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治療完了、目をさますよ 作者:天寧霧佳

【4】 スカイフィッシュ

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第11話 発狂非人道

【あらすじ】
健常者の精神を守るために、夢世界で物体を構築する「変質」の訓練を受けることになった汀と理緒。
理緒は体調不良が続く汀の精神にソフィーと共にダイブしますが、そこにドクロマスクの男……スカイフィッシュが現れます。
為す術もなくやられるソフィー。なんとか切り抜ける理緒でしたが……。

【登場人物】
高畑汀たかはたみぎわ
  半身不随の少女。左腕も動かず、寝たきりの生活を送っている。13歳。
  マインドスイーパーとしてとても高い能力を持っている。
高畑圭介たかはたけいすけ
  汀の主治医。とても冷酷で冷静な物言いをする。
小白こはく
  汀が拾った小さな猫。白い。マインドスイーパーの力がある。
片平理緒かたひらりお
  赤十字病院所属のA級マインドスイーパー。精神の中核を触れる。
・フランソワーズ・アンヌ・ソフィー
  フランス赤十字病院所属のスイーパー。天才的な頭脳を持っている。
工藤一貴くどういちたか
  理緒が赤十字病院で出会った少年。ナンバーズの一人でX番。
加原岬かはらみさき
  結城達により保護されたナンバーズスイーパーの一人。
結城政美ゆうきまさみ
  ナンバ―Xと岬を保護している謎の女医。
ハワイのビーチで、岬は楽しそうに水を足で蹴っていた。
それを、椰子の木の下で膝を抱えていた少年が見つめている。
やがて岬は、水を蹴ることに満足したのか、足早に少年のところに戻ってきた。

「いっくんも来ないの?」

問いかけられて、彼……一貴は苦笑して口を開いた。
彼の喉には包帯が巻きつけられており、声はしわがれて、少しガラガラしている。

「俺はいいよ……もう、呆れるほど遊んだし」
「そうなんだ」

一貴の隣に腰を下ろし、岬は病院服の裾を直した。
そして、ジーンズにTシャツ姿の一貴を、不思議そうに見る。

「ねぇ、どうしていっくんは普段着でいられるの? 夢の世界では、単純なものしか具現化できないはずだよね」

問いかけられて、一貴は肩をすくめた。

「それは、医者が勝手に決めたルールだよ……所詮夢なんだ。やろうと思えば、何でもできる」

そう言って、彼は足元の砂を手で掴んだ。
そしてギュッ、と握り、手を開く。
そこには、クリスマスツリーの先端につけるような、キラキラと輝く、手の平大の星があった。
目を丸くした岬にそれを放って渡し、一貴は息をついた。

「こんなことも」

彼は砂の中に手を突っ込んだ。
そして中から、長大な日本刀を抜き出す。

「嘘……」

呆然としている岬を尻目に、一貴は日本刀の刃をじっと見つめた。

「『ここにある』と『錯覚』するんじゃなくて、『実感』するんだ。そうすれば、夢は現実になりえる」

それを聞いて、岬は自分も砂を握りこんで、目を閉じて何かを念じた。
そして手を開く。
しかし、そこにはただ、真っ白い珊瑚礁の砂があるだけだった。

「あたしには出来ない……」

残念そうに呟いた彼女に、一貴は日本刀を脇に置いて続けた。

「やり方は、おいおい教えていくよ。でも難しいかも。今も、頭の中のどこかで、『これは砂だ』って思ってるから変質しなかったんだ……」
「でも、砂は砂だよ」
「そうだね」

一貴がそう言った途端、日本刀と星が、サラサラと砂になって散った。

「コントロールだよ。夢の。何もかもを『思い込む』柔軟性が必要だ……訓練である程度は出来るようになると、思う……」

自信なさ気にそう言って、一貴は息をつき、喉の傷口を押さえた。

「まだ痛む?」

岬にそう問いかけられ、彼は頷いた。

「中々治らない……畜生。あの野郎……」

一瞬一貴の目がギラつく。
それを見て、岬は静かに彼の手に、自分の手を重ねた。

「落ち着いて。あたしがいるよ」
「……ああ、そうだね」

頷いて、また息をつき一貴は顔を上げた。

「そろそろ起きよう。結城が煩い」
「……何だよ……」

顔面をグーで殴られてハンモックから転がり落ちた一貴を、雑然と散らかった部屋の中で、結城は睨みつけた。

「岬をお前の夢の中に連れ込むなっつぅのが理解できないのか? お前の脳みそはバッタ以下かよ」

吐き捨てて結城は、勝手にダイブ機械の椅子に座っている岬を見て、頭を抑えた。
点滴をしている彼女は、まだ体をぐったりと弛緩させている。

「あと二時間は起きないぞ。薬まで勝手に使って……」
「別にいいだろ。てゆうか、毎回毎回こうやって強制的に起こすのやめてくんない? ……脳細胞が死滅するよ、割とマジで」

