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Doors~女神様の暇つぶし~ 作者:雪華

プロローグ

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scene:1

「走って! 早く!」

 てっぺんが見えないほど背の高い樹木が生い茂る、熱帯雨林。
 日は遮られ、地面には下草したくさが少なく、蔓もないため人間には移動しやすい地形であった。
 が、それは大型生物にとっても同じこと。

「何あれ?! 何なの??」

 鎧を身にまとい、長身でガッシリとした体の青年が、その見た目とは裏腹に涙目で弱音を吐きながら全力疾走する。

「こっちに強いモンスターは出ないって、言ってたじゃないですか!」

 黒いセミロングの髪をなびかせて、スカートをたくし上げながら少女も懸命に走った。

「スライム狩ろうって言いましたよね?! つかささん、地図間違えたでしょう!」

 眼鏡をかけた真面目そうな、いかにも「魔導士」といった感じのマントを身に着けた青年は、ゼエゼエと苦しそうに息をしながら、後ろから追いかけてくるモノに目をやった。

 何度振り返っても、180cmは優にありそうな大きなトカゲが、あろうことか二本の足で走り、追いかけてくる。全身が不自然なほど真っ白で、それもまた不気味だった。

「『大トカゲ』が、あんなに大きいなんて聞いてませんよ! 女神様!」
「何でこっちの世界に来て早々、こんな目に遭うの? もう無理、走れない」

 少女がやり場のない怒りを女神そらに向かって叫んだ。それを聞いて、司と呼ばれた屈強そうな青年も、心底辛そうな顔で天を仰ぐ。眼鏡の青年が、呼吸を乱しながらも二人に向かって提案をした。

「でも、あれを倒しても『落書きノート』が手に入るんですよね? なんとか戦ってみますか?」
「ムリです! あれが落とすのは、もう一ランク上の『初心者のノート』。私たちの今のレベルじゃ、瞬殺ですよ!」

 黒髪の少女が息を切らしながらも即答した。

「そんな事言ったって、俺もう、これ以上走れないよ……!」
「ホント、もう……無理」
「私だって……けど……」

 限界に達した三人は、ついに足がもつれだし、走る事もままならなくなった。
 しかし、容赦なく迫りくる大トカゲを見て震えあがる。

「やっぱり、た、戦うしかっ……!」
「司さん、戦えるの?!」
「やってみなきゃ、わかんないでしょ?!」

 司は背中の剣を抜いて構えたが、膝はガクガクと小刻みに震えるし、剣は予想以上に重たい。

「うわぁ、どうしよう。ちっちゃいトカゲだって触れないのに。アルさん、あんたそんなカッコなんだから、何か魔法とか使えないの?」

 司にアルと呼ばれた眼鏡の青年は、情けなく眉を下げ無言で首を横に振る。

「ネネは?」
「ゴメンナサイ、私も何にもできません」

 いっそ清々しいほどに、お手上げのポーズを取った黒髪の少女を見て、司は「ううう」と、悲しそうに唸る。
 目前まで迫った大トカゲが、長い舌をチロチロさせ、両手を振り上げた。

「ぎゃぁぁぁ!」

 三人は、成す術もなく涙目で身を寄せ合って絶叫する。

 その瞬間

 突然、茂みから飛び出した人影が、三人を背に庇うように大トカゲの前に立ちはだかった。
 影はスラリと両刃の剣を鞘から抜くと、トカゲに向かって無造作に振り下ろす。

 ドンと言うような鈍い音がしたかと思うと、大トカゲの首が地面にゴロンと転がった。

 薄暗い森の中、木々の隙間から差す光に照らされ、たった今大トカゲを絶命させたその人の華奢な背中が、アルには神々しく見えた。
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