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刻の守護者 〜乙女的大河絵巻〜 作者:いっちー

第五章

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交錯する、未来と過去(1)

「これが、あの、頼朝ォ」
 いつものように、義平と碁を打ちに来ていた重盛は、挨拶に姿を見せた頼朝に、間の抜けた声を出した。
「何やねん、その耳と尻尾は」
「うっせーよ」
「おお、声はまんまや。頼朝や」
「だからオレは頼朝だっつってんだろーがッ」
 尻尾を逆立てて、頼朝が吠える。
 重盛は目を瞬かせて、胸に手を添えると、ぽそり、と言った。
「……なんや、この胸のときめき」
「はあ!?」
「めっちゃ、かわい」
「でしょ」と、碁盤から顔を上げずに、義平が頷く。
「かっ、かっ、かわ……っ!?」
「何やねん、そのもふもふっとした尻尾。耳、これ、頭に張り付いてるんか? ん? 触らしてーな」
「死ね!!」
 カッと顔を真っ赤にした頼朝は、怒りのままに碁盤を引っ繰り返すと、足を踏みならして立ち去った。
「あっか――――――ん! 今の、俺の勝ちやったンにィ。ああああ」
 ガッカリと肩を落とす重盛に、義平はそっぽを向きつつ、「よくやった」と拳を作る。
「頼朝! あんまり、遠くに行かないでね!」
 そう投げかけてから、あまねは、持って来ていた盆を板敷に置いた。
 白湯の揺れる湯飲みを、義平と重盛に差し出してから、二人を手伝って、床に広がった碁を拾った。
 会話が途切れ、数秒の間三人は、もくもくと作業をしていた。
 と、そろそろ終わりが見えた頃、重盛が押し殺した声で呟いた。
「ここだけの話や。……二条派がきな臭い。最近、お前ら、変わったことないか?」
「ぶはっ!」
 ちょうど、白湯に口をつけた義平が噴き出した。
「あ、あなた、それ、此処で言っちゃうの?」
「だから、ここだけの話、て、前置きしたやろが」
 気まずそうに言ってから、重盛は辺りを見渡し、声を潜めた。
「身辺には気をつけい。信西が死んでからこの方、信頼の阿呆、調子乗っとるで、反感買いまくりなんや」
 あまねはいまいち話の方向性が分からず、一生懸命、頼朝と直愛の説明を思い出す……。
 今、朝廷には後白河上皇と、その息子の二条天皇がある。
 二人は親子ながらに、政権を巡って対立していた。
 頼朝たち源氏は、信頼と親しい付合いがあり、この信頼は、後白河上皇派だ。
 そして、重盛たち平氏もまた、信頼と縁戚関係を持つ……武力は、後白河上皇に偏り、二条天皇陣営は、不利な状態だった。
(その二条天皇側の人間に、動きがある……?)
 重盛は、何を知っているのだろう。
 そして、義平に何を伝えようとしているのか。
「ご心配ありがと。でも、二条派には武力がないでしょ。気にしたって、そもそも――」
 言いかけた義平は、はた、とした。
「あなたたち、あっちに付く気?」
「阿呆ぬかせ。信頼とうちは縁戚関係やぞ。裏切ったりはせぇへん」
「でも、何だか晴れない顔してるじゃない」
「…………ま、な」
 重盛は、口元を覆うと視線を逸らし、苦々しげに唇を突き出す。
「親父殿が、な」
「清盛殿が、何……?」
「いや」
 訝しげにする義平の言及を、重盛は断ち切ると、「そういや」と、話題を変えた。
「呪詛の件はどないなった?」
「はっきりした証拠は、信西どののことでうやむやになっちゃったし……まだ、頼朝は何も言ってはいないわ。軽々しく言えることじゃない、って」
