第8話:キング・オブ・変人登場
今は4時限目の最中である。
俺はいつものように起床し、いつものように飯を食らい、いつものように出掛けた。なのに平和に学園生活は送れず、気分は最悪だ。その理由を紹介しようと思う。
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「いっつも屋上で食べてるからさ、たまには食堂で食べよ♪」
昼休み開始のチャイムがなる前に、綾乃がベランダから言って来た。いろいろと突っ込みどころは満載だ。
「ああ、それは別に構わないぞ。だが綾乃、授業はどうした? そしてなぜベランダから登場する?」
「授業は瑠奈姉が手帳を使って中止にして、ベランダから登場したのは近道だからだよ♪」
ふ、ふ〜ん。
どうやら綾乃も瑠奈と似たような行動をとるようになってきたようだな。つまり、俺にとっては最悪なパターンなわけだが。
とりあえず俺は綾乃を我が教室の中に入れ、二人で食堂へ向かった。
「竜也ってさ、超シスコンじゃね?」
妹絡みになると異常なまでの聴覚を持つ俺は一瞬で教室に戻り、変な発言をしたクラスメートBの頭に肘打ちをぶち込んだ。
「クラスメートBよ。俺はシスコンじゃない。奴らが超ブラコンなだけだ」
白目になって崩れゆくBを指差しながら言う。気分が少し晴れたので綾乃のところまで一瞬で戻り、再び食堂へ向かい始めた。
「どこ行ってたの?」
「ちょっと忘れ物をしてな」
「ふ〜ん。綾乃、超ブラコンじゃないよ」
いや、いつもくっついてくる奴はブラコン以外の何者でもないぞ。
「スーパーだもん」
・・・。英語に直しただけかよ。ブラコンを否定しろよ!
なんて心の叫びを全く聞かない綾乃は、階段をピョンピョン跳ねて降りて行った。
「ちょっと待てー」
俺は一段抜かしで階段を降りた。食堂に着くと、既に食料強奪戦争は終結していた。が、床には無残にも死体(生徒)が数人転がっており、今までなにが起きていたのかを良く感じさせてくれる。迷わず成仏してくれ……。
「竜兄、綾乃、こっちだよぉ〜」
俺と綾乃は、瑠奈が呼ぶ席に座った。ポジションはいつものように俺が二人の真正面。
「でも弁当を食堂で食うなんて、なんか微妙だな」
「場の雰囲気を変えようってね♪」
てね♪ と言われても、反応に困る。でも中と外じゃあ確かに雰囲気は変わるな。俺的には外のほうが気持ち良いが。
「んじゃ昼飯食うか」
「そうしよ〜」
俺の発言、待ってましたと言わんばかりに綾乃が弁当を取り出した。それに続いて俺と瑠奈もそれぞれのカバンから弁当を出す。
・・・。なんか嫌なデジャヴが蘇る。
「お兄ちゃんのお弁当の中身は?」
「これだ」
弁当を持ち上げて傾け、二人に見せる。
「卵焼きもらって良い?」
「良いぞ」
綾乃から箸が伸びて来て、俺の弁当から卵焼きを拉致する。それを見た瑠奈も、
「じゃあ私これっ」
「あ! それは俺の好物なのに」
俺の好物であるサバの煮付け。奪還しようと箸を取り出した時にはもう遅く、煮付けは瑠奈の口へと消えていった……。
煮付けを食われたショックで放心状態になっていると、自分の弁当そっちのけで食べていく綾乃と瑠奈。やっとショックから立ち直ると、俺の弁当は6割ほど食べられた。
余っていたのはご飯のみ。ふりかけをかけていたのに、綺麗に表面だけ食べられて白いご飯がのぞいている。
「お前らさぁ、もうちょっと兄をいたわってくれ」
「へ? お兄ちゃん、いたぶられたいの?」
「……M。変態」
・・・変態はお前だ瑠奈ぁ!
「『いたわる』だ『いたわる』。『いたぶる』じゃない」
「へぇ〜」
少々下品に箸をくわえたままの綾乃が深く頷く。お前本当にそう聞こえていたのか。将来が不安だ。
「変兄、なにか飲み物買って来てー」
「分かった。が、変兄は止めろ」
俺は財布を後ろポケットに入れて立ち上がり、食堂の外にある自動販売機へ歩き出した。ちなみに変兄は、変態兄さんの略のはず。ふざけやがって。
自動販売機の前に立ち、3本お茶を買った時、
「竜ちゃ〜ん!」
首に華麗なるフライングクロスチョップを叩き込まれ、少し黄泉の国を垣間見た。
「なにすんですか凛先輩!」
初登場がフライングクロスチョップとは……。
「フフ、だって竜ちゃんに最近会えなかったんだもの♪」
そう、この人こそ俺が美術部を辞めたい最大の理由。髪は腰あたりまで伸びてるロングヘアーで、顔は確かに美人の部類に入る。それは認める。だが、ウルトラ変人。
「そんな、竜ちゃん! 才色兼備で容姿端麗で家庭的だなんてっ!」
凛先輩は自分で自分を抱きしめ、クネクネと器用に近づいてくる。てかそこまで誉めてないし。微妙にその動き気持ち悪いし。
とりあえずここに居ては身の破滅。自分の妄想世界に入ってしまっている先輩はほっておいて、俺は瑠奈たちが居る食堂へ再び入った。
「ほれ飲み物」
既に自分の弁当を完食して、話し合っている二人に渡す。
「なんか遅かったねお兄ちゃん」
「凛先輩に会っちまったからな」
「あぁ、キング オブ 変人の」
ほら、瑠奈に言われるほどの変人だ。
「まぁ逃げて来たから大丈夫なんだがな」
そう言って元の席に座る。
白いご飯しか残っていない弁当のふたを閉めてカバンにしまう。
「竜兄、今日は部活行くの?」
「凛先輩に見られた以上、いかねば社会的にヤバい。だから行くよ」
「……頑張ってね」
綾乃と瑠奈が本当に心配している顔で言ってきた。 それほどまでに要注意人物なのだ。
俺たちは気が重くなりながら食堂をあとにした。