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Stage1:加速

こんにちは、クリムです。頑張って書きますので、よろしくお願いします。

 小学生の頃、『人間の脳はコンピューター』なんてタイトルの作品が教科書に載っていたのを覚えている。


 『人間の脳はコンピューター』


 これは人間一度ならば聞いた事がある言葉だろう。まぁ実際はコンピューターなんかではなく、『人間の脳はコンピューターに匹敵するほどの計算、情報処理能力を持つ』って意味なのだろうが、どちらかというと人間の脳の方がコンピューターよか上なのではないかと思う。

 大体、コンピューターを発明したのは人類であるし、いくらコンピューターが進化しようともそれを発案・開発する許可を出すのは最終的にはやはり人間。よくSF映画などでネタにされるコンピューターの反逆というのは、コンピューターが人間によって作られている間は不可能であると信じている。

 新西暦2012年。環境こそ二十世紀のそれとなんら変わりはないが、1990年代と決定的に違うものがやはり存在する。それは脳、つまり生物が持つ最高峰の情報処理器官である。

 数年前、とある研究チームが次世代型の超高速小型情報処理端末《ブレイン》を開発した。ブレインの名を冠するこの端末は、従来のコンピューターとは比べ物にならない程の計算力、容量、応用力を誇り、情報化社会となりつつある日本にとって重要なアイテムになるかと思われた。 しかし、開発チームは世間へのブレイン普及を拒否。時期を同じくして創立したとある実験学園都市との提携を発表した。

 彼らは記者会見にて、こう発表したという。


『我々はこれより、進化を実験する!!』


 この話の舞台は、そんな世界。もしかしたらあったかもしれない、でもやっぱりなかった世界。



  *  *  *



 カチコチという少し大きめに響く時計の音。カーテンの隙間から漏れる朝の光が部屋を照らし、自然と脳が起床を促し始める。ゆっくり日付を思い出すと、なんとなく朝食が俺を呼んでいる気がした。さて、布団を出よう。


「ぅうん……ふみゅう…」


 と、覚醒し始めた脳が体中の神経から伝わるを情報を処理していると、自分の下半身――っていうか腰元――に未確認生命体アンノウンの存在を確認した。『未確認』生命体を『確認』、この時をもって既確認生命体ハブノウンの誕生である。

 なんて言葉遊びをしていても何も変わらないので、改めて腰に抱きつくような形で付着している存在を見る。

 すぅすぅと寝息をたてるそれは、身体を縮こまらせる様にして、ベッドの端から俺の腰までという決して広いとはいえないスペースに寝ころんでいた。

 身長は小学生くらい、長いサラサラの髪と対照的な白くすべすべぷにぷにの肌に整った顔立ち。例えるなら、まさに『妹の中の妹』という表現がぴたりとあてはまる程理想的な妹像をもつ少女。

 もし自分がアニメやラノベのキャラであったなら、ゲームや漫画でありがちな展開に巻き込まれてラブコメが始まるのだろう。が、しかしながら自分はその少女の正体を知っている上に、今はそれどころではない。朝食が早くおいでと呼んでいるのだ。故に腰の付着物を剥がすのに躊躇いなんて必要がなかった。

 腰をしっかりとホールドする少女の腕を掴み、関節やら何やらをいい感じにアレする。ポキュポキュという小気味よい音が数回した後、腰は上手い具合に解放された。勿論、痛みを絶対に与えない関節いじりなので相手は何も気付かず眠ったままだ。


「いざ行かん食卓。我を誘え空腹」


 いつか見た漫画のセリフをアレンジしてみた。時刻は朝の5時40分を少し過ぎた所。学生という身分である以上朝食と遅刻は死活問題となる。早く行かなくては。

 朝食が俺を呼んでいる。早く作れと待っている。俺は少女を自分のベッドに放置したまま部屋を出た。






 おにぎり三つとお味噌汁。沢庵なんかを小皿にのせて朝食を完成させる。やはり朝は軽く食べるだけで十分だ。

 時計を見る。6時10分ちょうど。食事と登校の時間を抜きにしても後三十分くらいの余裕はあるかな。


「たぁ~くぅ~んっ」


 突如二階から声が聞こえた。この家は二階建ての普通の一軒家で、暮らしてる家族は四人。リビングやキッチンなどは一階、自室や寝室は全て二階にあるためこの声の主はこの家の住人、若しくは不法侵入者のどちらかとなる。今回は前者だったようだ。


