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学園序列最底辺の出戻り少年は、サクッと学園最強になられるようです 作者:こしひかり

最底辺

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底辺と頂点



 夕陽に染まり始めたCクラスの教室に唐突に姿を現した天上院天馬。
 自分達の遥か上に君臨する支配者の登場に、クラスの誰もが息を呑み天馬の動向を窺った。

 まるでスポットライトを浴びるスターのように周囲の視線を一身に集める天馬であったが、当の本人はそんな反応を歯牙にもかけずに見せるといろはの元へと歩みを進めた。


 「……随分と前衛的な机だな」

 「だろ? 特にここ見てくれよ。サインだけじゃなくてとうとう彫刻までされ始めたんだぜ。その内机一面をデコられてても俺は驚かないね」

 初対面で、しかもSランクの人間に話しかけられたというのに全く動じた様子のないいろはが指先でノックした先。そこには『死ネ!!』『ムノウ!!』などといった文字が悪し様に彫り刻まれている。
 精神的には何らダメージを受けてはいないのだが、ノートを書き取る際に影響が出てしまっているので、犯行に及んだ生徒のこの行動は本人の意図したものとは違う形となっていろはを責め立てているのは誰も知る由のないところであった。

 そんな悲惨な状態の机に天馬がほんの僅かに眉を顰めると、再び机からいろはへと視線を戻した。

 「戻さないのか(、、、、、、)?」

 「お察しの通り、巻き戻せない(、、、、、、)んだよ」

 知ってる癖にとでも言いたげないろはに、今度こそそうと分かる程度に天馬は眉を上げた。鎌をかけるつもりで話を振ったのだが、まさかド直球に返されるとは思っても見なかったのだ。

 「……少なからず取り繕うものかと思ったが」

 「自分不器用なんで」

 ちゃっかり往年のネタを披露しつつ、そのままいろはがクラスメイトの一人に目を向ける――と、視線を向けられた生徒は弾かれた様に視線を逸らした。
 周りからどんな類の視線を向けられたとしても何とも思わないいろはではあるが、どんな感情を孕んだ視線を向けられているのかとなると話は別だ。故にそれに気付かない道理は無い。

 「アンタの子か?」

 「まさか。俺に子は存在しない。誰ぞの子の手駒の一人だろう」

 「そか。まあ天下のSランク様がCランクの人間を子にする筈ないか」

 頷きこそしないものの、瞳を閉じて言外に肯定してみせた天馬にいろはが吐息をこぼす。ましてや相手はその中でもとびっきりの序列第1位(エリート)。Bランクの生徒ですら力不足は否めない。

 「どうでも良い雑談はこんくらいにするとして――

 ――直球に訊くけど、アンタは何をしに来たんだ? まさか本当に話に来たって訳じゃないだろ?」

 机の中の教科書やノートを鞄に詰めながらいろはが問う。知る限りでは、この尋常ならざる雰囲気を醸し出す男とは一切関わりは無い筈だ。唯一心当たりが有るとすればあの狩夜(狂人)関連の一件ぐらいだが――それだけで天馬がこうして出向いてくるとはいろはには到底思えなかった。

 言外に社交辞令は不要だと切り捨てたいろはに好感を覚えたのか、天馬は唇を微かに歪めると小さく頷いた。

 「なら此方も単刀直入に訊こう。 ――――織鶴いろは。俺と戦え」

 「……それはあれか? スポーツとかテストの点を争う的な意味じゃなくて戦闘(ガチ)な意味でか?」

 「そういう意味でだ」

 「ヤダよ馬鹿。ていうかそれ、質問じゃなくて命令だかんな」

 「――――」

 交渉する余地も無いとばかりにあっさり言い放ったいろはに天馬が目を丸くする。その表情は、さも不可視の斬撃を受けたとでも物申したげなものだった。

 しかしそれはいろはも同様となる。混じり気無しにそんな感情を浮かべた天馬に、ここで初めていろはも驚きを露にさせられたのだから。

 「――え? 何? まさかお前、断られると思ってなかったのか?」

 「ああ」

 「嘘だろ?!」

 まさかと思い聞いてみたら本当にそのまさかだったという事実に、然しものいろはも驚嘆の声を上げずにはいられなかった。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている天馬から悪意などといったものは一切感じられず、どうやら本当に純粋に断られると思ってもいなかったようである。

