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第10章 尋問(9)
 アリエス王女はの部屋に通されたのはいいが、なかなか本人は現れなかった。
 ミルザと並んで椅子に腰掛けると、侍女がお茶を運んでくる。
 それをゆっくりと飲み干しながら、黙って王女を待っていたが、カップが空になっても王女は現れない。
 侍女が心配して、奥の寝室を覗きにいく。そして「もう少しだけお待ちください」と申し訳なさそうに言われ、目の前のカップに再度茶が注がれた。

 さすがに三度それが繰り返されると、隣にいたミルザが業を煮やしたようにして、立ち上がった。

「私、見て参りますわ」

 キッパリとそう言うと、彼女は戸惑う侍女を押しのけるようにずんずんと奥の部屋へ入っていった。

 奥の方で話し声がして、しばらく後、ミルザに後ろから押されるようにしてようやく王女が現れた。
 顔色が悪い。
 よく見ると、握りしめたその小さな手が少し震えていた。

「……も、申し訳ありません。少し体調が優れなくて」

 弱々しい声で彼女はそう言った。目が泳いでいる。
 朝様子を侍女に尋ねた時にはそんなことは無かったので、僕は驚く。
 王女に何かあると問題だ。

「大丈夫ですか? 何か悪いものでも食べられたとか……」

 僕が思わず一歩近づくと、王女は明らかに動揺する。

「いえ」
「お熱でもあるのではないですか?」

 僕が少し手を伸ばすと、彼女は目を見開き、後ろに後ずさる。

「ど、どうぞ、おかまいなく!」

 悲鳴のような声を上げると、王女は僕から目を逸らして、ミルザの後ろへと回り込むようにした。

「……な」

 どういうことだ。
 この間とずいぶん態度が違う。

 ミルザも驚いた顔をして王女を見ていたが、一拍後、どうしたものかと、ため息をついて僕を見つめる。

「……お兄さま、何かされたんですか?」

 ……疑いのまなざしが痛い。
 僕は慌てて首を振る。

 確かに、そう思われても仕方がないほど、僕に対しての態度がおかしい。先日の熱烈なアプローチが嘘のようだ。
 こうして会うのも2度目だ。当然……まったく心当たりは無いんだけど。

 とりあえず聞くべきことは聞かないと。そう思って切り出す。

「あ、あの……事件の夜のことを聞きたいんだけれど」

 まさか、この王女が犯人だとは思えないが、いくら何でもおかしかった。
 何か知っているのかもしれない。

 王女は、なにか口にしようとしたが、結局首を振って、ガタガタと震え出す。

「も、申し訳ありません。何もお話しできることはありませんわ!!」

 それだけ言うと、王女は身を翻して、奥の部屋へと駆け込んだ。

 ……どういうことなんだ。
 怪しすぎるだろ、あれは。

 僕は、傍に控えていた侍女に、尋ねる。

「……王女の様子がおかしいのって、いつから?」

 侍女は一瞬口ごもったが、ややして困ったように言う。

「……事件の翌日からでしょうか。……しきりに国に戻りたいと仰られて」

 ……国に戻りたい?

「……王女は、先日の事件の時、この部屋にいたのか?」
「ええ。お休みになられていました」
「誰かそれを証明できる?」
「……私が下がる頃は確かに眠っておられましたが、それ以降となると……あの、皇子、まさか」

 僕だって疑いたくはない。というか、さすがに無理だと思う。あの細い腕は、ナイフなど握ったことの無いのではないかと思えるのに。

 しかし、いくらなんでもあの態度はおかしい。
 念のために尋ねる。

「何時に君は下がったんだ?」
「十の刻辺りだと」

 つまり、王女の不在証明アリバイは無い、か。
 僕が考え込むと、侍女が遠慮がちに申し出る。

「あの……近衛隊の方には、何か深刻にお話しされていたようですが」
「近衛隊……グラフィアスか」

 ヤツとももう一度話す必要がありそうだ。
 先日のやり取りを思い出して、憂鬱な気分になりながらも、僕はそう思った。
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