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学園序列最底辺の出戻り少年は、サクッと学園最強になられるようです 作者:こしひかり

帰還

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結末の裏側













 「――納得出来ません!」

 バンッ、と会議室の机を力強く叩いたのは葉月こおりであった。
 普段はクールな教師として同僚達に知られる彼女だが、今は感情を露に大声を上げていた。

 「し、しかしですね葉月先生、この結果はこの学園の評価規定に正しく則ったものでありまして……」

 「それが納得出来ないのですっっ!!」

 バンッ!

 再度机に振り降ろされた衝撃音に、他の教師陣は揃って身を固くした。体格も年齢も全てがこおりを上回っている彼等ですら今のこおりの前には形無しだ。こおりの主張にも充分に納得出来る点が有る事は確かなのだが……



 そんな彼等を代弁するつもりではないのだが、唯一こおりに圧倒されなかった一人の女性が口を開いた。

 「――そこまでです、葉月先生。これは決定事項です。
 誰が何と言おうと、()の生徒の評価は規定通り“Eランク”と判定いたします」

 「――っ!」

 キッ、とこおりが鋭く睨んだ先。
 そこには、上品に染め上げられた和服に身を包んだ一人の年配の女性が背筋を伸ばし、姿勢良く椅子に腰掛けていた。

 「そのような目をしても無駄です。
 何度でも繰り返しましょう。(くだん)の生徒のランクはEランクと判定します」

 「どうしてですか理事長! 織鶴はEランクに収まる器の人間ではありません!
 不登校だったので確かに成績は悪いですが地頭は悪くないですし、素行にも生活態度にも全く問題は見られません。なにより、相当の高ランクと思われる異能眼(カラーズ)保持者(ホルダー)ではないですか!
 そんな生徒をEランクと判定するのは、余りにも不当な判断ではないでしょうか!」

 「は、葉月先生、す、少し落ち着きましょう? ね?」

 「私は、充分に、落ち着いてますっっ!」

 (((どこがだっ!)))

 瞬間、心重なる。
 鼻息荒く興奮した様子を見せるこおりに、その場に居る教師一同の誰もが内心で突っ込んだ。

 一方の年配の女性――理事長と呼ばれた女性はというと、そんなこおりに意に介した様子も見せずに、自身の揺るがぬ意思を言葉に変えてこおりへと示してみせた。

 「確かにその生徒には現状目立った問題は見受けられません。極めて高いレベルにある異能眼保持者である事も本当なのかもしれません」

 「“かもしれない”ではなく事実です!」

 「ですから落ち着きなさい。 ……仮にそれが事実なのだとしても結果を変えたりはしません」

 そこで理事長は言葉を切ると、いいですか、と告げてから説明を始めた。

 「そもそも昨日の放課後に予定していた試験は、そういった事も含めて試験官の先生方に確認し測定してもらう試験です。予め生徒には通達しましたし、時間にも充分に余裕を持たせて予定を立てました。
 ですがその生徒は試験会場へと向かわずに試験を受けなかったではないですか。どれだけ実力を秘めていようとも、試験でその実力を披露出来ていない以上、採点は0点です」

 「そ、それは昨日処分を下された紫道狩夜に巻き込まれた為だと説明した筈です! ですから織鶴は仕方なく、」

 焦った様子のこおりに、理事長は全てを言わせるまでもないと頷いて見せると言葉を引き継いだ。

 「ええ、それは聞き及んでいます。

 ですからここで問題となるのは別の事――“何故、紫道狩夜が問題を起こしたのか”です」

 「な、何故ってそれは、紫道が織鶴に試験を受けさせるのを妨害する目的かと――」

 そうとしか考えられないタイミングの良さから、こおりは誰に告げられた訳でもなく真実へと辿り着いていた。

 しかし――理事長はそれを、首を振って否定した(、、、、)

 「いいえ違います。聞いたところによると、紫道狩夜は(、、、、、)織鶴いろはが(、、、、、、)その日に試験を(、、、、、、、)控えている(、、、、、)事は知らなかった(、、、、、、、)と言っています」

 「馬鹿なっ!?」

 有り得ないとばかりに机を強く叩きながら、こおりは驚愕に満ちた叫び声を上げた。
 もし狩夜の言う事を信じるのならば、狩夜が昨日引き起こした問題は偶々(、、)いろはの試験日と被ってしまったと言う事である。