「たーあーくぅーん~?」


 またしても呼ばれた。どちらも透き通るような可愛い声だった。三度目が聞こえる前に小走りで階段を駆け上がる。声が俺の部屋から聞こえているという事は、先程俺が関節をアレした後放置した少女なのだろう。彼女はベッド(俺の)の上で枕(コレも俺の)を抱きしめ、足(コレは彼女の)をパタパタしたりゴロゴロと寝返りをうっていた。


「あ、たーくんきた!おはよっ☆」

「おはようお姉ちゃん。早く降りて?ご飯冷めちゃうから」

「ねーねーたーくん。今日のお姉ちゃんはワカメのお味噌汁な気分なんだけど」

「大丈夫。今日はワカメと筍だから」

「ほんと!?わ~い!」


 言い終わるか終わらないかのタイミングで入り口に立つ俺の横を駆け抜けていく少女。俺を『たーくん』なんて呼ぶ彼女こそ我が最愛の姉、『御来屋(みくりや) まどか』に他ならない。



  *  *  *



 いつもの通学路を、二人並んで歩く。自分の胸くらいまでしかない身長のお姉ちゃんが俺の歩幅についてこようと一生懸命になる姿は、ちょっと歩く速度を上げただけでも小走りで追いかけてくるのを見るのなんて、とても和む。否、萌える。

 そうして毎日の通学路を遊びながら登校する。そういえば、今日は風が強いな。

 てくてくと歩いていくと、大きな交差点に着いた。ちらほらと俺達と同じ制服が見えるというのは、今がまだ遅刻確定の時間でないことの証拠でありとても安心する。

 横断歩道で信号が変わるのを待っていると、隣にランドセルと黄色い帽子がみえた。小学生だろうか、赤いランドセルを背負ってるので女の子だろうと踏んでいたが、当たりだったようだ。六歳位だろう。こちらの視線に気づいたらしく、少女ははにかみながら小さく手を振ってきた。俺達も笑顔で振りかえす。ふむ。


「やっぱり小学生ってのはいいよなぁ……そう思わない?お姉ちゃん」

「ぇ」

「お姉ちゃん?」

「え、え、あの、その…えっと……あの…」

「…………?」

「わた、私はそういう趣味が無いからわかんないけど……でもでも、えっちなのはいけないと思うの!」

「………はい?」


 いきなり何を言い出すんだこの姉は。


「け、けどけど、たーくんがそういうのが好きだって言うのなら、私も頑張って見守るからね!」


 ……なんとな~く読めてきた。いや確かに誤解を招くような発言をしたのは俺だが、いくらなんでも…ねぇ?