「助かるわ。おのれの勝手ぇやけど、あの阿呆が問題起こしたら、うちもただじゃ済まへんし。それに、先の戦に、信西殿まで死んで……やっと最近、落ち着きよったに。これ以上、いたずらに世を乱しても、しゃーないやろ」
 言って、重盛はぐい、と白湯を飲み干すと、「ごっつぉーさん」と盆の上に置き、立ち上がった。
「ま、俺らで止めるしかないわな。幸い、あちらさんには武力があらへん。源氏と平氏がこうしてくっついときゃ、問題なしや」
「…………そうね」
 義平は、何かを飲み込むようにして微笑んだ。
 あまねは、義平と共に重盛を送りに出る。
 重盛は、二人に手を振った後、門に隠れるようにして木に寄り掛かる頼朝に気付いた。
 見送りにきたのだろう。重盛が「またなあ」と明るく声をかけると、頼朝は、さっさと行けと言うように、片手を上げた。
「あーあ。やんなっちゃう。アイツらどうするつもりなのかしら」
 重盛の背が見えなくなると、義平は両手を突き上げ、うん、と伸びをした。
「あの感じ、二条側から平氏に話いってるわねえ」
「え……」
 あまねは目をぱちくりさせた。義平は肩を竦めた。
「あの感じは確かね。重盛はああは言ってたけど、平氏全体が――清盛殿はどうするのか。にしても、二条側は、平家が動くと思ったのかしら。それとも、それほどまでに反信頼の動きが高まってるのかしら?……ああ、面倒くさい。あの馬鹿信頼も悪いけど、公家なんてみんな、目くそ鼻くそだからね。反信頼の人間は、新参者のくせに朝廷に幅きかせてるのが気にくわないだけなのよ。信西殿の時もそうだったし」
 義平は、頭上で手を組むと天を見上げた。
 鳶だろうか、鳥の影が、すい、と青空を横切る。
「あーもーほんっとう面倒臭い! 公家どもお得意の駆け引きってやつ。ちゃちゃっと未来が見えたらなあ。そしたら、考えることなく最善の道を選べるのに」
 言って、義平はあまねを振り返った。
「ねえ、あまねってさ、星読みとかできないの?」
「ほ、星読み、ですか」
「そう。これから何が起こるか、星の動きを見て知るのよ」
「そんなことは」
 できない。そう告げようとしたあまねだったが。
「――――あ」と、息を飲んだ。義平が首を傾げる。
「ん? できちゃったりするの?」
「へっ? あ、いえ、まだ、修行の身で」
 あまねは見るからにそわそわし出すと、やがて、「すいません、用を思いだして」と頭を下げた。
 あまねに星は読めない。
 けれど、未来は知れる。何故なら、彼女は未来から来ており――直愛から貰った、あんちょこがあるのだ。
(私でも、役に立てるかもしれない!)
 あまねは小躍りしそうな様子で、自室へ向かってひた走った。


「何だ、アイツ。急に……」
 頼朝は、不思議そうにあまねの背を見遣ってから、義平に向き直った。
「っつーか、そういうのはアイツの師匠に聞けよ。その道じゃ、すげぇ有名らしーじゃん。ほら、この間、うちに来てた――――」
「土御門直愛?」
「そうそう、そいつ」
「もう聞いたわ」
「じゃあ、いいじゃねぇか」
「……よくないわよ」
 義平にしては、固い声音だった。頼朝が不審げに眉を寄せる。と、義平はおどけるように問うた。
「あいつ、あたしに何て言ったと思う?」
「…………何て?」
 頼朝の胸に、一抹の不安が飛来する。
 義平は、口元を歪めると、笑い顔で吐き捨てた。
「死ぬって。あと一年も生きられない、って言ったのよ」
 沈黙が落ちる。
 柔らかな冬の日差しに、忘れかけていた寒風が吹き抜ける。
 それは、段々と強さを増し、いつまでも、二人の袖を揺らしていた。
お読み下さり、ありがとうございます。
週2回更新予定です。
宜しくお願いします!
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