始業式第5話
…
『あっ!生徒会室行くんだった。』
「悪い! 俺ちょっと行ってくるわ! 」
広幸や健太の話を遮り、壱春は席を立ち教室を出る。
小走りで2階から1階の階段を降りると、少し前を千秋が歩いていた。壱春はすぐに追い付き…
「…よう! どうかしたのか? 」
見ると千秋は胸の辺りを押さえていた。
「調子悪いのか? 」
「…」
壱春の言葉に、千秋は無言で首を左右に振る。
「…そっか。」
「まぁ平気ならいいけど…。」
千秋は壱春の横顔を見上げる。
180センチある壱春を、154センチの千秋が目で追うと、自然と首が痛くなる…。
『昨日…喧嘩したし、朝も私のせいで遅刻したのに…。ハルちゃんは普通に話しかけてくれるんだね…』
壱春のいつもと変わらない態度に、千秋は嬉しくなる。
「あっ!! 」
急に階段の真ん中で声を出して立ち止まり
ズボンの右ポケットに無理矢理突っ込んでいたタオルを頭に巻いた。
壱春の見つめる先を、千秋も目で追う…。
その先には壱春の憧れの女性、3年の宮崎小雪がいた。
宮崎小雪はこちらに気付く事もなく通りすぎていく…視線を戻すと壱春の顔が少し赤みをおびているのがわかる。
その表情は、壱春が 『宮崎小雪』 に思いを寄せている限り…どんなに頑張っても、千秋自身に対して向けられる事はないだろう。
「そうやって頭にタオル巻いてると…ハルちゃんのお兄ちゃんに似てるね! 」
千秋は…壱春の『憧れの女性』の話題には触れない…。触れたくない。
その事に触れてしまえば…壱春の考えている『只の憧れ』というものから…千秋の考えている『恋』というものへと、壱春の心が動いてしまうのが嫌だからだ…。
「そうか? まぁ歳は離れてるけど、ヤッパリ兄弟だからな! 」
表情をパッと切り替え、何事もなかったかのように、頭に結んだタオルに手をおき階段を降りながら千秋に喋りかける。
「千秋は俺の兄貴好きだったもんなー? 」
「ちっ! ちがうもん!」
千秋が手をブンブン振る。
「兄貴はもう結婚して子供も2人いるんだぜ? 奥さんも綺麗でスタイルいいし……千秋じゃ…勝てないと……思うぞ! 」
「その『間』わなんなのさ! …!? わたしの…むっ…むっ胸見て言ったの!? そーなんでしょー!?」
バッと千秋は胸を隠す。小さい手でも十分に隠れるぐらいの胸を…。
「急いで隠すほどでもないだろ? 」
丁度階段を降りきって、壱春は無表情で切り返した。
千秋は顔を真っ赤にして
「ハルちゃんの無神経! えっち! すけべ! 変態! へんたい! ヘンターーーーイッ! 」
と叫びながら、今まで降りてきた階段を駆け上がっていく。
「お前どこかに用事があったじゃなかったのかよ!? 」
壱春の声は聞こえていないのか、『変態』を連呼しながら、千秋は走っていった…。
呆然とする壱春…
「千秋の奴……今日は『女の子の日』だな…」
タオル頭をポリポリかきながら、生徒会室に歩き出す『無神経』な男子が此処にいた…。
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