 (もしかして、欲しい物は何でも手に入れられてきた口か……)

 もしそうなのだとしたら……狩夜以上にやっかいな人間なのかもしれないと若干の警戒心を抱いたのと同時に、そんな天馬の在り方とそれをこれまで許してきたであろう周囲にも呆れにも似た何かを感じずにはいられない。

 そんないろはに何かを感じた素振りも別段見せない天馬はいろはへと尚も問い掛ける。

 「織鶴いろは。何故俺と戦わない?」

 「質問に質問を返すようで何だけど、逆になんでアンタは俺と戦いたいだよ」

 頭が痛いとばかりに右手で視界を覆ったいろはが返す。こうして多少とはいえ会話した限りでは、少なくとも怨恨からという線は考え難いので、理由を見付けられないいろはの疑問は尤もなものであった。

 そんないろはの問いに返された天馬の答えは、至ってシンプルなものだった。

 「強くなる為だ」

 「――は?」

 「俺が強くなる為だ」

 「――――」

 今度はいろはが鳩が豆鉄砲を食ったような顔を天馬に向ける。意味が分からないのもあるが、それ以上に学園の頂点に立つ男から吐き出された言葉とは思えなかったからだ。

 「……俺と戦えば、お前が強くなると?」

 「そうだ」

 「えーと……なんで?」

 「決まっている。強者と競い鎬を削る争いであればある程、遥かな高みに至るのは自明の理」

 「ちょっと待て待て脳筋。その理屈は色々可笑しい」

 ブンブンと掌を振りながら即座に否定を入れるいろは。
 余りにも目に余るいろはの物言いに、事の成り行きを見守っていたクラスメイト達が揃って顔を青くしたが天馬の機嫌を損ねるには至らなかったようで天馬はいろはの言葉に耳を傾けた。

 「百歩譲ってお前の持論が正しいとする。
 けどその相手に俺を選ぶのは違うだろ。ご覧の通り俺はほら、Eランクだぜ?」

 自分の襟に止められたEランクの証であるバッジをトントンと指差し、見せつける。Eランクである以上、対戦相手に自分を選択するというのは完全に間違っているぞと主張しているのである。

 「ふっ」

 そんないろはの訴えも、天馬は一笑に付した。この場に居る者ならいざ知らず、自分にそれが本当に通じるつもりなのか、と。

 「織鶴いろは。先日お前が斬り伏せたアレ(、、)は曲がり形にも実力はBランク相当の能力者だ。
 何方に優位な相性があったかにせよ、容易く踏刃したのは事実。故に俺はお前という異能眼(カラーズ)保持者(ホルダー)をそれにりに評価している」

 「散々持ち上げといてそれなりかよ」

 「最終的に自分で目にしたモノしか信じない主義でな」

 そう言って皮肉気に笑う天馬。
 果たしてその矛先は何処に向けられたものなのか。それを聞くほどには野暮な性分ではないのでいろはは追及はしなかったが。


 「――話を戻すぜ。仮に俺がお前のお眼鏡に適う人間だったとしたらお前の願いは叶うんだろうが、だとしたら俺にはどんなメリットがあるんだ? 旨味のない提案に乗る人間は普通はいないぜ」

 “時は金也(タイム・イズ・マネー)”とまでは言わないし、いろはは天馬と違って戦闘中毒者(バトルジャンキー)でもない。可能であるならば面倒事や争い事といった事も極力避けて通りたいと思っている。

