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攻略対象の彼と悪役令嬢な彼女は仲が良い

「君の瞳を見るだけで、私は十分癒されるんだ」
とある王国の伯爵家の一人息子、ケイン・ウィリアクトは、目の前の少女の髪を撫でて、優しく微笑んだ。
少女は赤面し恥ずかしそうに上目遣いになりつつ、ケインに「いつでも呼んで下さい」と会釈し、ケインの部屋を退室した。
ケインは笑顔で少女を見送り、彼女の足音が完全に聞こえなくなるまで微動だにしなかったのだが、暫くして机に突っ伏した。
ケインの肩が震え始めたとほとんど同時に、ノックもなしに先程とは違う、ある少女が入って来る。
「ケイチー!お前マジすげえな!尊敬するわ!」
人形のような外見の少女が恐ろしく似合わない口調で彼を褒めた瞬間、ケインは堪えきれなくなったように大笑いし始めた。
「止めて!自分でもよくあんなキザな真似出来たと思ってるから!私マジすげえわ!」
「俺なんてまだヒロインちゃんと話すの緊張してるんだぞ!お前何でそんな適正早いんだよ!」
「分かんない!でも私すげええ!」
「うん、お前すげえよ!」
そんな軽いやり取りを、二人は心行くまで楽しんだ。




森崎智秋、高山潤。それが二人の元の名前である。
二人は幼馴染みであり、性別は違えどよく遊んでいた。
違う高校に入ってからは、過ごす時間も短くはなったが、二人の付き合いが途切れることはなかった。
その日、智秋と潤は久しぶりに休みが重なり、どこか買い物でも行こうと、歩いていた。
信号待ちで、会話をしていたために、二人は居眠り運転で突っ込んで来るトラックに気付かなかった。
呆気なく、二人は轢かれ、死んだ。
筈だった。

意識が戻ると、智秋は伯爵家の一人息子、潤は侯爵家の次女として、生まれ変わっていた。
所謂転生、というものである。
性転換したことに加え、まさか二人とも転生しているとは思わず、不安に苛まれる二人だったが、まあ割とあっさり邂逅を果たし、紆余曲折あって互いに智秋と潤だということを認識した。その時は前世(多分)との外見の違いに笑い合ったものである。
そして、智秋は潤に大切なことを打ち明けた。
ここはおそらく、前世(多分)で己がしたことのある、学園乙女ゲーの世界だと。
ケイン・ウィリアクトという名前。それは攻略対象となるイケメン達のうちの一人の名前だった。
では、潤は主人公であるヒロインなのか。それを智秋に尋ねると、智秋は首を振った。
潤の今の名前。マリアンナ・ルーシムは、乙女ゲーの一番嫌な役である、悪役令嬢だった。
更には、主人公が誰を攻略しようとしても、どのルートであっても、マリアンナは主人公を邪魔し、嫌味を言い、最終的には断罪され、学園を追放されてフェードアウトするキャラクターだと言うのだ。
それを聞いた潤は、一旦は落ち込んだものの、あることに気付いた。
主人公の邪魔しなけりゃ、大丈夫なんじゃね?と。
でも主人公がハッピーエンドになるためには、悪役令嬢の存在が必須だよ?と智秋が言うと、潤はあっさり言った。
知るかそんなもん。主人公がどうなろうが俺の知ったことじゃねえわ。障害とかなくても自分達で勝手にやってろよ。
智秋は納得したように頷いた後で、渋い顔になった。
私は攻略キャラの一員だから、主人公には絶対に関わることになるんだろうな、と。
じゃあ、と潤は切り出した。

俺と婚約すれば、主人公も手出しにくいんじゃね?

マジか!超ウケるわ!そうしよ!潤と婚約とか(笑)

そんなこんなで、智秋―――ケインと、潤―――マリアンナの婚約が決定した。本人達の意見を受け入れてくれた寛容な親で良かったなと思う。
それに加えて、智秋、潤と呼び合うのは怪しいかと考え、ケインはケイチー(ケイン+智秋)、マリアンナは、マリュン(マリ+潤)と呼ぶことになった。十分怪しいが、本人達がいいらしいので良しとしよう。

二人はそれぞれの家庭で、厳しい教育を受けて育っていった。たまには日本の生活や、家族が恋しくなったりもしたが、ファンタジーなこの世界は、二人を飽きさせることはなかった。
そしてとうとう、十六歳となった二人は乙女ゲーの舞台となる学園に、入学した。
思い通り、そこには特別枠として入学した庶民な主人公、アリスの姿があった。
主人公のフラグに気を付けるケインだったが、残念ながら見目麗しい青年である彼は、主人公以外の女の子達にも囲まれた。
そこで婚約者の登場。ケインとマリアンナの仲の良さを見た女の子達は、がっかりした面持ちでケインを諦めた。
しかし流石というべきか、主人公はきっちりとケインのフラグを回収した。
王道である、主人公と攻略キャラがぶつかって、主人公と面識を持つというもの。
女の子達から解放されてほっとした時にこれだったので、ケインは思わずゲームと同じようなイベントを発生させてしまった。
主人公であるアリスが、去っていく女の子達の波に押され、ケインとぶつかり、尻餅をつく。ケインはアリスに手を差し伸べ、爽やかに微笑んで会話し、その場を立ち去る。
そんな内容のイベントを、ケインはほとんど同じに発生させた。
事前に内容を聞いていたマリアンナは止めるかと思いきや、笑いを堪えていたという使えなさっぷりである。