肩をすくめて、一貴は岬に近づくと、彼女に被せていたヘッドセットを取り除いた。
そして点滴の針を抜いて、彼女を抱え上げる。
一貴が、自分が寝ていたハンモックに岬を移動させているのを見て、結城はため息をついた。

「……で? その子の信頼は得られそうかい?」
「信頼も何も、僕達は元々、強い絆で結ばれてるんだ。それに岬ちゃんは僕に惚れてる。信頼を得るもクソもないよ」

淡々とそう言い、一貴は大きくあくびをした。

「……で? 僕を起こしたのは、相応のわけがあるんでしょ?」
「仕事だ」

床に座り込んだ一貴に資料を放り、結城は腕組みをして彼を見下ろした。

「そいつを、岬と二人で『殺して』欲しい」
「へぇ」

一貴が頭をぼりぼりと掻いて、写真を見た。

「いいの? 機関はもうちょっとゆったり活動していくものだと思ってたけど」
「今まではただの準備段階だ。本番はこれからだ」

結城は不気味に口元を笑わせながら、目を細めた。

「できるのかい? できないのかい?」
「多分、対マインドスイーパー用の護衛を連れてる。どれくらい強力な奴か知らないけど岬ちゃんは連れて行かないほうがいいかも」
「機関は、あの子の有用性も証明したいんだよ」
「そういうことなら別にいいけどさ。まぁ、責任はあんた達でとってね」

しわがれた声でそう言い、一貴はまた写真を見た。

「…………やっと一人目だ」

彼の呟きを聞き、結城は頷いた。

「ああ、そうだな」



「心に『ロック』をかけてもらいたい」

圭介にそう言われ、だだっ広い会議室の中、理緒はきょとんとして首を傾げた。

「ロック……? 鍵ですか?」

「そうだ。今回の仕事は、自殺病患者の心の中に潜るんじゃない。至って普通の、異常がない人間の心の中に潜る」

圭介はそう言うと、ホワイトボードに貼り付けた写真を指で指した。

田中敬三たなかけいぞう……名前だけは聞いたことがあるだろう」

会議室には他にも数人医師や教授が参加しており、理緒の隣には、すぅすぅと寝息を立てている、車椅子の汀がいた。
彼女が抱いている猫、小白も寝ている。
問いかけられた理緒は、頷いて、少し考えた後言った。

「ええと……一年前に、警視庁を退任した警視庁総監のことですよね」
「正解だ。よく知っているな」

圭介は頷いて、視線を理緒に戻した。

「一時期、汚職などで随分と騒がれたからな。今は総監を退任して、警察学校の校長として働いている。来年定年だ」
「それで……その人の心の中に、鍵をかければいいんですか?」
「そうだ」
「あの……具体的に何をすればいいのか、全然分からないのですけれど……」

周囲の痛いほどの視線におどおどしながら理緒が言う。
圭介は頷いて、自分の席に座ると、手を伸ばしてホワイトボードに丸い円を書いた。

「仮にこれが人間の精神……つまり心だとする。それを最も端的に表した形だ」
「はい。そうですね」

頷いた理緒から視線をホワイトボードに戻し、圭介は続けた。

「人間の精神は何ヶ層かに分かれていて、中核はその中心にある」

彼は円の中にまた数個、なぞるように円を書き、そして中心に小さな丸を書いた。

「心……精神とは形がないものだ。でも、現に中核は存在する。じゃあその中核って何だと思う?」

聞かれた理緒は、しばらく考えてから答えた。

「その人そのものだと思います」
「正解だ。人間の存在そのものに形を定義することは出来ない。でも、物質としてこの世に存在している以上何かしらの核はなければいけない。それが精神中核だ」

圭介は息をつき、手元のペットボトルから水を口に運んだ。

「……それでだ、今回のダイブでは、いつも君達がやっているように、精神中核についた汚染を取り除くのではなく、逆に、取り除く前に行う『予防』をやってもらいたいんだ」
「自殺病の……予防が出来るんですか?」

素っ頓狂な声を上げた理緒を落ち着かせ、圭介は頷いた。

「まだ実際のところ、世界的にも成功した例はないが、理論的には可能なんだ。理論といっても単純明快なことだ。精神中核を、傷つけないように、何か強固なもので守ればいい」

円の中心の丸を、四角い線で囲んで、圭介は続けた。

「つまり君達が、常時自殺病のウィルスから中核を守っているような状態だ。だがそれが、実際は不可能なことだ。だから、何かを精神内で『構築』して、中核を入れる。それは金庫でも、アクリル製の箱でもいい。とにかく守れるイメージを作り上げる。これが予防だ」
「でも……精神世界内では、思うとおりのものは具現化できないんじゃ……」
「出来る例があるんだよ」

