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けれど消滅してしまった私に それが出来るでしょうか
冬の花〜Last wish
作:遊奈




 しんしんと

 あなたにふれる そのしゅんかんが

 わたしのしあわせ


 けれどやっぱり もっとそばにいたい

 あなたにもわたしをしってほしい

 だからかみさま ことしだけでいいから

 どうかわたしのねがいをかなえてください

 そのあとはどうなったって かまいませんから



 しんしんと

 あなたにふれることが

 わたしのすべて





-*-*-*





 少し茶色い、目にかかる髪

 意外と長いまつげやすぅっと延びた鼻筋

 たくましいとは言いがたい、ひょろりと長い体

 道ですれちがったって、たいして気にも止めないような

 そんなどこにでもいそうな、あなたが


 私にとっては何よりも特別で大切でした


 一生あなたに気付いてもらえないのかと思えば思うほど、この気持ちは強く大きくなるばかり

 そっと遠慮がちに触れるのはいつも、私の方

 それも、とても短い一瞬の出来事

 それが終わればまた一年



 耐えられなくなった私は、ある夜ひときわ輝く星が流れた時に、とうとう神様にお願いをしました

 『私を人間にして下さい、あの人の側に行かせて下さい』

 何度願ったか分かりません、神様はようやく私の願いを聞き入れて下さいました

 『今年だけ』

 この冬、雪が降る季節だけ、私は人間として地上に降り立ちました


-*-*-*



 その年、初雪が降ったのと同時に私が降り立った場所が、この河川敷でした。

 魚が音を立ててはねました。鳥が二羽仲良く寄り添いさえずりました。草木が風に優しく揺れました。
 雪がふわふわと舞っていました…。

 ―――そして、あなたがそこにいました。

 『そんな薄着で…寒くない?』

 その時の私は、とても薄っぺらい布のような白い服を一枚、纏っているだけでした。

 『これ…着なよ』

 そう同情して上着を差し出してくれたのは、余程に真白で儚げで今にも消えてしまいそうに見えたからでしょうか。
 けれどそう見えたのは、私に悲しい事があったからではありません。一人たそがれていたからでもありません。
 皮肉にも、私が人間では無かったからこそ、あなたから声をかけて貰えたのかもしれません。

 『名前、なんていうの』

 名前なんて私は持っていませんでした。だから私は、私の持つ知識の全てを洗い探して出た名前を口にしました。

 『―――…六花』

 『りっか?変わった名前だね』

 六花――いつか誰かが言っていました。人間が呼ぶ、私達の別名だそうです。



-*-*-*



 あなたと会う度、私は人間らしくなっていき、何度も自分の立場を忘れそうになりました。

 けれど流れ星を見る度、また現実に戻る事が出来るのです。
 ずっとあなたと一緒にいたい。私は、今年だけ、という約束を何とか変える事はできないかと、また何度も願いました。

 『ずっと大悟と一緒にいられますように』

 そしてそれが無理なら、空へ帰る時あなたも連れて行こうと思っていました。

 『私が空を飛ぶ時は、大悟も一緒だから』

 なんて勝手な話でしょう。それほどまでにあなたが大切だったのです。あなた無しでは、もう生きていけないと思ったのです。

けれど…残された時間が少なくなればなるほどに、考えが変わっていきました。
 これも、人間らしくなっていった影響でしょうか。あなたには幸せになってもらいたいと願うようになったのです。

 そしてそれは、私と一緒では叶えてあげられない願いでした。


 『空には私一人で行く事にする』


 今私が願う事はひとつ

 お願いだから…春よ、まだ来ないで下さい。





-*-*-*



 願いは、届きませんでした。

 もうすぐ三月になる頃のことでした。
 あまり時間がありません。いつが最後の雪になるか分からないのです。

 だから、あの日あなたに全てを話し、お別れを言うつもりでした。
 いつもの河川敷で待つあなたと、最後に空を見るつもりでした。私の大好きな青い空を――本当は、星が流れる夜空よりも、よく晴れたお昼の空が好きでした。
 空を飛ぶ時に、太陽が私をキラキラと、美しく輝かせてくれたからです。
 けれどあなたには会えませんでした。

