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学園序列最底辺の出戻り少年は、サクッと学園最強になられるようです 作者:こしひかり

帰還

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休日は幼馴染みと妹と


 やったね。灯ちゃんのターンだよ。



 「あかりさん。これ、どうでしょうか?」

 「うん、似合ってる! かるたちゃんはそういうお嬢様系の、シンプルだけど上品な服ってすっごく似合ってると思うよ」

 「あぅ……ありがと、ございます」

 「あたしは、ん〜……――これとかどうかな?」

 「……それはどうかと思います」

 「あはは。だよねー。いくらなんでも種馬はないでしょ種馬は。どの層を狙って作られたTシャツなんだか」

 「すくなくとも、女の子向けのコーナーに置くような商品ではないですよね」

 「値段は……高っ!? 5,980円だって!」

 「だれが買うんでしょう、こんなTシャツ……」

 「だねぇ。あたしも毎月のバイト代のことを考えたら、とても買おうとは思えないなぁ」 

 「……お金があったら買うんですか?」

 「ん?」

 「あ、いえ、なんでもないです」

 「そう? ……あ! ねぇかるたちゃん、あれ見てあれ! キモ可愛くない!?」

 「えっ……あ、はいっ。すっごくキモかわいいですっ」


 燦々と輝く太陽にも負けないほどに眩しい声がショッピングモールの一角で上がる。
 あれはエロ可愛い、こっちはキレ可愛いと、朗らかに笑いながら買い物を楽しむ二人を見ながら、いろはは今一度幼馴染みという存在の有り難みを再確認していた。

(これは当分、灯には頭が上がらないな)

 ここ数日の間見る事の叶わなかったかるたの控えめな笑みを見て、つくづくそう思わずにはいられなかった。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 かるたがこおりと顔合わせを果たしたあの日からというもの、かるたの機嫌は常に低空飛行を続ける毎日が続き、一向に回復の余地を見せることはなかった。

 いろはと食事は一緒に取る。登校も共にし、風呂も就寝も常に一緒にであったがそれは良い。何の問題もない。今まで通りのかるたであった。


 ――ただそこに“一切の会話が無いことを除けば”という前提が付かなければの話だったが。

 いろはが何を、どんな風に話し掛けても、かるたはただじっといろはの目を見詰めるだけで口を開くことをしなかった。

 まるで浮気をした旦那とそれを無言で責める妻といった風な生活が続いた結果、先に折れたのはやはりいろはであった。とうとうかるたに敬語で話し掛けるという事態にまで陥ってしまったのだから重症であった。

 そんなげっそりと窶れた様子のいろはと、自分の感情を持て余し、にっちもさっちも行かなくなっているかるたにお節介を焼いたのが灯であった。


 “なんで二人の仲が拗れてるのか?”


 事情や理由を一切知らない灯だったが、けれど灯からしてみればそんな事はどう(、、、、、、、)でも良かった(、、、、、、)――何よりも大切なのは、いろはとかるた。二人の気持ちなのだから。


 (ま。ケンカして仲直りが出来ないっていうんなら、フォローしてあげるのが幼馴染みってもんよね)

 姉御肌気質で世話焼き性、そして少しだけ素直になれない女の子――藤咲灯。

 そんな幼馴染みの助力の甲斐合って実現されたのが、今のこの状況なのであった。














 「おーーい、いろはーー! こっちとこっち、どっちの方がかるたちゃんに似合うと思うーー!?」

 「っ、あ、あかりさんっ」

 モールに設置されたベンチで一息付いていたところで、良く通る灯の声が辺りに響き渡る。
 クスクスとこちらを見ながら笑う他の客の視線は気にはなるものの、せっかく灯が用意してくれた機会を逃すような愚かな真似をする筈もない。いろはは自然さを装いながら立ち上がると二人の元へと歩いて行った。

 「来た来た。ねぇ、いろははこっちとこっち、どっちがかるたちゃんに似合うと思う? あたしはこっちのネコちゃんの方がかるたちゃんに似合うと思うんだけど」

 そう言った灯の右手に掴まれているのは、上から下まで白一色の猫の着ぐるみ――否、着ぐるみパジャマであった……結局着ぐるみに違いないのだが。

 「やっ、だ、ダメですあかりさんっ、恥ずかしいですっ……」

 正しくは、いろはに見られるのが恥ずかしいのであろう。かるたは必死な様子で灯が手にしている着ぐるみパジャマを奪おうと手を伸ばした。

 「流石灯、分かってるな。そっちのワン公も悪くないけど、かるたならやっぱ猫だろ」

 「だよね! だってかるたちゃん。どうする? 買っちゃう?」

 「……うぅ」

 チラッ、チラッ、と素直に飼い主に甘えられない仔猫みたいな様子のかるたに、あともう一押しだと判断した灯はいろはへアイコンタクトを送った。

 「――――」

 それに気付かない筈もなく、いろはも灯同様にアイコンタクトを返すと、灯の手からするりと猫の着ぐるみパジャマと奪い去った。


 「――猫を、猫を愛でたい」

  (ピクッ)


 「具体的には夜寝る前に、頭や頬を思う存分に撫で回したい」

  (ピクピクッ)


 「そして朝起きた時には、まだ眠ったままの仔猫が起きるまで、無数のキスの雨を降らせたい」

  (ピクピクッ!)