首を振って、圭介は言った。

「まぁそれは、おいおい話していこう。今日は二人の『訓練』だ。それに、心強い助っ人も用意した」
「助っ人?」
「隣の部屋で待ってるよ」

圭介はそう言い、ニッ、と笑った。



まだ眠っている汀の車椅子を押し、ぞろぞろとついてくる医師たちを尻目に理緒は訓練室と書かれた部屋の中に入った。
マインドスイープの訓練をする部屋だ。
彼女にとって、なじみが深い場所でもある。
そこで、四人のSPに周囲を固められたソフィーが、座って携帯を弄っているのが見えた。
彼女の目じりにはクマが浮かび、どこか不健康そうだ。
ソフィーは顔を上げて理緒を見ると、少しだけ安心したような表情になった。

「片平理緒。久しぶりね」

呼びかけられ、理緒もふっ、と軽く笑う。

「ソフィーさん。また日本にいらっしゃったんですか」
「ええ。今回のダイブに、私の協力がまた必要だって要請を受けてね。日本には他に人員がいないの?」

鼻の脇を吊り上げて馬鹿にしたように笑い、ソフィーは椅子に座ったまま腕組みをして理緒を見上げた。

「まぁ、一度一緒に仕事をした間だし、暇を縫って来てあげたわ。精々感謝しなさい」
「はい! またソフィーさんに会えて嬉しいです!」

ニコニコしながら理緒が頷く。
その実直な態度とは裏腹に、まだ眠っている汀を、ソフィーは腫れ物でも触るかのような顔で見た。

「この小娘……」

毒づいて、彼女は圭介を見た。

「ドクター大河内の件は聞いたわ」

理緒がそれを聞いて、ビクッと体を振るわせる。

「残念ね」
「ソフィーさん、大河内先生はまだ生きています。大丈夫です!」

声を上げた理緒に、ソフィーは何かを言いよどんで口をつぐんだ。

「そうね……失言だったわ」

彼女にしては珍しく肯定し、目尻を押さえる。

「大丈夫か? かなり疲れているように見えるが」

圭介がそう口を開くと、ソフィーは彼を睨んだ。

「あなたに心配されるようなことは何もありません」
「相変わらずつれないな。今回は、研究の意味もかねて、日本の赤十字委員会の方々が同席する。ソフィーは、それで構わないな」
「勝手にすればいいわ」

吐き捨てて、ソフィーは立ち上がった。

「この二人に、構築を叩き込めばいいわけね」
「よろしく頼む」

圭介はそう言って、ダイブ機を手で示した。

「今回は、汀の精神世界を借りる。過酷な環境だと思うが、三十分で何とかマスターしてくれ」



理緒が目を開けた時、そこは炎に包まれていた。
思わず悲鳴を上げて、しりもちをつく。
そこは、民家の中だった。
燃えて周りの家具が倒壊してきている。
不思議と熱さは感じなかった。

「何……ここ……」
「チッ……スカイフィッシュの悪夢……この子も浸食されてきてるのね……」

ソフィーが舌打ちをして、理緒の後ろで声を上げる。
理緒は振り返って、ソフィーに言った。

「スカイフィッシュ……? 何ですか、それ……?」
「あなたは知らなくてもいいことよ」

ソフィーはそう言って、周りを見回した。

「直に、本当に熱くなってくるわ。ここを出るわよ」
「汀ちゃんはどこにいるんでしょうか?
「多分逃げ回ってると思う。こんな状況でレッスンなんて……」

歯噛みして、ソフィーは息をついた。

「……贅沢は言わないわ」

そう言って、ソフィーは理緒の手を握った。
そして出口に向かって駆け出そうとして、動きを止める。
ドルン、というエンジン音が聞こえたのだった。
振り返ったソフィーが顔面蒼白になる。
それを追って振り返り、理緒はきょとんとした後、真っ青な顔になった。
それは、チェーンソーの刃が回転する音だった。
錆びた巨大なそれを持った男……ドクロのマスクを被った人間が、ボロボロで血まみれのシャツとジーンズ姿で燃える家の中から出てきたのだ。
身長は、百九十はあるだろうか。かなり高い。
小さな理緒やソフィーから見れば、まさに巨人だった。

『どうした? 汀はそこにいるのか?』

ヘッドセットから圭介の声が聞こえる。
それに答えず、ソフィーは震える手で理緒の手を掴み

「逃げるよ!」

と言って、家の外に向かって走り出した。

「な……何なんですか? 何で汀ちゃんの精神世界に、あんなものがいるんですか!」

走りながら理緒が声を上げる。
一瞬マイクの奥の圭介が沈黙し、押し殺した声で言った。

『汀はどこにいる? 早く合流するんだ!』
「どこにいるのか分からないんです! チェーンソー……チェーンソーを持った男の人が!」

理緒が悲鳴のような声を上げる。
男はゆっくりと足を踏み出した。
ソフィーと理緒は懸命に走っているが、一向に出口が見えてこない。
まるで無限回廊のように、燃える家の廊下が後ろに流れていく。
段々と炎が熱くなってきて、理緒は体を縮めて声を上げた。

