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第5話:夜夜パニック

「いただきま〜す」


「どうぞ〜」


 綾乃がいただきますを言って、瑠奈がどうぞを言った。


 今、天宮家は夕食の時間。うちの家事分担は瑠奈が料理を担当して、俺は掃除に洗濯に買い出し、綾乃は俺のサポートと言ったところか。


 たまに俺と瑠奈の家事分担は逆になるが、それは後々のことだからほっておこう。


 それより重大なことが、俺の目に映っている。今日はボンカレーだよって綾乃が言って来たから、俺はそれを信じていた。それなのに…。


「なぁ瑠奈」


「ん? どうしたの?」


 俺と向き合うようにして座っている瑠奈は、スプーンを口から離しつつこちらを向いてきた。


「今、お前と綾乃が食べてるのはカレーだよな?」


「うん」


「コンロの上にあるのも、カレーだよな?」


「そうだよ」


 なんの疑問も持たなくて、全て即答で返す瑠奈。じゃあ、これならどうだ!


「では聞こう。なぜ俺の夕飯はキムチ鍋なのだ」


 俺は自分の真正面に置いてあり、グラグラと煮立っている鍋を指差した。が、指に湯気が当たった瞬間に手を引っ込める。


 あっつぅ!


 もはや湯気は一種の凶器と化していた。


「美味しそうだね、お兄ちゃん」


 隣でパクパク食べている綾乃が俺の肩をつつく。


「じゃあ食べてみろ」


「遠慮しまっす♪」


 なら口を挟むんじゃない。これは春、しかも限りなく夏に近い時期に鍋物を出す非常識な奴と話してるんだから。


 俺は綾乃のおでこに軽くデコピンをしてから、瑠奈のほうに向き直した。


「竜兄、キムチ鍋は美味しいんだよ?」


「それは知ってる。だが俺が聞きたいのはなぜ鍋物を作ったかだ」


「からかってみよ…じゃなくて、食材が悪くなってたからだよ」


 ・・・良く聞こえなかったが、コイツ今『からかって』って言わなかった? うーむ、空耳と信じよう。


「はぁ…。今こんな熱いのを食べたら死んでしまうから風呂入ってくる」


「お兄ちゃん。お風呂、関係なくない?」


 まぁな。だがそんな細かいことを気にしたら負けなんだぞ?


「料理冷めちゃうよ?」


「それが目的だ」


 というわけで、俺は自室から着替えと読みかけの小説を持って風呂場へ向かった。・・・幻聴か分からないが、『風呂場に本持ってくなんて!』って声が聞こえる。その問いに答えよう。


「妹たちがウルサくて本に集中出来ないんだよー!」


 俺が本を読み始めると必ず俺の部屋にどちらかがやって来て、CD貸せだのお前はもう死んでいるだの好き勝手なことを言って邪魔をする。あまつさえ俺の布団に潜り込んで爆睡したりしやがる。綾乃だけだが。


