桐先生 第5話
「ヤッホーイ!やっぱ朝練さいこぉー!!」
「寝坊で遅れて参加してきた奴のセリフとは思えんな…。」
サッカー部の朝練を終えて、上半身裸で廊下を闊歩する広幸に冷たい視線を浴びせる健太と、廊下をすれ違う生徒達。
「って、あっ!必死になーにを書いてるのさーっ壱やんっ?!も、もしかして桐先生との最後の日を迎える前に遺書っすかー?? 」
珍しい事にいつもの登校時刻よりも早くに教室の自分の席に座り、ノートにペンを走らせる壱春。
そんな壱春に気付くと声を掛けながら教室に入ってくる広幸と健太の2人。
当然広幸が上半身裸の事には一切ツッコミを入れる事無く顔を上げた壱春が口を開く。
「縁起でもねー事をマジな顔で聞くなよヒロ…てかケーキ奢るだけでなんで遺書書かないといけないんだよっ!!これはケーキ屋の情報収集してるだけだっつーのっ!」
「情報収集ねー…んじゃ桐先生に対する悪巧みは辞めたわけだ? 」
「おー、命は粗末にするもんじゃねーからなー…たかがケーキごときで。」
「ははっ、その通りだな!それにしても昨日とは、うって変わってマトモな考えになったみたいだけど…どーしたんだ? 頭でもぶつけたのか? 」
苦笑いを浮かべて質問してくる健太に、昨日の千秋との出来事を思い出した壱春は額を押さえた。
「頭? あぁー………ぶつけたと言うよりは…ぶつけられたと言った方が正しいな。」
そう言って、今まさに前の席に座ろうとやって来た千秋を見上げる壱春。
広幸はその様子を見てどこか楽しそうに冷やかす。
「なになに?!まーーた千秋ちゃんと夫婦喧嘩したわけー?!」
「何の話か解らないけど…まだ夫婦とかじゃないもんっ!!」
「「まだ……っって事はっ!!」」
鞄を少し強めに机の上に置く千秋の横で、2人の関係は進展したのかと言いたげな表情の健太と、『やっと幼馴染みを卒業したんだねー』と呟き頷く広幸。
「あ、あれ? 言い方間違えたかなハルちゃん? 」
「だいぶな…。」
健太と広幸のその対応に、まだ自分の言った言葉の意味を、ちゃんと理解しきれていない千秋に対して壱春は残念そうに溜め息を着く。
「おっはー!出席とるからさっさと席に着けーっ!!…あー、そうだ忘れる前に言っとくけど、サンタと馬鹿アフロ…昼休み職員室集合なー。」
壱春の溜め息と同時に、教室の扉を開け昨日の放課後と同様に上機嫌で入って来た柚先生だったが、壱春と広幸の顔を見た後、しかめ面に変わる。
その表情を見て、『えっ?この前の事バレちった?!それともその前のっ?!』と色々思い当たる節が多すぎて頭を抱え悩む上半身裸の広幸。
そして一方の壱春は朝早く登校して柚先生の机の引き出しに殺人的な臭いを放つスルメを返品した事がもうバレたんだと、『俺はケーキどころかスルメごときで命を粗末にしちまったな』と天気の良い窓の外を眺めて項垂れていた。
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