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第4話:女の涙は最終兵器?

「お〜い、起きろ〜」


「うぐ…。海斗か。ここは…?」


「保健室だ。綾乃ちゃんと瑠奈ちゃんがお前を抱えてきてな、大変だったんだぞ」


「なんだ、気絶してたように眠ってたのか」


「いや、正真正銘の気絶だった」


「……」


 そうか、俺は昼飯を食べて倒れたんだったな。はぁ、酷い目にあった。口の中が苦いし…。同じ材料を使って、どうやったらあんなDEATH弁当を作れるのかが不思議でならない。

 俺は未だにクラクラする頭を我慢してベッドから下りた。


「ところで今何時?」


「竜也は3時間ほど気絶してたから、今は4時半だな」


 4時半か。今から部活行ってもしゃあないし、今日は真っ直ぐ帰るとするか。


「んじゃ俺帰るよ」


「分かった。気ぃつけて帰れよ竜也」


「お前もな〜」


 海斗と一緒に保健室を出て、それから別れた。


 俺は今美術部に在籍してるんだけど、正直もう辞めたくて仕方がない。美術が嫌い、ってことはない。むしろ芸術作品を見に行くことはかなり好きだ。俺が辞めたい理由、それは後々語られる日が来るだろう。ま、“ある先輩”のせいだと言っておくよ。



 俺は自分の教室からカバンを取って帰宅する。さて、ここからが最大の難関所だ。


 帰宅部所属の綾乃と瑠奈。今の俺にはコイツ等と一緒に帰って、突っ込みを全て入れられる自信は無い。例えていうならば、MPが無くなった魔法使いに『あいつと肉弾戦して来て』と懇願するようなものだ。あまりにも酷である。


 だから俺はあの二人とエンカウントしないように裏門から家に帰るのさ。007の動きを思い出しながら、俺は忍び足で裏門の近くまで歩いて行った。門さえ突破すれば、あとは警戒を解いても大丈夫だ。


 ………よし! 門突破!


「何喜んでるの?」


「竜兄、頭……大丈夫?」


 ・・・。ふ、ふふ、今聞こえた声はきっと幻聴だ。我が妹たちに似てる顔の人が門の横に居るが、きっと人違いだ。うん、きっとそうだ。そうに違いない。


「瑠奈姉、お兄ちゃんどうしたのかな?」


「さぁ…。とにかく、帰るよ竜兄! この足フェ」


「シャラーップ!」


 はっ! 突っ込んでしまった……。ったく、瑠奈は俺をいじめて何が楽しいんだか。


「瑠奈姉、その足フェ…ってなんなの?」

「あぁそれはね、竜兄が…」


「綾乃、お前にはまだ早い」


 俺は瑠奈の言葉を遮るように言葉を発した。これ以上こいつの口を開かせると犯罪者になりかねない。



「それはそうと、何故俺が裏門に来ると分かった?」


「「女の勘よ♪」」


 さいですか・・・。


 見つかったもんは仕方ない。帰るとするか。


 この学校の周りには食べ物関係の店などが結構並んでいる。女の子が友達とケーキを食べに行ったり、野郎共が大食い勝負をふっかけにいったり、可愛いウエイトレスと格好いいウェイターがいると評判になっている店もあったりする。


 どの店も商売繁盛しているからか、よくセール期間になったりしてより客を得ようとする働きも見受けられる。


 俺は甘いものはあまり好きじゃないからカツ丼とか牛丼のほうに惹かれるのだがここら辺の店、特にケーキ関係の店の前を通ると、ある奴が騒ぎ始める。


「ねっねっ、竜兄、ここ入ろ?」


 そう、瑠奈だ。


「我慢しろ。綾乃だって我慢してるんだ。なぁ、綾乃」


 後ろにいる綾乃の方を向く。


「ひゃぁ〜…」


 ・・・。


 ダメだ。何にも発言しないから我慢してるかと思いきや、思いっきりキラキラした目で店を見てるよ…。


「綾乃、よだれ少し出てるよ」


「あっ、ごめんね瑠奈姉」


「……どこで拭いてやがる綾乃」


「ふぇ?」


 こいつ俺のシャツで拭きやがった。洗い立てなのに。しかもふぇ? ってなんだよ。いかにも当然のような声を上げてんじゃねぇ!