「熱い……熱いよ……!」
「もっと熱くなる! 早く走って!」
『二人とも落ち着け。落ち着いて、そのドクロの男を撃退するんだ』

圭介の声に、ソフィーは素っ頓狂な声を返した。

「撃退? 撃退ですって!」
『そうだ。これは「訓練」だからな』
「ふざけないで!」

ソフィーが絶叫する。

「スカイフィッシュを撃退できるわけがないでしょう! 現に、夢の主が出てこないじゃない!」
『ふざけてなどいない。スカイフィッシュの悪夢に入り込んでしまったのなら、撃退するか、逃げるかしかない。夢の主がいない以上、夢を終わりにすることは出来ない。逃げるのが無理なら、戦うしかないだろう』

淡々とした圭介の声に、少女二人が次第に落ち着きをなくしていく。

走り続けているソフィーは、目に涙を浮かべながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる「スカイフィッシュ」と呼ばれた男を見た。

「やだ……怖い……!」

ソフィーはブンブンと首を振った。

「怖いよ……怖い! お母さん! お母さん!」

恐慌を起こして喚き始めたソフィーの手を、理緒が一生懸命に握った。

「大丈夫、大丈夫です! 私がいますから! 落ち着いて!」
「助けて! 回線を遮断して!」
「汀ちゃんがいないと、扉が開きません。無理です! 落ち着いて、あれが何なのか私に教えてください!」

そこでソフィーが足をもつれさせてその場に盛大に転んだ。
慌てて理緒がそれを抱きかかえ、床に転がる。
二人は、震えながら、ゆっくりゆっくりと近づいてくる男を見た。

「あ……あれは……断片の集合体……」
「集合体……?」

ソフィーはなるべくスカイフィッシュの方を見ないようにしながら、続けた。

「心の中に溜まったトラウマの集合体……実在しないけどしてるものなの!」

意味不明なことを喚いて、ソフィーは近くに転がっていた燃える木片を手に取った。
その手がブルブルと震えている。

「いい? 一度しか言えない。夢の世界のものを『変質』させるには、『ここにある』と少しの疑念も挟まずに『思い込むこと』が重要なの。単純なら単純なものほど成功率は高いわ……!」

ソフィーが持っていた木片がぐんにゃりと、粘土のように形を変えた。
唖然としている理緒の前で、ソフィーは数秒後、小さな手榴弾を手に持って立っていた。
凄まじい集中力を要するのか、彼女は汗だくになっていた。
荒く息をつき、口でピンを引き抜き、ソフィーはそれを男に投げつけた。
そして理緒を突き飛ばして床に伏せる。
爆音が響きわたり、彼女達の背中を吹き上がった炎が撫でる。

「きゃあああ!」

理緒が悲鳴を上げて床を転がる。
ソフィーは、しかし爆炎の中、悠々とこちらに向けて足を進めてきているスカイフィッシュを見て、絶望的な顔で震え上がった。

「に……逃げなきゃ……!」

しかし腰が抜けて立てないのか、ソフィーはへたり込んだまま、ずりずりと後退しただけだった。
彼女は砕けている木片を手に取ったが、恐怖が集中力に勝ったのか、動けずにまた、変質させることも出来ずに、それを床に取り落とした。
ドルン、ドルンとエンジンの音がする。
チェーンソーの回る音。
足音。
それは、ソフィーの前で止まった。

「あ……」

何かを叫ぼうとして、失敗するソフィー。
男はチェーンソーを淡々と振り上げた。
理緒はそこで、訳の分からない言葉を叫びながら、近くの木片を手に取った。
そして、今にもソフィーを両断せんとしている男に、木片を手に体ごと突っ込む。
男の体がぐらりと揺れた。
理緒の手には、いつの間にか、彼女が料理の時にいつも使っているような、菜切り包丁が握られていた。
それが、根元まで男のわき腹に突き刺さっている。
理緒は荒く息をつきながら、震えて固まっているソフィーの手を掴んだ。

「逃げましょう! 早く!」
「う……うん!」

何度も頷いて、やっとのことでソフィーが立ち上がる。
スカイフィッシュは少女達に不気味に光るマスクの奥の瞳を向け、血があふれ出している脇腹の傷口から、包丁を抜き取った。
そして走り出した理緒に向けて、それを投げつける。
理緒の右足の腱が両断されて、彼女はもんどりうって床に転がった。

