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第24話:天魔降伏闇鍋パーティー

また長期休載してしまい、待っていた読者の皆様(いるのかな…)には多大なご迷惑をおかけしてすいませんでした(汗


なにとぞこれからも応援よろしくお願いします♪

 さて、闇鍋というものは忘年会か新年会でやるものであり決して真夏のリゾートホテルでやるものではない。

 そんな一般常識を知ってるか分からない五人をまとめるのは俺だけであり、そんな事ができるならばどっかの国の大統領にでもなれる。

 ・・・個性豊かなメンバーは嬉しくもあるが、いろいろと精神的にくるものがあると非常に困るわけで。そしていままさに精神的攻撃をせんとばかりに海斗が厚さ十センチはあるであろうA4サイズの紙の束を渡してきたわけで。

 それを無言で受け取り、淡々と読み上げる。


「米倉正次、三十二歳、妻子あり。ピー県ピー市に住んでおり兄弟はおらず、不動産勤務であったがクビにあい……」


 俺は顔を押さえながら溜め息をついた。


「なぁ海斗」

「どうした、作者に名前を忘れられた愚かな男」


 俺の持っている紙より五倍は厚いものを瑠奈に渡そうとしていた海斗がクビだけ向いて返事した。


「ぬ……仕方ないだろお前らに比べてキャラ薄いんだから」

「ふふふ、世代交代が必要なようだな。とまぁ身内ネタはこれくらいにして、なんかようか?」


 ルール違反ギリギリなネタを切り上げてくれたやつに軽く感謝しながら、


「これは一般的に犯罪と言われるものでなかろうか」


 個人情報をこれ以上ないってくらい搾り取ったのは、もはや警察ではなく裁判所のお世話になるやもしれぬ。そんな危険な紙を、絶対に見せてはならない二人の女性の片割れがなにこれ、とばかりに覗き見る。

 阻止しようとした俺の努力虚しく、見てしまった女性は嫌な笑いを浮かべながら手帳を取り出す。


「ふんふん、全く関わりのない人だけどこの情報収集能力は使えるわね。海斗くん、これどうやったの?」

「え? あぁ詳しくはそこの人に聞いてくれると嬉しくかな」


 と、部屋の隅でちんまりとした机に違法改造を施したノートパソコンとプリンターを設置し、床には色とりどりなコードを散乱させている兄貴を指差した。

 その雰囲気、まさに真剣!

 俺はこめかみに青筋を浮かべながら優しく兄貴の肩に手を置いた。


「兄貴、いったい何してるんだ?」


 よくぞ聞いてくれた! とイスを吹き飛ばして立ち上がった兄貴は自信満々に言う。


「まずはだな、録音しておいた音声により逆探、さらに私が改造したパソコンと、海斗くんが提供してくれたデータをインストールするとあら不思議、がべっ!」


 ご丁寧に指まで立てて自慢していた兄貴の懐に入り、鳩尾にショートアッパーを叩き込んだ。悪、ここに散る。

 そして犯罪知識を身に付けようとする瑠奈と、犯罪知識を教えようとしている海斗をぶん殴った(瑠奈ははたいた)。


 すると、ベッドを移動させてだだっ広くした部屋の中央で鍋をぐらぐら煮ている凛先輩と、その横で調味料を握っている綾乃から死の宣告、もといご飯を知らせる言葉をいただいた。


「竜ちゃ〜ん、皆ーできたよー。といっても基本的な味付けだけど」


 魔界から復活した兄貴と俺と瑠奈、そして海斗が鍋を取り囲むように座り、皆で一点を見つめた。


「? なに、お兄ちゃんも瑠奈姉も」


 皆の視線の先、そこには首を傾げる綾乃の姿。


「まさかとは思いますが凛先輩、」

「味付けは綾乃に任せてないですよね……?」


 以心伝心、瑠奈と見事なまでのタイミングで尋ねる。凛先輩はあはは、と手を左右に振りながらそれを否定した。


「そんなことしないよぉ、私だってまだ死にたくないし」


 くったくの無い笑顔で残酷なことを言い放った凛先輩。調味料を持った死神は相変わらずクエスチョンを頭の上に浮かばせながらやりとりを見ていた。

 安堵のため息をつくと、すっくと立ち上がった兄貴。手にはどこから取り出したのかマイクが握られている。音頭をとるらしいな。


「ウェッホンゴホゴホ、ゲホゲホ、ハクション!」


 ・・・なげーよ咳払い。しかも最後のはくしゃみだし。


「えーそれでは第一回、“生き残るのは誰!? 天魔降伏、疾風迅雷、闇鍋パーティー”を開催するっ!!」


 キィィーン、とマイク独特の音を響かせながら、今まさに闇鍋大会が始まった。

 満足したのかほい、と隣にいる海斗にマイクを渡す兄貴。


「それではルールを説明するっ! ルールは簡単、皆が持ち込みあった食材を食べるというなんら変わらない闇鍋ではあるが、二つほど我々の命運を左右する出来事が待っている」


 次にマイクは時代外れな割烹着が何気に似合っている凛先輩に渡された。


「一つは言うまでもなく分かってるわね、料理界のクラッシャーこと綾乃ちゃんよ」


 ビシッと指差す先で綾乃はえへへー、と笑っている。結構ストレートに味オンチと言ったはずなのだが、それに気づかないあたり天然というかなんというか。


「そしてもう一つ! 闇鍋という魅力はなにか! 何が入ってるか分からない緊張感? 食べた時の吐き気? そう、それらも確かに魅力的ね。でも最大の魅力は読んで字のごとく、闇よ!!」


