう言って喜んだのだった。

 ロマスはよく演技をする子供だ。しかし、その時に喜んだのは演技ではなかった。彼は間違いなく本心から喜んでいた。

 “求められている”

 そこには、或いは、そんな思いがあったのかもしれない。

 

 ロマスは孤児だった。少なくとも、彼自身はそう考えていた。彼は人さらい達の許で暮らしており、その頃、彼は家事や読み書きなどを必死に身に付けていた。そうすれば、人さらい達が喜ぶからだ。彼らが喜ぶのは、ロマスの商品価値が上がるからだと分かっていなかったロマスは、彼らが自分を求めてくれているとそう思っていた。

 だから、売られて違う家に行く事になった時には、その意味を理解できず、深い断絶と孤独を味わった。

 ロマスを買ったのは、少し裕福な程度の家で、そこでのロマスの役割は、“家事を手伝う事のできるペット”だった。要領の良いロマスは、その役割を演じきった。だからもちろん喜ばれたが、それでも不況により家が傾くと、ロマスは別の家へと売られた。何度かそんな事を繰り返すと、経済的に苦しくなってもロマスを売らない良い“ママ”にめぐり逢えたが、その彼女も流行り病にかかり入院してしまった。そしてそんな頃、ロマスはタバサにさらわれたのだ。

 ロマスがそれに喜んだのは、彼女が“自分を求めている”と感じたからだろう。その辛い境遇の所為で彼は“求められる事”に飢えていたのだ。

 ロマスがやって来たのは秋の終わりの頃で、今は初夏だから、もう半年以上もロマスはタバサの屋敷で働いている事になる。すっかり彼は屋敷に馴染んでいた。

 

 「なんでも、魔女狩りの連中が、街に来ているそうだよ」

 

 と、タバサが言った。

 すったもんだがあって、タバサに正式(?)に雇われたロマスだが、だからと言ってそれまでの態度を変えたりはしなかった。彼はその程度の事で動揺する子共ではなかったし、タバサもその方が喜ぶと分かっていたからだ。もっとも、それをタバサに言ったら、「ハッ わたしゃ、もっと従順な召使の方が良いね」などと言うだろうが。

 それはちょうど朝食を食べていた時の事で、ロマスはベーコンエッグが上手にカリッと焼き上がった事に上機嫌だった。朝の爽やかな雰囲気も影響していたのかもしれない。

 「ふーん。でも、誤魔化せば良いだけの話でしょう?」

 ロマスは特にそれを気にせず、そう返す。するとタバサはこう言うのだった。

 「ところがだ。今回、魔女狩りの連中は、嘘を見抜く魔法道具を持っているらしいんだよ。誤魔化そうと思っても、それで見抜いちまうって話だよ」

 それを聞くと、少し考えてからロマスはこう返した。

 「なるほど。つまり、嘘をつかないで、上手く誤魔化せば良いって事だね」

 まるで何でもない事のように。少しも不安になっていない。そのロマスの言葉に、タバサは変な顔をした。

 「お前は、時々、よく分からない事を言うネェ」

 と、そしてそう言う。

 「まぁ、もっとも、魔女狩りの連中が、この森の中にまで辿り着いた事は今までないから、余計な心配かもしれないけどね」

 タバサの屋敷は、深い森の中にあるのだ。ここまでやって来る人間は滅多にいない。魔女狩りの人間達だって、遭難覚悟で森に入らなければ、見つける事は不可能だろう。そして魔女狩りの連中も、普通はそこまではやらない。

 それから朝食を食べ終えると、タバサは薬の調合部屋兼実験部屋に入ってしまった。ロマスは朝食の後片付けを終えると、掃除をし始める。彼は家事が好きだから、それを楽しそうにやっていた。やがて時刻は流れ、朝の爽やかな雰囲気が消えて少しずつ暑くなってくる。後少しで昼食の準備をし始めなくてはならないだろう時分になって、玄関の戸がノックされた。

 

 ――コンコン。

 

 それは小さな音だったが、それでもロマスは驚いた。タバサの友人の魔女かとも思ったが、少し気配が違う。複数人いる。ロマスは「まさか」と呟きながら、ゆっくりと玄関の戸を開けた。

 戸を開けると、兵士が三人。一般家庭を訪ねるにしては、随分と物々しい恰好でそこにいた。瞬間、ロマスは察する。

 “魔女狩りだ”

 どう見ても普通の子共に見えるロマスが現れた事で、兵士達は警戒心を解き、安心をしているようだった。

 “ママが、出なくて良かったなぁ”