「片平理緒!」

ソフィーが悲鳴を上げる。
理緒は足を襲う激痛に耐え切れず、喚きながら地面をのた打ち回った。
ゆらりとスカイフィッシュが立ち上がって、こちらに歩いてくる。
ソフィーが理緒を守るように、震えながらスカイフィッシュの前に出る。
そして壁の木材を手で引き剥がして、頼りなく男に向けた。

「家の外に出て、早く!」

スカイフィッシュが手を振り、ソフィーの持つ木片を弾き飛ばした。
そしてチェーンソーを振り、ソフィーの肩に振り下ろす。
凄まじい音と、絶叫が響き渡り、ソフィーの血肉が周囲に飛び散った。
意識を失ったソフィーを蹴り飛ばし、スカイフィッシュは、倒れた彼女の頭にトドメのチェーンソーを叩き込もうとし――。
そこで、巨大な肉食獣の腕に吹き飛ばされ、数十メートルをも長い廊下を、ゴロゴロと転がった。
グルルルル、とうなり声を上げながら、化け猫に変身した小白が、スカイフィッシュを睨んで毛を逆立てる。

『どうした? 状況を説明してくれ! ソフィーのバイタルが異常値だ!』

圭介がヘッドセットに向かって怒鳴る。
しかし理緒は、泣き顔のまま地面にへたり込んで、自分を守るように四肢を固める小白を見た。
そして、家の入り口にうずくまっている汀を見て、叫び声を上げる。

「汀ちゃん! ソフィーさんが……ソフィーさんがやられちゃった! 助けて!」
『汀がいたのか! 汀、早く二人を助けろ!』

圭介の声を聞きながら、しかし汀は耳を塞いで、目をつぶり、震えながら首を振った。

「汀ちゃん!」

足から凄まじい量の血液を流しながら、理緒が這って彼女に近づく。
そしてその肩を強く振った。

「ソフィーさんは、私たちのためにここに来ました! あの男の人を倒せるのは、汀ちゃんだけです! だから目を開けて!」

しかし汀は、ただ震えるだけで反応がない。
その、いつもとは百八十度違ったか弱い様子に、理緒はハッとして手を止めた。
小白がまたうなり声を上げて、スカイフィッシュに体当たりをする。
大柄な男は、床を転がり、家の奥に消えた。

「小白ちゃん! ソフィーさんを連れてきて!」

理緒が声を上げる。

小白は、それを分かったのか、分かっていないでのことだったのか、ソフィーを口でくわえて理緒のところに後ずさりしながら戻ってきた。
そこで、また、家の奥から、スカイフィッシュがドクロのマスクを出したのが見えた。
一部が破れて、中身が見えるようになっている。
それを見て、理緒は一瞬停止した。

「え……そんな……」
『理緒ちゃん、どうした!』

圭介の声に、理緒は呆然として答えた。

「坂月……先生……?」
「…………!」

その名前を聞いた途端、マイクの向こう側に凄まじい緊張感が走った。
スカイフィッシュはボロボロで血まみれの服のまま、チェーンソーを肩に担いで、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
圭介がそこで大声を上げた。

『汀がいるんだな? 脱出しろ! 訓練は中止だ!』
「わ……わかりました!」

理緒が悲鳴を返し、汀の手を握る。

「大丈夫だよ。大丈夫、私がいるから……」

慰めにもならないようなか細い声でそう言って、理緒は這いずって家の外に汀を誘導した。
小白がソフィーを離して、うなり声を上げた。
スカイフィッシュがこちらに、 ものすごい勢いで走ってくるところだった。
理緒は無我夢中でポケットに手を突っ込んだ。
そこで、カサリという音がして、何か紙のようなものが手に当たる。
それは、一貴と名乗った少年が、彼女に渡した、千円札で折られた鶴だった。
理緒は必死の形相で、それを掴んで、自分に向けてチェーンソーを振り下ろしたスカイフィッシュに向けて投げつけた。
閃光弾を爆発させたほどの、衝撃と爆音、そして光が周囲を襲った。
汀も理緒も、小白も、その場の全員が吹き飛ばされて家の庭に転がる。
理緒は泥まみれになりながら、砂場の上で体を起こした。
そのかすむ視界に、右半身が吹き飛んで、奇妙なモチーフのようになってグラグラと揺れて立っているスカイフィッシュがうつる。

「うっ……」

その姿を見て、理緒は猛烈な吐き気を催し、その場に盛大に胃の中身をぶちまけた。
スカイフィッシュはゆっくりと、力なく地面に転がった。
その服、肉、チェーンソーが溶けて、黒い水になって広がっていく。
骨だけになったスカイフィッシュが、徐々に砂になり消えていく。
それに伴い、家の火も消え、青空が顔を出した。