 勢い良く立ち上がった凛先輩は天井にある丸い蛍光灯の電源を消すように海斗と兄貴に言った。

 二人は部屋の隅に移動し、部屋は闇に包まれた。幸いか不幸か、昼には晴れていたのに夜は月が雲によって阻まれ、唯一の光であった蛍光灯を消した今は自分の手すら見えない。凛先輩のテンションが上がっていく声が聞こえる。

 瑠奈と綾乃の、『ねぇ、もしかしたら竜兄を襲えるんじゃない?』なんていう危なっかしいセリフは聞かなかったことにする。


「この闇を利用しない手はないわ。食材を全て入れて、綾乃ちゃんの食材を最初に食べた者は罰ゲーム。食べてない他の人は食べた人に対し闇に紛れ殴るもよし、交配するもよし、つまりなんでもありってわけ!」


 『おぉぉおー!』と喜びに震えガッツポーズをしているに違いない兄貴と海斗、『思わぬ形で夢が叶うかもしれない』とはしゃぐ妹ズのボルテージは際限なく上がっていく。

 綾乃の食材だけで既に罰ゲームな気がしなくもないが、そしてなんとなく俺に不利な気もするが、俺はそれに乗ることにした。


―――――――

―――――

―――


 さて、俺を覗く全ての者が食材を入れ終わった。食材を鍋に入れていく音をダイジェストで伝えると、海斗はパラパラ、兄貴はねとー、凛先輩はにゅるりんぽんっ、瑠奈はドボドボ、綾乃はコポコポ、である。二つほど不可解な音があったが、自分も食うのでそこまで変なものは入れていないだろう。

 部屋には特殊な臭いが満ち溢れ、気を抜くと黄泉へ旅立ってしまうほど。


「おら竜也、早く入れやがれ」

「うむ、我が弟ながら愚鈍である」

「これ以上変な音たてたら承知しないからね竜兄」


 と急かすような言葉を背後に、俺は輪切りにしたネギとイチョウ切りにした人参というなんのひねりもない食材。

 ・・・つまんねぇ主人公め、なんて突っ込みは禁止!


「全員入れたわね? じゃあ鍋に手を突っ込まないように順番にお椀によそって食べること」


 司令官のように指示を出す凛先輩。ちなみに順番は海斗、兄貴、俺、綾乃、凛先輩、瑠奈の順。少々理不尽である。

 最初に食べた者が罰ゲームならば、後に食べるほうががぜん有利である。そして真ん中という一番危険な位置にいる俺は当たる確率がかなり高いわけで。

 するといつの間にか自分のお椀によそっていた海斗は、


「えーい、ままよ!」


 と掛け声一発、ずずずと咀嚼していく。そして五秒後、


「う……なんか納得をビール漬けにしたような味がする」


 と、綾乃の食材は食べていないことをアピール。綾乃のだったら言葉をはけるような余裕はない、あれはまさに非の打ち所がない完璧な兵器なのだから。

 そして兄貴。


「我が胃袋に敗北はないっ!」


 もりもり咀嚼し、ごっくんと音を立てて飲み込む。


「ふ……我、難関を突破せり」


 と息も絶え絶えに言った。

 そうして俺の番。俺の今までの経験上、百パーセントの確率で俺に当たる。普段はアイスの当たり券すら拝んだことないのに、こういう場合は百発百中で当てる。

 真っ暗闇の中、手探りで鍋のお玉を握って自分のお椀に注ぐ。


「さぁ竜兄、一気にぐいーっと! その後は……えへへ」

「お兄ちゃん頑張れ〜」

「ふふ、楽しみ楽しみ♪」


 食材を食べていない女性陣は余裕の現れか、俺に不安を煽る。


「ふぅ……俺の人生短かったなぁ」


 嘆きながら口に食材を流し込む。


「!? これ、俺の食材……ってぶぉ!」


 ネギと人参というひねりの無い食材が当たったというのに、俺が綾乃のやつを食べると予想してた凛先輩と瑠奈はすかさず猛然とタックルして来やがった。


「くっ、俺は食べてないぞ綾乃の食材!」

「「えぇ!?」」


 仰向けに倒された俺は、腹と肩にある四つの柔らかい感触に理性を奪われないよう必死にもがく。凛先輩と瑠奈は余裕が外れたことに驚いていたがやがて含み笑いをし始めた。

 いまいちルールを把握仕切れていない綾乃が一人で食材を食べて倒れる音がしたあと、牙を剥き始めた瑠奈と凛先輩は、俺の両手足を器用に押さえ込む。


「先輩、いまは共闘しましょう」

「あら、私もいまそれを言おうとしてたとこよ」


 フフフのフ、と微笑んでいるであろう二人の姿が容易に想像出来た俺は、今から何をされるのだろうと不安に思いながらも、どうやって部屋内で鍋が出来たんだろうというどうでも良いことを考えていた。


「人生楽あれば苦あり。俺の楽はいつ来るのでしょうか……」


 呟くと同時に、俺の上着があっという間になくなったことは言うまでもない。

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