入学式のその後も順調にイベントを起こしていったケインは、最早主人公と関わらないことを諦め、半ばイベントを楽しんでいた。
マリアンナもまた、ケインのキザな仕草を見る度、ケインの部屋を訪れては爆笑していた。こいつは完全に楽しんでいる。
学園は寮制であり、各々の部屋が用意され、使用人の持ち込みが許可されている。身分の高い者ばかりが通うので、当たり前といえば当たり前であるのだが。
婚約者であるマリアンナは、何の隔たりもなく、ケインの部屋をよく訪れていた。
たまにマリアンナが来た時イベントでケインと主人公のアリスが部屋にいたりするが、マリアンナはその時くらいは悪役令嬢としてアリスに嫌味なことを言っていた。
その都度アリスは涙目になりつつ部屋を出て行くのだが、ケインはフォローすることもなくマリアンナとイベントの内容を話して楽しんでいる。それにアリスもケインルートではなく、逆ハールートを歩んでいるので、ちゃんとアリスを慰めてくれるイケメン達がいるからそんなに悪い訳でもないはずだ。
要するに、ケインもマリアンナも、充実した学園生活を送っていた。



「マリアンナ様って、ケイン様と仲睦まじいですわよね!」
「ええ、よくお二人で談笑してらっしゃるのを見掛けますわ!本当に、お似合い!」
「あら、嬉しいですわ。私と彼は話が合いますの(ほとんど下らねぇ内容だけどな)」
「...でも、あの特別枠の娘、何なんですの?ケイン様にベタベタと...!ケイン様はマリアンナ様の婚約者ですのに!」
「そうですわ!ケイン様と全く釣り合っていないというのに、何と厚かましい!ケイン様の優しさにつけ込んでいるのよ!」
「まあ、そんなに大きな声を上げないで下さいな。どこの娘が彼に色目を使っても、彼が私を選ばないことなど、有り得ませんもの(前世のこと話せるの俺だけだし)」
「...そう、ですわね。失礼致しました」
「マリアンナ様、失礼致しましたわ」
「お気になさらず(あ、多分イラッとした。あれか?何だよその自信はってやつか?女こわあい...)」



「ケイン、お前、またアリスを泣かせたのか」
「何を言っているんだ、いつの話だ?(心当たりあり過ぎるわ)」
「とぼけるな。マリアンナ嬢と共に、アリスを責めたそうではないか。甘いものが好きだと聞き及んでわざわざお前に菓子を作って持って行った、アリスを!」
「ああ...。私はただ、婚約者のある身の私の部屋にしょっちゅう来るのは止めた方がいいと言っただけだが(これはマジです)」
「だとしても、だ。泣かせるまで責めることはないだろう!」
「泣かせる、ねえ...」
「何だ、その言い方は」
「ひとつ忠告しようか。アリス嬢はかなりの演技派だぞ?(というか元はゲームだから何でもありだしね)」
「な...何だと?おい、待てケイン!」



「あら、ケイチー」
「やあ、マリュン」
「これからお暇ですか?(駄弁ろうぜ!)」
「ああ、暇だな(おっけ、行こ行こー)」
「あのっ、ケインさん!」
「...やあ、アリス嬢(え、イベントか!?こんなんあったっけ!?)」
「もし、よろしければ...この後、町案内をさせてもらえませんか?この間、町を見てみたいって、仰ってましたよね?」
「...ああ、そうだったな(言ったっけか...)」
「ちょっとお待ちになって。私が先に彼をお誘いしたのですわよ?遠慮しようとは思いませんの?(悪役令嬢の本領発揮だぜ!)」
「そうだな、すまないが、アリス嬢。今度にしてほしい(お前それ結構普通のことだからな...全然悪役令嬢じゃないよ)」
「そっそうですよね!すいませんでした!」

「...マリュン。涙目だったね、アリス」
「いやあちょっと言い過ぎたかなあ俺。やっぱヒロインちゃんと話すの緊張するわー」
「言い過ぎてはないでしょ。あのさぁ...もっと悪役令嬢になり切れよ!もっと熱くなれよおぉ!」
「俺そんな性格悪くなりたくねえよ...」
「カマトトぶってんじゃねえよ」
「怖っ!今の怖かったぞケイチー!」
「そんな可愛い見た目で自分をより可愛く見せようとすんのやめてくんない?」
「えっ可愛いって言った!?可愛いって言った!?止めろよ!俺最近可愛いって言われんの嬉しいんだよ!」
「お前どんどん乙女化してるねぇ...」
「ケイチーはイケメンだな。くそっ、羨ましい!俺も前世でこんくらいイケメンだったら薔薇色の人生を...!」
「私だってマリュンぐらい可愛かったら人生ウハウハだわ」
「まっ、今は俺女だし、甘んじて受け入れるわ」
「そんじゃ私もイケメン磨きに精を出そうかね」


今日も今日とて、ケインとマリアンナは乙女ゲーライフを満喫するのであった。

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