「ねぇ竜兄、多数決で2対1だし入ろうよ」


「各自自腹なら良いぞ」


「えぇ〜、お兄ちゃんのケチッ!」


「ケチ言うなっ!」


 以前コイツらは俺の奢りだと決まると、手のひらをかえすようにバカスカ食った。しかも友人まで呼んで更に食いやがった。店の人は笑ってるか呆れてるか同情の目で俺を見てきた。つらかったなぁ…。


 しかも、出費は安くありませんでしたよ。計1万突破したからな。まさか喫茶店で1万突破するとは夢にも思わなかったさ。それ以来、俺はコイツらにあまり奢っていない。


「じゃあ良いよ自腹でも。それより早く入ろっ♪」


「分かったよ」


 お、珍しく俺の考えをすんなりと受け入れてくれたな。明日、空から槍降ってくるんじゃないか?


「竜兄、槍がどうかした?」


「よし綾乃! 早く中に入ろう」


 俺は瑠奈の言葉を強制的に聞かなかったことにし、綾乃の背中を押しながら店へと入っていった。


 心を読めるほどに成長したとは…。明鏡止水、早く会得しないと!




「おぉ〜」

「へぇ〜」

「ほぉ〜」


 『リニューアルオープン!』とでかでかと書かれていたから入ったのだが、中は白を基本とした、清楚なイメージで作られていた。


 インテリアに使われているものも決して安くはないだろう品を使っている。客はやはり中高生を中心とした女性で埋め尽くされていた。


 とりあえず店の雰囲気に驚きつつも窓際の席にカバンを置く。


「ふぅ、なかなか良い感じの店だな」


「評判良い店だしね」


「じゃ私たちはさっそく♪」


 荷物を置くと綾乃と瑠奈はケーキの方へまっしぐらに走っていった。なんで女の子って甘いの好きなんだろう?

 俺は特に食べたいものは無いのだが、何も食べないというのも気が引ける。幸いこの店はバイキング形式なので、一番安いケーキとコーヒーだけ選んで元の席に戻った。


 すぐ近くに置いてある観葉植物をぼーっと眺めてると、瑠奈たちがショートやらレアチーズやらモンブランやらを皿いっぱいに乗っけて持って来た。


「良く食べるねぇ…」


「お兄ちゃんはそれだけ?」


「貧困人ねぇ」


「うるせぇ」

 本当は入りたくなかったんだから仕方ないだろう。


「まぁ良い。食べるとするか」


「そうだね♪」


 ミニフォークで端っこを切り、口の中へと運んでいく。


「おっ……」


 これは…。


「このケーキも凄いけど、綾乃の可愛さにはほど遠いわね♪」


「甘〜い♪」


 ・・・普通に美味しいと言え。スピードワゴ○風に言われても反応に困る。


 まぁ確かにこのケーキ、今まで食べてきた中でもトップクラスの美味しさだ。クリームとスポンジの相性も抜群。まぁケーキには詳しくないからあんまり上手く言えないけど、とにかく旨い。


 俺は1個だけと言うのもあってすぐに食べ終わり、コーヒーを飲んでいる。このコーヒーも香りが良く…ってこんなことを話していてもつまらないだろうから、省くね。


 瑠奈と綾乃が話しながら食べているので、俺はケータイを見ながら暇つぶしをしている。そんな時間が30分ほど過ぎた辺りで、


「「美味しかった♪」」


 瑠奈と綾乃が食べ終わった。


「さて、それじゃ会計に行くか」


 ケータイをしまって、各自に荷物を渡しながら立ち上がった。瑠奈たちも笑顔になって立ち上がる。そして今はレジの前。


 30分500円のバイキングだったのだが、選ぶ時間などで45分くらいはここにいたことになる。だから合計は、


「合計で3000円になります」


「んじゃ、各自払えよ」


「よろしくねぇ、竜兄」


「よろしく〜」


 店員に俺の分の1000円を渡したところで腕を止めた。よろしく?よろしくってことは俺が金を払うってことだよな。


「自腹って約束じゃなかったか?」


「今お金ないの…」


「だからお兄ちゃ〜ん、お願いっ」

 金が無い。ならばそれが分かっていながらこの店に入ったってことか?


「あのなぁ、これは約そ…」


「…ダメなの?」


 ぐはぁっ!


 コイツら…。男にとって一番鋭利で一番殺傷力のある『女の涙』を使うとはっ!


 しかも状況を把握出来ていない店員からすれば『ある男が1000円ぽっちで女の子二人を泣かせた』と言うふうにしか映らない。実に最悪な展開だ。


「あぁもう分かったよ…」


 結局俺はレジの人に白い目で見られながら合計3000円を支払い、店の外に出た。俺の後ろには瑠奈、綾乃の順で店を出て来る。


 そして俺は、見てはいけないものを見てしまった。目薬を慌ててカバンにしまう綾乃と瑠奈の姿。


 ・・・毎度毎度いいかげんにしてくれぇ。

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