 と、それでロマスは思う。

 「こんな森の中の屋敷に、何の御用でしょうか?」

 軽く首を傾げながら、ロマスはそう尋ねる。すると兵士の一人がこう言った。

 「今日は。あまり怯えないでくれ。我々は国の兵士だ。実は今、調査を行っていてね。この家が何なのか知りたいんだ。どうして森の中にあるのかとか」

 「それは、わざわざこんな所にまで、ご苦労様です」

 ロマスは愛想よく笑いながらそう言った。それからこう続ける。

 「そうだ。お疲れでしょう? レモネードなどはどうですか?」

 見るからに兵士達は疲労困憊していたのだ。もしかしたら、一晩森の中を彷徨っていたのかもしれない。その言葉に兵士達は顔を見合わせた。そして、「それは助かる。お願いしようかな」などと言う。

 ロマスはそれを聞くと、「少し待っていてください」と言い、レモネードを作りに台所へ向かった。塩分が不足しているだろう事を考慮して塩入だ。塩は少し高価だが、誤魔化す為の賄賂だと考えれば安い。

 レモネードを作り終え、それを運びながらロマスは思う。

 “確か、嘘をついちゃ駄目なんだよな”

 レモネードを兵士達に渡しながら、ロマスは先ほどの兵士の「どうして森の中にあるのか」という質問にこう答えた。

 「この家でママは、森の中で取ったキノコや薬草などを使って、薬などの研究をやっているのです。だから、こうして森の中の屋敷で暮らしているのですよ」

 ロマスは少しも動揺せず、澄ました表情でそれだけの事を言った。タバサがこの屋敷に住んでいるのは、確かに薬の研究の為でもある。嘘ではない。ただし、それは彼女が魔女だからだけど。

 レモネードを美味しそうに飲みながら、兵士は何かの道具を見つめるとそれに頷く。恐らくは、嘘を見抜く道具が反応をしなかったのだろう。

 次に兵士はこう質問した。

 「そうか。なら、君のお母さんに会わせてくれないかな? この屋敷の中にいるのだろう?」

 それにロマスは「いいですよ」とそう応える。それからタバサのいる薬の実験室の戸を開ける。ところがそこで彼は大声を上げるのだった。

 「うわ! ママ! なんて恰好をしているの? お客さんが来ているのだから、もっと普通の格好をしなくちゃ駄目だよ」

 タバサはそれにこう返す。

 「お客さん? 一体、誰だい?」

 「だから駄目だって、ママ。そんな恰好で出て来たら」

 それからロマスは兵士達の所に戻ると言った。

 「すいません。今ママは、少しばかり開放的な恰好をしていまして。ほら、ここは人里離れた森の中なものですから」

 確かにタバサは開放的な恰好をしていた。いかにも魔女といった服装。それを暑くなってきた所為で薄着になっているのだと勘違いをした兵士達は「ああ、それなら仕方がない」といった風に頷いた。もちろん、これも、嘘ではない。

 それから空になったレモネードのコップをロマスは受け取ると、「どうですか? 少しは疲れが取れましたか?」と尋ねた。兵士の一人が「ああ、ありがとう。美味しかったよ」と返す。

 「それは、良かった」

 と、ロマス。

 最後に、兵士はこんな質問をした。

 「ところで、君のお母さんは、本当に君のお母さんなんだよね?」

 それにロマスはニッコリと笑うとこう答えた。

 「はい。もちろん」

 兵士はまた道具を見ると、何も反応がなかったのか、「レモネードをありがとう」と言うと、そのまま屋敷を去って行った。

 

 昼食。

 「ところで、さっきのお客さんは誰だったんだい?」

 そうタバサが訊いて来た。ロマスはこう返す。

 「うん。魔女狩りの兵士さん達」

 タバサはその言葉に驚いた。

 「よく、あっさり帰って行ったね」

 それにロマスは何でもない事のように、こう応える。

 「うん。本当の事しか言わなかったからね」

 それから軽く微笑むと、

 「ね、ママは僕の本当のママだもんね」

 とそう言う。タバサはその言葉に不思議そうにした。

 「何を言っているんだい、お前は?」

 もちろん、それもロマスにとっては、嘘ではなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 賢く、大人よりも機転が利くのに、子供らしい純真さも兼ね備えたロマスくん。そしてややツンデレで素直ではない魔女(しかし意外に単純な一面も持ち合わせている)。彼等の掛け合いがとてもユーモラスで…
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