 ならばそんないろはを提案に乗せたいと思う以上、天馬がそれなりの見返りを要求されるのは当然の帰結とも言えるのであった。


 いろはの人間性を知らない天馬としてもその質問は予め予想されたものであったのだろう。考える素振りも見せずに一度頷くと口を開いた。

 「尤もだ。お前が俺と戦うメリットだが――――お前が勝てばこの学園の1位、頂点に立てる。それは延いては、今のお前の現状を打破する切っ掛けとなるだろう」

 ランクの変動は年四回に行われるランク判定試験の実施によって変動する。ランクの変動というのはその機会以外には基本的には行われず、つまりはいろはがEランクを脱却するには次のランク判定試験が行われるのを待つしかない。

 だが序列に関しては話が違う。ランクが個々の成績によって割り振られる評価であるならば、序列は個人の能力によって順位付けられる評価である。

 序列の勝ち取る方法は至ってシンプルだ。序列保有者に挑み、ただその者よりも優れているという事を示すだけで良い。理論上、下位のランクの者が上位のランクの者を打ち破るという下剋上も可能性としては有り得る。


 だが言うは易く、行うは難し。
 そう易々と序列の入れ替わりが起こる筈もなく、仮に起きたとしてもそれはSランクの生徒によってでしか発生していないという経緯があるので、実質的にはある種のシンデレラストーリーに近い空想であった。


 (要はコイツは、自分をぶっ倒して俺が1位になれば、ランクがEのままでもこんな目に遭わなくなるって言いたいんだろうが――)

 考えるまでもない。答えは、

 「却下だ却下。そもそも前提が違う」

 話にならないといろはは切り捨てた。

 確かに嫌がらせは日々少しずつエスカレートしていってるが今も尚何とも思っていないし恐らくずっと変わらないだろう。
 又、それらの行いが誰かに憎まれたり恨みを買ってしまった事からによるものでもない以上、必ずどこかで下火を見せるものだとも考えている。それこそ台風一過のように、今がピークなのではと思えばこのままいくらでも待っていられるくらいだ。

 それに何より、

 「お前が言ったのは“戦って勝った場合のメリット”だろうが。んなもん、お前に勝てば厭でもやって来るんだからそれじゃあ俺は動かないぜ。
 俺が欲しいのは更にその前――“そもそもお前と戦うメリット”だ」

 話は終わりだ、とでも告げるように鞄を手に取ったいろはが席から立ち上がる。
 天馬がどれ程の実力者なのかは知らないが、待ってればその内勝手に終わるであろう事を早める為だけに、一々骨を折るのも煩わしい肩書きを背負い込む必要もなかった。

 「悪いな。そろそろ時間が怪しくなってきたんでこの辺りで許してくれ」

 「構わん。時間を取らせたな」

 説得は難しいとでも判断したのだろうか。意外にもあっさりと諦めた天馬に思うところが多少あったが、本人がそう言う以上追及する訳にもいかず、いろはは最後にもう一度だけ「悪いな」と告げて天馬の横をすれ違うだけに留めた。



 「織鶴いろは」

 教室から出ようとしたいろはの背に投げ掛けられる静止の声。それが誰により発せられたものかなど考えるまでもない。いろはは首を傾げ、肩越しに声の主を見た。

 「放課後は大抵生徒会室に居る。好きな時に、いつでも来い」

 「――――」

 その発言から、天馬が諦めたのはあくまでこの場で言質を取る事だけなのだという事をいろはは悟る。どおりであっさりと諦めてみせた訳であると。

 だがどうしたっていろはの意思は変わらない。
 これ以上言葉を重ねる気は無いと示すように、いろはは片手をおざなりに上げてみせると今度こそ教室を後にするのであった。





 こうして、学園の最底辺に位置する男と学園の頂点に立つ男の邂逅は終始穏やかに行われ終わりを見せた。

 限りなく対極に位置するこの二人が今後、どの様な行く末を描いていくのか。

 それは二人の中間に位置する、この場に居る誰にも一向に予想がつかない未来なのであった。



 サーセン、遅くなりました。次の更新は明日を予定してます。

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