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  春風 作者:給湯器
記憶喪失のままで… 第8話


クラスマッチのサッカー決勝も後半残り僅かになった頃には、すでに5ー0と大きなリードを得ていた壱春達のクラス。


「さっきからゴール決める度に柚先生の笑い声が聞こえてくるなー、ケンタ。」

「そうだなー。後、ヒロユキの笑い声もな…。」


試合中、苦笑いを浮かべながら話をする壱春と健太の視線の先には、楽しそうに相手チームのフォワードの攻撃を防いでいる広幸。


「ナハハ!!甘い…甘過ぎますよ先輩方!!」


相手チームが3年の先輩達だろうが見事なまでに手加減も遠慮もしない広幸のディフェンスに、体格の良い先輩でさえもタックルに押し負け倒れ込んでいた。


「おっ、ボール来たぞイチハル!前に出せよ前にっ!!」

「おうよ!!」


広幸のクリアーしたボールを落下地点で待つ壱春。
そしてカウンターを狙うべく前線に走り出した健太。
だがその時既に気を抜き、試合に集中していなかった壱春は背後から突っ込んでくる相手ディフェンダーの動きに気付か無いまま背中にタックルを受けた。


「…のわっ?!!」


一瞬の事で踏ん張る暇も無くバランスを崩して、前のめりに勢い良く倒れ込む壱春は、芝生のグランドへと綺麗に顔面スライディングを決め、そしてそのまま気を失う。


「お、おい?!大丈夫か?……うわっ!!」


流石にピクリとも動かない壱春の事を心配しだした3年の男子生徒は、芝生を血で赤く染めていく壱春の様子を見て青冷めながら後退りする。


「ちょっ!!ヤバイんじゃねーのっ?!」

「まさか…いっちまったのか?? 」

「いっちまったって…あの世にかよっ?!」


口々にそんなろくでもない事を言い始めた生徒達の間に広幸と健太が入り、壱春の様子を伺った。


「あぁー………やっぱり鼻血だねー!健ちゃん!」

「だなっ。」


少しホッとした感じの笑顔を浮かべる健太と広幸に、タックルをした男子生徒は慌てた様子で2人に声をかけていた。


「は、鼻血ー?!有り得ないだろっ!!もし本当に鼻血なら…尋常じゃ無いほど出てるんだぞ?!」

「まぁ、コレには色々と訳があるんで…先輩は特に気にしないでも平気で……」

「グフッ!!」


慌てる3年の男子生徒に対して、壱春の無事を伝えようとする健太が言葉を言い切る前に、その男子生徒はミシッという骨のきしむ様な音と共に横に吹き飛び、健太の視界の中から瞬間的に消え、代わりにラリアット的な技を放った美波が入ってきていた。


「春坊に何て事するのよぉー!!地獄に落としてやるんだからぁぁっ!!!」


ピッチ内に入ってきた美波は、更に危害を加えるべく倒れた男子生徒に近寄り始めた。
それを千秋が止めに入る。


「お姉ちゃん!それ以上は駄目だよっ!!」

「離しなさい千秋っ!後10発ぐらいわいかないと気が済まないのよぉっ!!千秋はぁ春坊が血だらけにされてもぉ…悔しくないのぉっ!? 」


美波の言葉にしばらく考え込む千秋。
健太と広幸はその時、『血だらけになったのはあなたのせいでしょう』と心の中で呟くと再び壱春へと視線を向けていた。


「………じゃあ1発だけ。」


そう言って男子生徒へと近付いて行く千秋を、今度は奈緒と小雪が急いで止めに入っていた。





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