 「嗚呼、何処かにそんな仔猫は居ないものかっ……!」




 ――クイッ。

 軽く引かれた白猫の着ぐるみパジャマにいろはが視線を落とすと、そこには予目線を反らしながら頬を染める一人の女の子(仔猫)がいた。

 「こ、ここに、います……………… (にゃん)








 ――計画通り。

 ゲス顔で笑みを交わし合う少年と少女に、幼気(いたいけ)な少女が気付くことは最後までなかったという。





 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※





 「今日はありがとな、灯」

 夕暮れ時。

 茜色に染まる町の中、いろはは灯へと軽く頭を下げた。もしも灯が橋渡し役を申し出てくれなかったら、いろはの背で眠りについているかるたとの仲直りはもう少しだけ長引いたに違いなかった。

 「ふふん。バッチリあたしに感謝するといいわ」

 「普通こういう時は“気にすんな”って言うのがテンプレだと思うんだが」

 「あによ。正真正銘、あたしのお陰でしょうが」

 誇らしげに胸を張った拍子に、たわわに育った灯の胸が大きく弾む。良くぞここまで立派に育ったものだと、いろはは万感の思いを込めて灯に訊ねた。

 「礼と言っては何だが――揉むか?」

 「シネ」

 照れた様子もなく一刀で斬り伏せる灯。六年というブランクがあるとは言え、幼馴染みという親しい間柄だからこそ気軽に行える冗談であった。

 いろはとしても半分本気で半分真剣に訊ねただけの冗談であったので、断られてもそれほど気にはしていなかった。

 「その手付きは止めなさい。 ――あ。あたし、ちょっと友達の所に寄り道してから帰るから今日はここでお別れね」

 本来であれば灯と別れるのはもう少し先なのだが、灯の言う友達の家とやらはここが分岐点となるのだろう。灯は足を止めていろはにそう告げた。

 「ん? ああ、あいよ。またな」

 わしわし、と“何か”を揉むフリをした手付きのまま別れの挨拶をするいろはに、これはいくら言っても無駄だと灯は早々に理解すると諦めた。

 「ん。じゃあね。もうかるたちゃんと喧嘩するんじゃないわよ」

 ポン、といろはの肩を叩くと、灯は再び歩き出した――ところで、再び足を止めた。


 「大丈夫だと思ってるけど……明日のランク判定試験、頑張んなよ」

 いろはに背を向けたまま、灯は首を捻ると肩越しにいろはへと視線を向けた。いろはは気付くことが出来なかったが、灯の耳が若干赤くなっているのは――決して夕日に染められたせいではない。

 「任せろ。Cランク程度余裕だ」

 「……アンタそれ、間違っても絶対に他の人間の前で言うんじゃないわよ」

 そう忠告を残すと、今後こそ灯はいろはに背を向けて歩き出した。たとえ冗談であろうともそんな事を口にしようものなら、果たしてどんな目に遭わされるのやら。

 (かるたちゃんもそうだけど、違う意味でいろはも色々心配ね)


 ――今まで何処で何をしていたのかは知らないが、元気に戻って来たのならばそれでいい。

 こらからまた、昔のように、今日のように弟分(いろは)妹分(かるた)の面倒を見る日々が訪れるのだと思うと期待に胸が踊る。それは確かに他人から見れば些か面倒なことに見えるかもしれないが、灯としては少しも面倒な事ではなかった。



 「――ホント。がんばんなよ、いろは」

 今日はもう会わない幼馴染みに向けて、灯はひどく優しげな口調で、詠うように呟くのであった。














 ――……と、綺麗に締め括らないのが世の常である。

 「よっ。おかえり」

 「お、おじゃましてます……」

 「何でウチに居るのよ!」

 「“またな”って言っただろうが」

 「そっちの意味だったの!?」

 「それより灯。お前の部屋に置いてあったこのブラだけど、お前には小さいんじゃないか? 今度は隼人も誘って、四人で買い物に行こうぜ」

 「帰れっっっ!!」



 ――弟は不要だという真理に至った、藤咲灯。十六歳の夜の出来事だった。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 その翌日――月曜日。

 いろはのランク判定試験を放課後に控える今日この日、朝のHRが開始されても、一時間目の授業が開始されても、灯の席は未だ空席のままであった。





 朝、登校したという事実を残したまま――。



 Q.灯ちゃんの姿が見えません。灯ちゃんのターンは終了ですか?

 A.はい。終了です。
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