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誰もが人生の中で体験する悩みの中で立ち止まってしまった時、もう一度歩き出せる勇気と希望が湧いてくるように……。そんな願いを込めながら書きました。楽しんで読んでもらえると嬉しいです。
第1章 風波を静める鳥
 手のひらに、錠剤が一粒、二粒と落ちてゆく。
 錠剤というより、どこか夜空の星屑のよう。
「星が降るようだ」という言い方があるけれど、それはまるで彼女の白い手のひらをめがけて天から降ってくるかのようでもある。そして、いつしか降り積もる。
 20粒、60粒……。
 とうとう100粒を数えた。
 錠剤の名はハルシオン。
 第三種向精神薬、つまり睡眠薬である。その性質上、当然のことながら限度を越えた量を服用すれば、呼吸抑制を引き起こし、やがて生命は閉ざされる。
 彼女はそれを望んでいるのだろうか。その表情は、子どもがとっておきの宝物の数をかぞえてでもいるかのよう。
 白く透けるような頬は、たしかにその底に哀しみを抱えている。しかし、いっさいを投げ出し、いっさいから逃げて自らの生命の道を閉ざすという、そうした弱さはどこにも見えないのだ。
 彼女のこれまでの華麗のときを知る者からすれば、とうてい信じられることではない。彼女自身が、自らのちからでその華やぎにのぼりつめた女なのだから。
 いったい彼女は、その夜、その手のひらの星々にどういう思いを託しているのだろう。
 そして星々はいま、彼女の口に含まれた。
 ハルシオン。
 それは、ギリシャ神話に登場する、風波を静めるという伝説の鳥の名である。医薬品メーカーが、その名をこの薬に与えた。
 彼女は、彼女の風波を静めようとしているのだろうか。
 もしそうなら、それはどのような風波なのだろう。


 彼女をヒロと呼ぼう。
 それは彼女が、この世の祝福のすべてを受けて生まれてきたかのような、輝きの少女時代から呼ばれていた名だ。
 ヒロはどこへ行こうとしているのだろう。
 何を拒み、何を渇望しているのだろう。
 何に挫け、何を克服してきたのだろう。
 それを知るためには、ヒロの、その宝石のような少女時代から振り返ってみるのがいいだろう。
 時を1970年代後半、土地を福島県の会津。
 そこへ戻って、この物語をはじめよう。


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