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刻の守護者 〜乙女的大河絵巻〜 作者:いっちー

第四章

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紅の約束(3)

 樹の枝に積もった雪が、音立てて地に落ちるたびに、深まっていく夜。
 凍る大気は、月の光をより白く輝かせている……。
 平家の住まう六波羅邸の一室。
 その縁側で、凍えるほど冷える夜にも関わらず、直愛は顔色一つ変わらず、瞑目していた。室では、太宰大弐・清盛が写経に耽る。
「直愛。星を読んではくれまいか」
 不意に、清盛は筆を硯の上に置くと顔を上げた。
「何か、ご心配するようなことが?」
「経宗殿から、使者が来てな」
 スッと、直愛は目が細まった。
 経宗――藤原経宗は、二条天皇派の主要人物である。
 同母姉の懿子は、正しく二条天皇の生母だった。
「……二条擁立派が、ついに動きますか」
「動くはずがなかろう。奴らには武力がない」
 直愛の問いに、清盛は力なく首を降り、断言した。
 が、束の間の逡巡の後、一言付け加える。
「――だが、わしら平家が付けば話は別だ」
 ドサリ、と中庭の方で雪が落ちた。
 清盛は、月を見上げ、浅く息を一つ吐くと、目を閉じた。
「上皇派の信頼と、わしは他人ではない。信頼の息子・信親はわしの娘婿だ……しかも、重盛は上皇と親しくしておる。わしが二条派に手を貸し、いたずらに世を乱すことなど、万が一にもありえぬ。ありえぬのだ」
 強く、何者かに言い聞かせるように、清盛は苦しげに、繰り返した。
「上皇のもと、平氏と――源氏があれば、世は安らかであろう。疑いない。両虎相い闘えば、勢い供に生きずとも言う。しかし。しかし――わしは、怖い」
 一度、言葉を句切り、彼は長く、張り詰めていた、溜息を吐いた。
「今の源氏など、箸にも棒にも掛からぬ弱小武家だ。気にする方がどうかしている……だが、ここ最近の、奴らの台頭には、目を瞠るものがある」
 清盛は、脳裏を掠める情景を振り払うように首を左右に振った。
 一年ほど前に行われた「殿上始」の儀で見かけた、白い獣が……そこに同席していた戦友が、脳裏に張り付いて離れない。
「わしは供に戦場で馬駆った義朝を、時折、恐ろしく思う。あれは……強い男だ」
「……それで、星を読め、と」
「さよう」
 直愛は、音もなく立ち上がった。
 天を見上げる。
 一つの、細長く棚引く厚い雲が、月光を遮った。
 雲間から漏れ出た光は、直愛の厳しげな横顔を照らした。
 彼はじっと雲が流れ行くのを待った。
 どさり、とまた、枝から雪が落ちる音がした。
 空が晴れる。
 翳りなく、月が地上を照らす。
 星が、瞬き、運命を告げる。
 直愛は、人知れず、ニヤリと口の端を持ち上げた。そんな表情も一瞬だった。振り返った彼は、微塵も感情の気配を見せず、澄んだ川面のように研ぎ澄まされた面を、清盛に向けた。
「清盛様が案じられた通り、このままでは平家はいずれ――――源氏に滅ぼされるでしょう。しかしそれは、選択の結果に過ぎない」
「天命は、変えることができる、と」
「そのための星読みです」
 直愛は頷いた。
「数ある未来の中、一際輝く星があります。それは、こう告げています。近く起こる戦で源氏は滅び、平家の時代が訪れるだろう、と」
 彼の言葉は、夜の静寂に不気味と響いた。
 清盛はゴクリと咽を鳴らす。
 直愛の言う星を見ようと、視線を追った。けれど、彼に読めるはずもない。
 清盛は、文机の上に肘を乗せ、悴む手を組むと、額を押しつけた。
「家の行く末を案じるのは、罪であろうか」
 震える声が問う。
 直愛は、小さく身を強ばらせる清盛を、冷たく澄んだ微笑みでもって、見下ろし、言った。
「当然のことかと」
 清盛の色を無くした唇が、吐息を吐き出す。
 ……長い長い、沈黙の夜だった。
お読みくださり、ありがとうございます。
週2回更新予定です!
宜しくお願いします!!
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