発熱 第5話
「残念だったねー千秋ぃー…。」
そう声をかける奈緒の視線の先に写るのは肩を落とした千秋の姿。
結局千秋の願いは柚先生に届かず壱春は午後の部に出ないので、一緒に文化祭をすごす事は出来ない。
「そ、そんなに残念ってわけでもないよっ!? ハルちゃん居てもうるさいだけだしっ!!」
笑みを浮かべて奈緒に返答する千秋の笑顔は明らかに作り笑いだと解るように、唇の端がピクピクと小刻みに動いていた。
「強がっちゃってー!」
「…っ!」
ニコニコと笑いながら千秋の事を指で突っつく奈緒の言葉に、いつもの様に顔を赤くして反応する千秋だった。
…その千秋と奈緒から少し離れた所で騒いでいるのは健太と広幸と男子生徒数名。
「割り振りだけでこんなにもめちゃうのはさー、やっぱり健ちゃんが彼女を作らないからだと思うんだよねー…。と言う訳でー、健ちゃんには彼女を作って貰おうっ!!」
真剣な表情でそう叫ぶ広幸に、男子生徒達はウンウンと頷く。
そんな様子を見ていた健太が面倒臭そうにあくびをしてから口を開く。
「と言う訳とはどういう訳だヒロユキ…余計なお世話だってのー。…て言うかちょっとトイレ。」
席を立ち教室を出る健太が横目で見るのは、顔を赤くしてアタフタしてる千秋と、楽しそうに笑う奈緒達。
そんな健太の様子に、アレだコレだと騒いでいる広幸を含む男子生徒達は誰も気付かなかった。
…そして場所は変わり、帰り道をフラフラと歩いている壱春は家までもうすぐの距離までたどり着く。
「ニャァー。」
道路へと落としていた視線をふと上げると目の前を通る黒猫。
『…。』
「カァー、カァー。」
更に視線を上げると夕方でもないのに電柱にとまるカラスの群れ。
『……。』
「グニッ。」
上を見上げていた壱春が気付かずに踏む犬の糞。
『………。』
「ブチッ。」
そしてそれと同時に切れるスニーカーの靴ヒモ。
『…………不吉だな…。』
迷信を信じる信じ無いは別としても、平日は毎日見る朝のニュース番組の占いランキングで、確かに壱春の今日の運勢は12位と最下位だった。
『最下位の貴方、ラッキーカラーは黄色です!』
と言っていた聞きなれた女子アナウンサーの言葉が壱春の脳裏に浮かぶ。
「…ハッ。ラッキーカラー身に付けてないからって、そんな…悪い事が…起こるはずない……アレ? 」
立て続けに起きた不吉な出来事に苦笑いを浮かべながら門を開けて、玄関の前で赤いジャージのポケットを探り、続いて制服のズボンのポケットを右、左、後ろの順に確認する事2回…。
家の鍵を持って無い事に気付き青冷めていく運勢悪過ぎの壱春が、口を開けて固まり家の玄関の前に立ち尽くしていた。
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