 「余りにもタイミングが出来過ぎてる! ――まさか理事長、紫道の言う事を本気で信じた訳ではないですよね!?」

 まさかと思い視線を向けると……そこにはこおりの予想に反して、憮然とした表情を浮かべる理事長の姿があった。

 「当たり前です。私がこれまで、どれだけの生徒を見てきたと思っているのですか。あの程度の嘘を見破れない筈がないでしょうが」

 寧ろそう思われた事の方が余程腹に据えかねる、といった感じの理事長の圧に、流石のこおりも愛想笑いを浮かべて有耶無耶にするしかなかった。

 「話を戻しますが、紫道狩夜が嘘を吐いている――つまり、織鶴いろはの試験の事を知っていたのを前提で話を進めます。

 そうなると次に浮上する問題は、紫道狩夜は一体、いつ(、、)何処で(、、、)その事実を(、、、、、)知ったのか(、、、、、)、という点です」

 「そ、それは……」

 理事長の言及に、思わず渋い顔をしてしまうこおり。実は彼女にしてみても、どうしてもその点だけが分からなかった。

 「試験の存在を知っているのは、最低でも当人である織鶴いろはとそれを伝えた葉月先生、それに私と当日の試験官役であった先生方数名のみ。紫道狩夜がそれを知る由もない事は断言出来ます」

 「……はい」

 「ならば最も考えられる可能性としては、そこから洩れ出た結果だとは思いませんか?
 私や葉月先生、それに他の先生方が間違っても試験の存在を仄めかすなんて事をする筈が無い以上、後に残されているのは織鶴いろは当人だけです」

 「ちょ、ちょっと待って下さい! いろ――織鶴が狩夜に口を滑らせたとでも言いたいんですか!?」

 「そうは言いません。ですが織鶴いろはが妹や親しい友人に話しているのを第三者が聞き、巡り巡って紫道狩夜の元まで届いてしまったというのが最も現実的ではないですか?」

 「う、そ、それは……」

 確かに自分がいろはに試験の事を伝えた時にも、かるたやその友達と思われる少女達が居た。ならばいろはだって隼人や灯達に試験を受ける事を話した時に、周りに居た誰かの耳に入っていたという可能性だって否定はし切れない。


 尚、二人のこの推測は全くの的外れであり、正しくは星眼の保持者である生徒に依って狩夜へと齎された情報である。
 この事実を知っているのはいろはと後になって説明を受けた隼人と灯のみで、この時点に於いてはこおりにはまだ知らされていない真実であった。

 また異能眼保持者(カラーズホルダー)である生徒は当然の事ながら、狩夜の取り巻き達も皆、自身の保身故に隠し切れない事実以外は知らぬ存ぜぬの態度を貫いていたので、この事実が現時点で明るみに出る事は到底有り得ない話であった。


 「教師陣の不手際で情報が洩れ紫道狩夜に伝わったのだと確証があるならまだしも、当人の行動が起因した原因の可能性が高いと言える以上、再試験を行わせる訳にもいきません。
 よって、織鶴いろはの今期のランクはEランクと致します」


 そう告げた理事長に、こおりを除いた教師陣がぎごちないながらも頷き肯定の意を示す。そもそも昨日予定していた試験は追試という形に限りなく近いものだったのだ。それをやむを得ない事情があったにせよ、試験を受けなかった以上はランクダウンは当然の結果だと判断したのであった。


 しかしそういった理由があるのなら、ならば何故ハッキリと肯定し切らないのか? その理由はこおりの口から告げられる事となる。

 「…………分かりました。
 いえ、納得は少しも出来ませんが、理事長の仰りたい事だけは理解は出来ました。

 確かに織鶴はどんな理由があったにせよ試験を受けませんでした。それは事実です。0点扱いだということも理解出来ます。

 ですが“Eランク”という事だけは理解も出来ません! いくら何でもEランクという評価は余りにも不当ではないでしょうか!
 暫定とはいえ今の織鶴のランクはCです。個人的にはそれさえも過小評価だと思っていますが、今回の一件でランクダウンとなるのなら、先程にも言ったようにDランクが妥当かと思われます!」

 こおりの言に、頷く素振りこそ見せなかったが幾人かの教師は内心では同意してみせた。
 これまで、体調不良や実家の都合を理由にランク判定の試験も追試も受けられなかった生徒は少数ながら存在していた。彼ら彼女らの例を出すなら件の生徒も現状維持かワンランクダウンだけではないのか、と。

 こおりとしてはランクダウンすらさせたくはなかった。狩夜などというカスに足を引っ張られさえしなければ、いろはは今頃Aランク――いや、Sランクすらも余裕だったに違いないのだから。

 だが理事長の言う事に道理がある以上、ランクダウンの懇願というのはこおりにとって、苦肉の策――精一杯に譲歩して見せた姿勢であった。




 ――尤も理事長は一顧だにしなかったが。


 「答えは変わりません。織鶴いろははEランクとします」


 “――このクソババア!!”