『ステータスが正常に戻った……! 全員強制遮断するぞ!』

圭介が怒鳴る。
その声を最後に、理緒の意識はブラックアウトした。



「一体……何が起こったんですか……?」

顔色を真っ青にして、理緒は点滴を受けながら、椅子に背中を丸めて座った。
圭介が息をついて、腕組みをして壁に寄りかかる。

「通常のスカイフィッシュなら撃退できると思った。だが、今回の奴は『変種』だ。ソフィーがやられたのも納得がいく」
「納得……?」

理緒は、隣のベッドで、呼吸器を取り付けられて、点滴台に囲まれて眠っているソフィーを見て、押し殺した声を発した。
SPの人たちが、入り口と窓を警護している。

「私たちをあんなところに送り込んでおいて、よく無表情でそういうことが言えますね」

理緒にしては珍しく、怒りを前面に押し出した口調だった。
圭介は押し黙ると、理緒の隣の車椅子でボーッとしている汀に目をやった。

「何とか言ったらどうだ、汀。お前の夢に変種が出てくるなんて、俺は初めて聞いたぞ」
「……言ったことないもん」

汀はかすれた声でそう言って、クマの浮いた目を圭介に向けた。

「勝手に私の夢の中にダイブしてきて、そういうこと言われるのって、結構心外だな」
「…………」

圭介は自分を睨んでいる理緒を見てから、息をついて肩をすくめた。

「……参ったな。完全に俺が悪者か」
「小白がいなきゃみんな死んでたよ」

汀が淡々とそう言って、膝の上で丸くなっている小白を撫でる。

「だから、私の夢に関わるのはやめようって言ったのに」
「高畑先生」

そこで理緒が口を開いた。

「どうしてスカイフィッシュっていうあのトラウマは、坂月先生の顔をしていたんですか?」
「さかづき?」

汀がきょとんとしてそれを聞く。

「汀ちゃん、知らないの……?」

怪訝そうに理緒が聞くと、汀は頷いて言った。

「誰?」
「赤十字病院のお医者さん。二年位前に、行方不明になったって聞いたけど……いい先生だったよ」
「見間違いだろう。混乱していたんだろ?」

圭介はそう言って、資料を持ち上げ、脇に挟んだ。
そして病室の外で溜まっている医師達を見回して、口を開いた。

「大丈夫です。二時間後にダイブを実行します」
「え……」

理緒と汀が目を見開いて、唖然とする。
理緒が素っ頓狂な声を上げた。

「二時間後って……ソフィーさんはショックで目を覚まさないし、私達、何のレッスンも出来てないです! それにこんな状態で……」
「ソフィーにやり方を教えてもらって、何回か変質を成功させたんだろう?」

圭介はそう言って、ポケットから出したものを理緒に放って渡した。
それは、千円札で折られた鶴だった。

「あ……これ……」

理緒がそれを受け取って、僅かに頬を赤くする。

「なら出来る。レッスンは無事に終了してるよ」
「出来るって……何の根拠があって……」

噛み付く理緒に、圭介は軽く笑ってから言った。

「経験則だよ」



医師達を連れて歩き去った圭介を見送り、理緒は深くため息をついて、頭をガシガシと、苛立ったように掻いた。

「高畑先生……別人みたい……」

呟くと、汀は小白を撫でながら、何でもないことのように言った。

「そう? 圭介はあんな感じだよ。本当は」
「本当は?」
「うん。あれが本性だと思う」

淡々とそう言って、汀は大して気にしていないのか、眠っているソフィーを一瞥した。

「私の夢なんかに入ってくるから……」
「汀ちゃん教えて。スカイフィッシュって何なの? あんなトラウマ、聞いたことも見たこともないです。どうして汀ちゃん達は、あれをあんなに怖がるの?」

聞かれて、汀は口をつぐんだ。
しばらくの沈黙の後、汀は呟くように言った。

「理緒ちゃんは、まだ毒状態じゃないから」
「どういうことですか?」
「毒状態。ゲームとかでよくあるでしょ? 毒になると、HPが段々減っていくの」

理緒と目を合わせないようにしながら、汀は小さな声で続けた。

「私も、この子も、もう『毒状態』なんだ」
「言っている意味が……分からないです」
「つまりね。マインドスイープって、すればするほど、マインドスイーパーのトラウマを広げるの。それは毒みたいに心に広がって、侵食して、成長していくの。スカイフィッシュはその投影。トラウマが強ければ強いほど、スカイフィッシュも強くなる。だから、私の夢に出てくるスカイフィッシュになんて、誰が何してもかなうわけがないんだ」

汀はそこまで言うと、理緒が持っている千円札の鶴を見て、怪訝そうに聞いた。

「……理緒ちゃん、何したの? それ、誰にもらったの?」

理緒は、そこで一貴の顔を思い出し、ハッとした。
そしてポケットをまさぐる。

「あれ……おかしいな。紙をもらったはずなんだけど……」
「紙……?」
「うん。赤十字病院で。工藤一貴さんっていう、マインドスイーパーの男の子にもらったの。汀ちゃんに渡してって言われたんですけど……」
「どんな紙?」
「ゼロとか一とか、沢山書いてありました」
「……夢座標だ」

