第9話:ヌードデッサン!?
「竜ちゃんは部活久しぶりだよね〜」
「いろいろありましたからね」
俺は今凛先輩と部室でイスに座り、向かい合っている最中である。本当は先ほどまで帰る気まんまんで、綾乃達に見つかっていない秘密のルートから逃げようとしたんだ。
その場所は裏門近くにあるマンホールを降りて、しばらく歩いてから上がるというシステムだった。普通ならば絶対に見つからないはずである。
だから俺は五時限目の授業は半分だけ受け、急病(嘘)で帰った。しかしそこは凛先輩。五時限目を丸々サボって俺の教室前で待ち伏せしてやがった。てか良いのか、三年生が授業サボって。
とりあえず見つかってしまったので、ついて行ったわけ。
「で、今日の部活内容はなんですか?」
「ミロのヴィーナスが見たいな」
ミロのヴィーナスかぁ。でも俺は絵画のほうが好きなんだよね。つーか活動内容というか個人の意見で決めてやがるし。
「見たいのは分かりました。ですが美術館に行く金とかは無いですよ」
「あぁそれなら大丈夫だよ♪」
ほぅ、珍しく部費を割いてくれるのか?
「竜ちゃんがヴィーナスみたいになれば良いんだから」
「お断りします!」
部費を出してくれるのかと期待した俺がバカだった。そして俺にヴィーナスになれだと? まず性別が違うし、腕を切り離さなければならないではないか!
「ちぇっ、せっかく用意したのに……」
なんて良いながら先輩はあるアイテムをロッカーの中にしまった。そのアイテムの名は『セメダイン』だ。
・・・破天荒先輩め。
「ヴィーナスの件は無しと言う方向で話を進めますが、本当は何がしたいんです?」
「う〜ん、絵を描こう!」
簡単に決めるね……。
「もちろんモデルは竜ちゃんね」
「えー。嫌ですよ」
なんて言いながらもまんざらでは無い顔の俺。そのまま少しニヤニヤしていると、凛先輩が不可解な行動に出る。
「……なにやってんすか先輩」
「なにって……。こういう場合はヌードが基本じゃない?」
いや、初耳です。
先輩は俺のシャツのボタンを外すところだった。危なかったぁ。と安堵の息をついた瞬間、
「ふふ、観念せぃ」
バッ!
【竜也はシャツをひっぺがされた】
「うわっ、服返して下さいよ!」
思わずRPG風のナレーションをつけてしまった辺りに驚いたが、俺は最優先すべきシャツの奪回を試みる。
「きゃ〜、変態が私を襲おうとしてる♪」
「デカい声で人聞きの悪いこと言わないで下さい!」
部室の外に誰もいませんように……。いたら我が破滅はもはや目前。それだけは嫌なので俺は通常の三倍速になり、一瞬の隙をついてシャツを取り返した。
「あぁ〜、角も無いし赤くも無いのに三倍速になったー!」
一応的確な突っ込みをする先輩をよそに、俺はシャツを着た。お帰り、マイシャツ。
「竜ちゃん、どうしても嫌なの?」
「当たり前です」
今の俺は並大抵の事ではこの意志を変えんぞ。
すると凛先輩はそう、と一言だけ呟くとうつむき始めた。こういう行動、こちら側は別に悪く無いのだが罪悪感に見舞われる。だがここで折れるわけにはいかない。
「じゃあ私が脱ぐね」
「……はい? 今なんて言いました?」
「だから竜ちゃんがモデルになってくれないなら私がやるしか無いでしょ? だからよ」
なんかおかしくね? その理由。つーかそもそもヌードから離れてデッサンしないのか!?
なんて考えていると、凛先輩の真っ白な手わスカートのファスナーへと伸びて行く。
「ちょ、待って下さいよ!」
俺は凛先輩の腕を軽く掴んだ。……なんか惜しいことをした気がしなくもないのは何故なんだろう。世の男性の夢を破壊した、そんな気分でもある。不思議だね。
まぁ先輩の行動を阻止したんだから良しとするか。すると先輩は、
「冗談はこれくらいにしよっか」
と言ってファスナーから手を離した。それを確認した後俺も手を解放した。
てか冗談ならやらないでほしい……。
「はぁ、部活はなにをやるかって話が一向に進んでないんですが、もしかしてこのまま解散ですか?」
「このまま解散したら私の威厳が無いじゃない? だから……」
凛先輩に威厳なんて大層なものは無いだろうと目を瞑って考えていると、なにやらまた上着に違和感が。まさかと思って目を開けた瞬間、
「一緒にヌードデッサンしよ〜♪」
また上着を脱がされた。しかも何故か凛先輩はブラウスのボタンを2、3個外して、『胸の白い悪魔』を覗かせている。くっ、胸の白い奴はバケモノか!?
この状態ではナレーターも出来やしないので、軽くぶってでも取り返してやる!
そう思って前進した時、なんの因果か足がもつれて倒れこんだ。
「キャッ、もう、その気だったの?」
「違いますよ! 誤解招く言い方止めて下さい!」
つーか今の状況、半裸の俺がブラウスのボタンを開けている凛先輩を押し倒している状況にしか見えない。幸いにも今日は他の部員は来てないので目撃者は誰もいないから助かった。そう思って体をどけようとした時、ドアと窓がフル稼働して、
「お兄ちゃん救出作せ〜…ん」
「竜兄……なにやってんの!」
綾乃と瑠奈が飛び込んで来た。そして体をどかす前のこの状態を見た。もうばっちりと網膜に焼き付けているはず。実にヤバい。特に瑠奈が。
綾乃はこちらを指差して口をパクパクさせているが、瑠奈はワナワナしている。『殺る気』だ。俺は急遽立ち上がって両手で今の出来事を否定する。
「待て、誤解だ!」
「沙蚕は釣りのエサァ!」
あぁ、あのウネウネした気持ち悪い奴か。……誰が上手いことを言えと言った。俺が必死に弁解している中、凛先輩が火に油を注いだ。
「竜ちゃんがいきなりのしかかって……」
「本当なのお兄ちゃん!?」
我に帰った綾乃が俺の腕を掴んで体を揺する。瑠奈は俺の頭を掴んで脳しんとうを起こすべく揺らす。
「お兄ちゃんは私のものなのー」
「いいえ、私の玩具よ!」
「竜兄は誰のでもな〜い!」
俺を囲みながら言い争う三人。ただ疑問が一つ。俺はそれを大声で叫ぶ。
「俺の人権を返せー!」