 今後の職員人生を失いかねない程に危険な発言を、こおりは(すんで)の所で呑み込んだ。

 「……理由をお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか」

 「ヒッ?!」

 変わりに吐き出たのは、何ともおどろおどろしい色を帯びた疑問であった。
 可憐な容姿のこおりから、こうも恐ろしい声が出るものかと周囲の教師陣が顔を青白くさせているが、流石に空気を読んだのか誰も触れるような真似は見せなかった。

 そんな冷え冷えとした空気の中でも一切気にした様子も見せずに口を開いたのは、やはり理事長その人であった。


 「通常であれば、試験や追試を受けられなかった生徒のランクは現状維持か一つ下のランクになります――今回の場合も、そう判断すべきだと貴女は仰りたいのですよね、葉月先生」

 「……はい」

 「それは積み重ねてきた成績(結果)があってこそです」

 「っ、」

 あり得ない、とピシャリと言い切られたこおりが言葉に詰まる。畳み掛けるつもりではないのだが、理事長は尚も言葉を続けた。

 「事前に試験を予定していると知っているにもかかわらず、体調を整えられなかった生徒や家庭の事情で受けられなかった生徒が過去にいなかった訳ではありません。そういった生徒には確かに一度だけですがそういった措置を与えてる場合もあります。

 ですが彼――織鶴いろはには、そんな措置を与えるだけの記録が無いのですから」



 たとえば判定項目の一つである“容姿”。
 この項目は何もただ顔が整っていれば良いだけ、という訳ではない。

 それだけでも、それなりの加点(評価)は得られる。

 だが容姿の項目が評価されるのは、それに加えて髪型や体型、身嗜みに姿勢や女子生徒の場合は化粧の出来映えすらも評価対象となる。いくら顔立ちが整ってようがそれらが全滅であればDランクと判定を下されたとしても不思議な事ではない。

 又、それらはランク判定の試験でだけで結果を出すのではなく、常日頃の生活の中でも教師陣が目を光らせて評価をしている。

 「だから試験を受けれなかった生徒がいたとしても、理由によっては同ランクを維持させる場合があるのです」

 しかしいろはにはそれが無い。学園に残っているのは六年前を最後に記録が止まっている情報と、登校し始めてから今日に至るまでの一月分にも満たない情報だけである。

 「織鶴いろはがどれだけ素晴らしい生徒なのだとしても、先生方の目にそれを評価する日数が余りにも少な過ぎます。
 たった十数日の学園生活の中から評価を出せと言われてもそれは無理な相談です。もしその短い期間だけで評価を出そうものなら、成績をずっと維持し継続し続ける生徒を否定する事になります」

 だからいろはの評価がEランクなのだと。
 もし試験を受けてさえいれば、日常の中で行われている評価点数が無いにしても、試験結果によってはBランクには届いたのかもしれない(余程の規格外な存在でもなければその限りではないが)

 「以上の理由から、私は今期の織鶴いろはのランクをEランクと判断致しました。これにご納得される先生方はご起立をお願い致します」

 ガタガタッ

 「……二名を除きご理解を頂けたようですので可決とさせて頂きます。
 これにて本日の特例会議はこれで終了とさせて頂きます。先生方、お忙しい中のお付き合い、ありがとうございました」

 理事長が頭を下げて礼を告げるのと同時、チャイムの音が鳴り響く。
 これ以上は話す事は何も無いと、最後に理事長はこおりと共に同意の姿勢を見せなかった校長を横目で睨み付けると、足早に会議室から退室していった。

 「あ、ま、待って下さい理事長!」

 その姿をこおりが慌てて追い掛ける。口を挟む隙もなく決定が下された内容をどうにか変えられないかと直訴するつもりであった。


 二人が出て行った事により、漸く会議室に流れる空気が軽くなるのを教師一同、誰もが実感していた。

 故に、普段なら口にしないであろう事もつい溢してしまったのも仕方無く事なのかもしれなかった。



 「いやぁ、しかしよく葉月先生は熱心ですねぇ」

 「ですねぇ……いやはや。頭が上がりませんな」

 「しかし理事長も思い切りましたね。よくもまぁ、ご自分のお孫さんをEランクに落とせますよね」

 「さ、坂巻先生、流石にそれは、」

 「おっとこれは失言でしたね」

 そうしてそのまま何事も無かったかのように、教師陣一同は雑談を交わしながらも退室の準備の為に手を動かし続けた。

 「――――」



 そんな彼らを、白鳳学園の校長は手を動かす事もなくただニコニコとした表情を浮かべながら眺めていた。

 ただニコニコとしながら――





 急遽描き下ろした話。感想欄で貰った疑問に答える為に書いたんだけど、今後の話の持って行き方が大きく変わっちまったぜ……

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