汀は、そこでハッと顔色を変えた。

「多分圭介が持ってる。それ、多分夢座標だよ」
「夢座標?」
「マインドスイーパーが夢の中に入る時、座標軸を設定するの。その人、私と話したいことがあったんだ……」

そこまで言って、汀は理緒が言った名前を繰り返した。

「工藤……一貴……?」
「汀ちゃん?」
「いちたか……いっくん……?」

汀はそこで上体を起こし、理緒の手を掴んだ。

「理緒ちゃん。ダイブするよ」
「え……? で、でも私、夢の中で右足を切られちゃって、まだ上手く動かせなくて……」
「大丈夫。それより、もっと大変なことになるかもしれない。そうなる前に、その人のこと助けなきゃ」

汀はそう言って、歯を噛んだ。

「……圭介の思うとおりにはさせない……!」



理緒と汀は目を開いて、そして同時に短い悲鳴を上げた。
二人がギョッとしたのも無理はなかった。
ものすごい勢いで、落下していたのだった。
上空の雲の上に、彼女達はいた。
汀が落下速度で目を開くことも出来ず、手を広げて理緒の体を掴んで引き寄せる。
二人でもつれ合いながら落下する。
そこで、汀の肩にしがみついていた小白が、ボンッ、という音を立ててパラシュートのように膨らんだ。
それに減速され、二人は次第にゆっくりと落下していった。
しばらくして、ポスン、という音を立てて、二人が雲の上に着地する。
雲はまるで綿菓子のようで、きちんとした地面としての質感がある。
理緒は腰を抜かして、その場にしりもちをついて呆然としていた。
そして汀と顔を見合わせる。

『どうした? 状況を説明してくれ』

圭介にそう問いかけられ、汀はヘッドセットのスイッチを切って、脇に投げ捨てた。
それを見て理緒が慌てて口を開こうとして
――汀の手に、口をふさがれる。
汀は理緒のヘッドセットも同じように雲の下に投げ捨てた。

「何するんですか! あれがないと、私達帰還できないですよ!」
「タイミングが分からないだけで、圭介が強制遮断すれば元に戻れるよ」

そう言って汀は、お尻を叩きながら立ち上がった。

「早くしなきゃ。この座標のはずだよ。じゃなきゃ、こんな場所にダイブして出てくるわけがない」

理緒は自分の右足を見た。
腱の部分がズキズキと傷む。ケロイドが醜く、足のかかとまでに広がっていた。
よろめきながら立ち上がり、理緒はしかしすぐに崩れ落ちた。

「駄目……立てない……」
「私に掴まって」

汀の手に掴まって立ち上がり、理緒は雲の下を見て気を失いそうになった。
町が広がっている。
数百メートル下に。
雲は形を変えながら風に流されていく。
小白が下を見てニャーと鳴く。
その頭を撫でて、汀は言った。

「本当なら、町の方にダイブして出るはずだったんだよ。それを、圭介が夢座標の位置をいじったから、こんなことになったんだ」
「ど……どうすればいいんですか? この人、普通の人で、トラウマとかがないらしいですから……」
「トラウマがない人間なんて、赤ん坊くらいだよ。そこをくすぐれば、すぐ煉獄に繋がる道は開くと思う。問題は……」

そこまで汀が言った時だった。
不意に晴れた空が曇り始め、分厚く寄り集まり始める。
そして、ところどころで光が上がった。
それが雷だ、と分かったのは、轟音が二人の耳を打った後だった。
足元の雲から、凄まじい勢いで、土砂降りのスコールが降り注ぎ始める。
上空は晴れているのに、足元はスコール。
不思議な感覚だ。

「何が……きゃぁ!」

また雷が近くで鳴り、理緒が肩をすくめる。
それを支えながら、汀は言った。

「ハッキングだ。この人の心の中に、誰か進入したんだよ。だからこの人の心が警鐘を鳴らしてるの」
「だ……誰が……」
「工藤……一貴……」

汀はそう言って、ゆっくりと振り返った。

「いっくん」

そう言って、数メートル離れた場所に立っていた、白髪の少年と目を合わせる。
いつの間に現れたのか、白髪の少年、一貴はニコニコしながら汀を見ていた。
それを見て、理緒がハッとしてから少し顔を赤くする。