「お姉ちゃん?別に俺は“ロリ”を筆頭に“コン”で締めくくるような特異な性癖は持ち合わせていないんだけど」

「ほえ?でもさっき、『まったく……小学生は最高だぜ…』って言ってたふっ!」


 ついうっかり親指を眉間に指してしまった。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。よし。


「いい?お姉ちゃん」

「うぅぅ……」


 眉間を押さえて蹲るお姉ちゃんに向き直る。


「確かに小学生は最高だ。しかしそれは間違っても犯罪的な意図をもって言った訳ではないんだよ」

「と、言いますと?」

「さっきの子を例に挙げよう」


 そう言いながら先程のランドセルの子を見る。


「この子はさっき、年齢が十歳近く離れた俺達に笑顔で手を振ってきたな?」

「うん。可愛かったよね」

「ああ。なら聞くが、お姉ちゃんは見た目が十歳以上離れたオッサンに手ぇ振るか?」

「し、しないんだよ!」

「でしょ?人間ってのはね、お姉ちゃん。年齢に伴って性格が変わってしまうもんなの」

「それはまぁ……わかるけど」

「中学生では反抗期になり親の言うことを聞かなくなるし」

「私はちゃんと聞いてたもん!」


 頭をなでなでしておく。


「ふみゃみゃ……」


 とても気持ち良さそうだった。


「それに、だんだんと親がウザくなるし」

「お姉ちゃんはパパもママも大事だもん」


 なでなで。


「でも、小学生ってそういう事無いから純粋でしょ?だから小学生の頃が最高だなぁって」

「あ、そういうことなの」

「そ。じゃあ信号変わったし、行こっか」


 タイミングよく信号が赤から緑へと変わった。ここの交差点にある横断歩道は、とにかく長い。しかもその長さと反比例するかのように青信号の点灯時間が短いという謎仕様な為、登校時などの混みやすい時間帯はタイムアウトになりやすいのだ。もちろんその場合は、車の方が待ってくれるのだが。


「せぇーふっ!」


 そう言って駆け込むお姉ちゃん。そしてそれに続く俺。


「たーくんたーくん!今日は皆渡ったよ!」

「ハイハイ、ミルクティーね」


 俺達姉弟は毎日賭けをしている。賭けといっても、この横断歩道の利用者が青信号の点灯時間内に全員渡りきればお姉ちゃんにジュース。一人でも取り残されればお姉ちゃんが俺にマッサージという可愛らしいものだ。どうやら今日は負けてしまったらしい。


「れっつごーだよたーくん!」


 目を輝かせて俺の腕をひっぱるお姉ちゃん。うん、可愛い。


「………………あれ?」


 しかし、俺はお姉ちゃんの体温と同時にある違和感を感じていた。それは普通の生活をしている者なら絶対に気付かない、また、例え気付いたとしても決して気にならないような情報。


「数が……合ってない?」


 だが、俺のはそれを確かに違和感として認識していた。


「たーくん……?」


 俺の異変を感じたのか、お姉ちゃんが下から覗き込むように俺を見ていた。そんなお姉ちゃんを確認しながら、俺は今得たばかりの情報を整理し始めた。


「お姉ちゃん、さっき信号待ちをしていたのは俺達を除いて三六人。信号が変わって動き始めたのも同じ三六人。だけど渡りきった後この場から動いたのが三五人しかいない」


 確かな情報だった。俺達は横断歩道を渡った後、一歩たりとも動いていない。しかも俺達は三六人のなかでも一番最後に到着している。俺の『見た』情報に間違いはなかった。


「と、なると―――見つけた」


 言いつつ振り返る。横断歩道の三分の一の地点、黄色い帽子を被った先程の少女が、多くの車を待たせながらえっちらおっちら渡っていた。運転手の苦笑が見え、少し同情してしまう。

 それでもクラクションを鳴らさないのは、流石大人といった所か。


「賭けは俺の勝ちだね、お姉ちゃん?」

「………む~」


 頬をぷくーっと膨らませるお姉ちゃん。うむ、やっぱり可愛い。しかし……危ないな、あの子。

 少女はどうにか横断歩道を四分の三程まで渡り終えていた。もう少しで渡り終える――――筈だった。


「きゃっ!!」


 突如吹いた強風。思わずスカートを押さえるお姉ちゃん。そしてその可愛い叫び声を合図に俺は一瞬だけ少女から目を離し、反射に従い目をお姉ちゃんの方へ向ける。チラリと見えたお姉ちゃんのパンツの柄を確認。

 とても可愛いパンツである事を確認した後すぐに視点を戻し、視界の中から少女を探す。少女は変わりなく、立っていた場所で強風に耐えていた。だが何かが足りない。少女を構成する要素、少女を表していた『色』。