さて、そんなことを説明してるうちに風呂場に着いた。


 実は夕食後に風呂へ入る予定だったため、もう焚き終わっている。そして俺は既に服を脱いでおり、もう湯船に浸かっている。


「あぁ…。体の芯まで癒やされるー」


 我ながら爺臭くなったなと思いながら、読みかけの本を読み始めた。


―――――――

―――――

―――


 本を読み始めてから30分ほど経った。体も髪も洗って綺麗にし、今まさに立ち上がろうとした。


「お兄ちゃ〜ん、入って良い〜?」


 扉越しから聞こえてくる声を聞くと、俺はヒンズースクワットをするが如く腰を落とし、湯船へ再び浸かる。


「な、何しに来た!」


「え? 前みたいに背中流し合いたいなぁって」


 前って言うな、昔といえ! しかもそれは幼稚園の時くらいの話だぞ。


「綾乃ももう高一なんだから、一人で入りな」


「む〜、分かったよぅ」


「それと、む〜は止めろ」


「めぇ〜」


「……もう良いや」


 止めろって言って『めぇ〜』って返って来たのは初めてだ。我が妹ながら意味分からない奴だな。


「とにかく脱衣場から出ていってくれ。着替えられん」


「ほ〜い」


 綾乃は意外と素直に脱衣場を後にした。なので俺はすかさず風呂から出て服を着、キッチンに向かった。


「次入って良いぞー」


 濡れたままの髪をタオルで拭きながら2人に伝える。すると瑠奈が入ることに。

「私が上がってくるまでにキムチ鍋を食べ終わっててね♪」


 ちっ、覚えてやがったか。


「前向きに善処してみるさ」


 俺はとりあえず流しながら返事をし、再び鍋と向き合うように座った。30分経ったおかげか、やっと食べられるような温度だ。


 少しずつ食べていくとすぐ腹が膨れるし、辛さに耐えられないだろう。だから俺はあまり間隔をおかずに食べる道を選んだ。


「やぁってやるぜ!」

 ・・・。


『しばらくお待ち下さい』


 ――15分後――


「し、死ぬかと思った…」


 額から出てくる大粒の汗を拭いながら、完食して空になった鍋を洗っている。


 キムチ鍋とかいいながら、タバスコやらハバネロやらめちゃくちゃ辛いものの味がした。並の人間ならばあまりの辛さにショック死するくらいだったし。


「ふわぁ〜、お兄ちゃん良く食べたね」


「食べ物は粗末に出来んしな」


 舌と唇の感覚が麻痺しながらなんとか洗い物を終わらせ、綾乃と一緒にリビングへ。


 ソファーに腰掛けてTVを付けると、青い猫型ロボットが出てくる番組が目に入った。


「声が変わってるぅぅぅ!」


「み、耳元で騒ぐな…」


 てか今頃気づいたのかお前。毎週見てたじゃないか。


 確かに声が変わった時にはかなり驚いた。海斗もこんなの偽物だ! なんて騒いでたしな。


「そういえばお兄ちゃん」

「ん? どした」


「このロボットって世界を滅ぼせるんだよね?」


「……あぁ」


 いつの話か忘れたがネズミが出た時に核ミサイルを取り出して、地球もろとも滅ぼそうとしたことがあった。中古のくせに核ミサイルを持っているなんて……。


 他にも空気を圧縮してから放出する砲、気配を消せて目に見えなくする帽子、空間を超えるドア。


 全て完全犯罪を引き起こせる代物だ。2112年からの地球は大変だろうな。


さて、綾乃がTVに集中していて、瑠奈が風呂に入っていると言うことは、俺は自由。フリーだ。なのでサッサと布団に潜り込んで寝るしかあるまい。そう思ってソファーから立ち上がった時、


「竜兄どこいくの?」


 瑠奈が帰って来やがった……。つーか、


「……なんだその格好は」


 瑠奈はホコホコと暖かそうな湯気を立ち上げながら、バスタオル1枚だけで体を包んでいた。


「え? ちょっとのぼせちゃったから」


「……風邪ひかないようにな」


 なるべく瑠奈を見ないようにして注意した。くっ、ここにいると死んでしまう!


 逃げよ。俺は回れ右をして、ここから立ち去ろうとした。すると瑠奈が俺の前に立ちはだかり……―――――。


 ハラリとバスタオルを床に落としやがった! 俺は瞬間的に目を瞑った。


「は、早く何か着ろ!」


「竜兄の……えっち」



 瑠奈は顔を赤らめて言った。はず。


 え、確認しろって? んなこと出来るかぁ! 俺が慌てて瑠奈に背を向けると、


「な〜んてね♪ 竜兄、こっち見てみて」


「い、いやそういう訳には」


「いいから♪」


 瑠奈は後ろから俺の頭を掴み、ほぼ180度回転させた。痛い・・・。そうして首が戻らなくなったとき、俺の目には水着を着た瑠奈の姿が映った。


「なんだ、水着着てたのか…」


「期待はずれだったでしょ〜」


 俺の頬は瑠奈にプニプニ突っつかれて遊ばれ始めた。


「竜兄は本当に面白いねぇ」

 ・・・このまま終わると思うなよ。というわけで、次回は竜也の逆襲編じゃあ! ま、単なるイタズラなんだけどね…。

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