 駆け足で待ち合わせ場所へと向かい、遠くにあなたの姿を見つけました。大きく手を振りあなたの名前を呼びました。

 一度だけあなたがこっちを見てくれた気がしたけれど、私には気付いてもらえませんでした。あなたを呼んだのが、私が最後に発した声だったのです。
 あなたがこっちを見てくれたその瞬間、私の姿はもうそこにはありませんでした。

 冬はもう終わりを告げてしまったのです。


 夢のような日々は、あなたに別れも言えぬまま、一方的に幕をおろされました。


 意思に逆らい、容赦なく吹き荒れる北風に乗って、空へ帰って行く私の胸をちくり、ちくりと刺すのは、残るあなたへの未練と、眩しい春の太陽でした。 



-*-*-*





 けれど、けれどね 20年たったってあなたの事が気になってしかたありませんでした。
 私が突然消えて、あなたはどう思ったでしょうか。人間にとっての20年は、とても長いものだと聞きました。今あなたはどうしているでしょうか。怒っていますか、呆れていますか。それとも、もう忘れてしまいましたか。

 今更ですが、ようやくこっそり地上に降りるチャンスがきました。あなたを呼んできちんとお別れを言うつもりでした。

 なのにあなたは、私と来ると言いました。私にそれを断る事はできませんでした…。

 『――私…願わなきゃよかったね……』

 私が贅沢を言わなければ、あなたの側に行きたいだなんて願わなければ――私達が出会わなければ、あなたは幸せになれたのでしょうか。

 私は、あなたの幸せを奪ってしまったのでしょうか…

 あなたと二人で空へ昇ってゆきます。あなたは人間ではなくなり、私とずっと一緒にいることになります…。
 果たしてそれがあなたの幸せになるのでしょうか。本当にそれでいいのでしょうか。
 悩む私の瞳から、ぽろぽろとこぼれる涙の一つを、あなたが受け止めました。そして気付かされました。

 私はあなたとは違う
 あなたと永遠に出会うはずがなかった運命を
 私が無理矢理ねじ曲げてしまった

 ――これ以上あなたを巻き込んではいけない…


 涙は正直に私の本来の姿を、あなたに教えたようです。
 私は、天に向かい神様に訴えかけました。

 『お願い、この人を助けて』

 私は今日神様との約束を破り、勝手に地上に降り立ちました。罪を犯した私に、天が静まりかえったままなのは分かりきっていた事。

 『もちろん、私の全てを捧げます』


 光が私を包み、また別の光があなたを包み、私はそっと呟きました。

 『大悟 愛してる』

 さよならもありがとうも、全部全部含まれた大きな気持ち。私があなたに心から伝えたい、ただ一つの言葉。私をここまで動かした、全ての想い――…。

 私の事なんか忘れてくれていい。私達の幸福だった日々も、なかった事にしてくれていい。それでもいい、私はあなたを愛し続けるから…。どんな形であろうとこの世に残これるのであれば、またあなたに降り積もりましょう。

 あなたを――目を閉じ微笑むあなたを、愛しきあなたを、強く抱き締めたまま

 私は
 声を失い
 体を失い
 心を失いました

 いいえ 始めに戻っただけ
 私は始めから何も

 持っていなかっ た

 きっとまた 雪に戻る 


    だ け









-*-*-*





 深々と

 あなたに降れる その瞬間が

 私の幸せ


 けれどやっぱり もっと側に居たい

 あなたにも私を知って欲しい

 だから神様 今年だけでいいから

 どうか私の願いを叶えて下さい

 その後はどうなったって 構いませんから



 深々と

 あなたに降れる事が

 ――――――私の全て


例えば塵の粒子でもいい この世にいたかったと あなたの側にいたかったと まだそんなわがままを言う私を   どうか許して













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