「―――チッ」


 俺はすぐにそれを『理解』した。


「た、たーくん!あの子、帽子が!!」

「分かってる!」


 少女からは、『黄色』が失われていた。黄色、つまり帽子。

 俺は少女の元へ駆け出した。少女を連れて最後まで渡らせる。帽子には、まだ気付いていないようだった。


「おにーちゃん、ありがとーございました!」


 そう言いつつぺこりと頭を下げる少女。俺は両肩に手を乗せ、ゆっくりと話し始めた。


「あのね、さっき、強い風が吹いたよね?」

「うん!」

「その時に、君の帽子が飛ばされちゃったの」


 言いながら車道を指差す。帽子は少しばかり遠くに飛ばされていた。


「だから、お兄ちゃんがとってくるまで、お姉ちゃんといてくれる?」

「わかったー!」

「お姉ちゃん、お願いね?あと荷物よろしく」


 ここから帽子まで約50メートル。すこし長いが、大丈夫だろう。車の間を縫うようにして行動する。


「もう少し………」


 30メートル程まで進んだ。車の動きを確認しつつ、一気に距離を詰める。しかし、


「―――なっ!?」


 またしても強い風が吹いた。その気流に流されるように帽子は高く舞い上がり、俺の進行方向とは反対の方向へと飛んでいってしまった。

 ここからの距離はさっきよりも遠くなっているが、幸いにも帽子はお姉ちゃん達から比較的近い場所に飛ばされていた為、俺はお姉ちゃんに頼もうと振り向き、


 ―――――最悪の状況を理解した。


「お姉ちゃん!その子を止めろ!!」


 なんと、少女自ら車道へと帽子をとりに向かっていたのだ。お姉ちゃんの静止を聞かず一直線に走る少女。信号は緑から黄色へと変わっているため、車自体の通行量はやや少なくなっている。しかし本当の問題は、その黄色信号にあるのだ。


「ふっざけんなよコラァ!!」


 とにかく走り出す。黄色信号の場合、無理してでも走り抜けようとする車がよく見かけられる。

 もし、少女のいる車道を走ってくるトラックがそれならば。制限速度を明らかにオーバーしているあのトラックに、止まる気が全く無かったら。そして、トラックから少女が見えていなかったなら。

 ―――あと25メートル。トラックは止まらない。

 ―――あと20メートル。少女は動けない。

 この状況を見ている人間ならば、誰もが少女を諦めるような光景。俺は素早くポケットから、スマートフォン型の機器を取り出して操作した。そして、今の情報を整理する。


「トラックと俺までの直線距離、60メートル。トラック、時速50km。予想衝突時間、2秒弱―――いける!」


 トラックと少女の距離、あと5メートル。しかし俺と少女までの距離は五十メートル以上。絶望的だった。

 なら、とるべき方法は一つ!


「―――『加速』ッ!!」



  *  *  *



 大雅は必死に走ったけど、トラックは減速することなく走り抜けていった。でも、私は大雅が間に合ったと信じていた。それは義姉あねとして義弟おとうとを信じているというのもあるし、なによりあいつは、私の信頼を一度も裏切ったことがない。だから今回も大丈夫。必ず私の所に帰ってくる。


「おね~ちゃん♪」

「あ、たーくん!……大丈夫?」


 ほら帰ってきた。自慢げに女の子と帽子を見せる義弟は、ちょっとだけケガをしていた。


「ほらよ。帽子」

「おにーちゃん、ごめんなさい……」


 女の子が俯いてしまった。


「いーよ別に。ホラ、遅刻するぞ?早よ行け」

「……うん!ばいばーい!」



 義弟の返事に、笑顔で手を振る女の子。大雅じゃないけど、確かに小学生というのは純粋かもしれない。


「今から歩いても15分前か……間に合うな」

「そうだね。………あ、たーくん!」

「ん?」


 おいでおいでと呼んでみる。


「たーくん…じゃなくて、『御来屋(みくりや) 大雅(たいが)』君」

「む?」

「今日は朝からよく頑張りました。よって、なでなでしてあげる!」


 真っ直ぐ手を伸ばすけど、私の手は頭には届かない。何回かぴょんぴょん飛んでたら、大雅が屈んでくれた。


「なでなで~」


 頭をなでなでしてあげると、嬉しそうに目を細めた。


「改めて、行こっか。たーくん」

「ん……」


 今日も平和ね~。

誤字脱字等の報告、情報提供などお待ちしてます!




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