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  春風 作者:給湯器
修学旅行3日目 夜 第1話


「なーに血走った目でキョロキョロしてんだよー? 沢尻姉ーっ!? 」


無事に団体行動も終わり旅館で夕食を食べる生徒に混じって、美波も食事をしながら回りを見渡していると柚先生が話し掛けてくる。


「血走ってないですよぉー! ところで春坊の姿が見えないんですけどぉー!? 」


「あー、サンタか? アイツは利き手が使えなくて食べるの遅いからなー。部屋でのんびり食べさせてるぞー!」 


「そうなんですかぁー…わかりましたぁー。」


柚先生の言葉に笑顔で返した美波は、食事の途中だがおもむろに席を立つと広間の出口へと向かう。

出口の扉に手をかけると、奈緒や梨沙と共に扉の近くに座り食事をしていた千秋が不信感を全く隠さない目で美波を見詰めて口を開く。


「お姉ちゃんどこ行くのー?? 」


「お・て・あ・ら・い。」


美波は千秋の目を見ること無く扉を開け広間を出ると、壱春の部屋を目掛けて走り出した。


『誰にも邪魔されずにぃ…春坊にアーンが出来るぅー! それでその後わぁ―…キャッ!! 』


走りながらも、赤く染まる自分の頬を冷ますかの様に手の平で押さえ、壱春が割り当てられている部屋の前にたどり着いた美波は、勢い良く扉を開ける。


「春坊ぉー!私が食べさせてあげるぅぅー!!…ってあれぇー? 春坊ぉーー!? 」


美波が勢い良く開けたその部屋は人が居ない事が直ぐ分かる通り照明もついてなければ物音など一切しない。


『あれぇー? 部屋…間違えたのかなぁー?? 』


美波が部屋の外に出て確認するが、ここは確かに今日の朝迄壱春が寝起きしていた部屋。

『なになにっ!? コレって神隠しぃーー!? 』


頭を抱え混乱する美波の横を丁度通りかかる旅館の女将がそんな美波に声をかける。


「あら美波ちゃん、どうかしたの? 」


「あぁー! ナイスタイミングだよぉー!! ちょっと教えて欲しいんだけどぉ…ここの部屋の骨折した生徒ってぇ、別の部屋に移動したのぉーー!? 」

「……ああっ!その子なら昨日の夜、旅館としては大迷惑なかくれんぼで最後迄捕まらなかったから、今日は最上階の一番いい部屋に移ったわよー。」



「……えっと、それは1人でなのかなぁーー?? 」


「そうねぇ…他の生徒さんの名前もなかったしー。」


「そうなんだぁー。春坊1人かぁー…。教えてくれてありがとぉー!」


親戚の女将との話を終え、何かを妄想しながら広間へと戻っていく美波は、扉を開けた瞬間千秋とぶつかる。


「いたたたっ…てお姉ちゃん?? ハルちゃんの所…行ってたんじゃなかったんだ!? 」


怪しい表情で出ていった美波が意外と早く戻って来た事に驚く千秋。

「バカねぇー。お手洗いって言ったでしょぉー? 私だってちゃんとぉ、時と場所は考えてるんですぅー!!」


珍しくまともな事を言う美波に千秋は少し安心していたが、広間の中に入り食べていた途中の料理に再び手をつける美波は、悦びで笑い出しそうになる自分を必死に抑えていた。


「……夕食の後は急いでお風呂に入ってぇー…少しだけメイクしてぇー…買ったばかりの勝負下着でぇーー…『初めてだから…優しくしてねぇ…ぁぁっ…!』…みたいな状況にっ?? 待っててね春坊っ!!」



独り言を呟きながら急いで料理を食べる美波を、柚先生や近くに座る生徒達が口を開けて見詰めていた。




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