「あなた……」
「やあ、片平さん。また会ったね」

理緒に興味がなさそうに手を上げてから、一貴は汀に向けて両手を広げた。
彼の隣には、赤毛の少女……岬が立っていた。
ポカンとして汀を見ている。

「思い出してくれたんだね! すっごく嬉しいよ、なぎさちゃん!」
「……残念だけど、私はあなたのことは何も知らない。でも……」

汀の脳裏に、笑顔で何かを差し出す、小さい頃の一貴の顔がフラッシュバックする。

「あなたが、いっくんね」
「うん! 良かった。そこまで分かってくれれば上等だよ。なぎさちゃん、僕は君を助けに来たんだ」
「助けに……?」

怪訝そうな顔をした汀に、一貴は続けた。

「僕らに、君達の基本夢座標の位置を教えて欲しいんだ。それで、こっちから、君達の頭の中にハッキングが出来る。だから……」
「話してる暇はないわ。『いっくん』、すぐにここを出て」

汀が、彼の声を打ち消してそう言う。
一貴は一瞬きょとんとした後、首を傾げた。

「どうして?」
「赤十字病院が、あなた達のハッキングを察知してる。これは罠よ」
「ねぇ……なぎさちゃん? 何も覚えてないの……?」

そこで、一貴の隣で、おずおずと岬が口を開いた。
汀は面倒臭そうに彼女を見て、言った。

「言ったでしょ。私は何も覚えてない。だから早くここから……」
「あぁ、もう遅いみたいだ。でも想定の範囲内だよ」

一貴がそう言って、ニッコリと笑った。

「なぎさちゃんは、絶対にそこから助け出す。だから、少しだけ待ってて」

彼はそう言って、足元の雲に手を突っ込んだ。
そして長大な日本刀を掴み出す。

「変質……? あんな簡単に……」

理緒が呆然として呟く。
そして彼女は、小さく悲鳴を上げた。
彼女達の周囲に、いつの間にか赤十字のマインドスイーパー達が立っていたからだった。
取り囲むように十……二十……三十人ものスイーパーがいる。
彼らは一様に目に生気がなく、ぼんやりとした表情だった。

「何……これ……」

理緒が呟く。

「マインドジャックだ」

一貴がそう言う。

「最も非人道的な行為だよ」
『言ってくれるじゃないか』

三十人のマインドスイーパー達が、同時に言葉を発した。

「圭介……?」

汀が呟く。

「マインドスイーパーの心を、逆にマインドスイープでジャックして、操る手法さ」

一貴の声に、三十人のスイーパーたちは、同時に手を雲に突っ込んで答えた。

『おしゃべりはそこまでにしようか。汀、理緒ちゃん。小白を使って降りるんだ。この人の心にロックをかけろ。こいつらは、この人の中枢を破壊して「殺す」気だ!』
「え……」

理緒は青くなって一貴に向かって声を張り上げた。

「どうして? マインドスイープで人を殺したら、現実世界でも死んじゃうんですよ!」
「それがどうしたのさ? 仕事だからさ」

一貴は日本刀を肩に担いで、挑発的に、周囲を取り巻いているスイーパーたちを見回した。

「早くかかってきなよ。OBさん。じゃないと」

一貴の姿が消えた。
手近にいた女の子のスイーパーの喉に、次の瞬間、日本刀が突き刺さって、貫通して向こう側に抜けていた。
一貴はそれをずるりと引き抜き、女の子を蹴り飛ばした。
岬は呆然としている。
一拍遅れて、倒れた女の子の首から、凄まじい勢いで血が噴出した。

「皆殺しにするよ」

あながち冗談ではなかった。
考える間もなく、一貴は日本刀を一閃して、また近くにいたスイーパーの男の子を袈裟斬りにした。
返り血を浴びて、楽しそうに彼が笑う。

『チッ!』

二人も一瞬でやられたスイーパーたちが、雲の中から刃渡り三十センチはあろうかというサバイバルナイフを掴みだす。
一貴はそのドスとも言えるナイフの斬撃を刀で受けて、その場を転がった。
そして近くのスイーパーの胸に刀を突きたてる。
汀は、震えている理緒の手を掴んで

「行くよ!」

と叫んだ。
それを聞いて、周囲をスイーパーに囲まれながら一貴が叫ぶ。

「待って、なぎさちゃん!」
「患者を殺させるわけにはいかないわ! どうしてもやるっていうなら、相手になる!」
「なぎさちゃん!」

岬が、一貴から日本刀を受け取り、スイーパーの斬撃を受け止めながら声を張り上げる。

「あたしだよ! 岬だよ。何で分からないの!」
『行け、汀!』
「私は人の命を助ける! テロリストと話すことは何もないわ!」

汀はそう言うと、小白を小脇に抱えて、理緒の手を引いて雲の下に体を躍らせた。
理緒が一拍遅れて、ものすごい悲鳴を上げる。
小白がまた膨らみ、パラシュートのように広がった。
それを見て一貴が舌打ちする。

「いっくん、どうするの!」

岬が悲鳴のような声を上げる。
一貴は口の端を醜悪に歪めて、そして言った。

「なぎさちゃんは絶対に連れて帰る。そのためには……」

周囲を見回し、彼は言った。

「全員、殺す」
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