第23話:犯罪VS犯罪
朝飯を食う。女性陣は昨日遅くまで起きていたのか、真っ昼間の今も起きてこない。仕方がないので俺を含む男性陣は各ベッドの上でぐーたらしていたり。
「なぁ竜也ー」
「あんだー」
「地球滅びねーかなぁ」
いきなりダークネスな会話だな。
しかも天井を虚ろな目で見ているあたり嘘とも言い切れないのが怖い。
「どうした急に」
「いやな、せっかく海と山に来たのに部屋にいて男とすし詰めだし竜也はキモいし臭いし……」
「よし、そのまま死ね」
ベランダを指差し、飛び降りを促す。俺は臭くない! さっき風呂に入ったわ!
そんな馬鹿なやりとりをしていると、『瞑想!』なんて言いながら座禅組んで寝ている兄貴の携帯が鳴った。
「兄貴ー、電話」
携帯を放り投げ、キラリンのオープニングテーマが流れる携帯を放り投げた。うん、逆パカしたい。
携帯が弧を描いて落下しベッドに一度バウンドした瞬間、兄貴は起動したてのロボットのように目を開け放ち拾いざまに通話ボタンを押した。
素晴らしい速さだ、十点! だがそれがムカつくから−十点。
「あーもしもし、私は僕であり我なのだが」
意味分からん。
「…………おい愚弟」
「なんだ」
「『俺俺、実は今脱線事故にあってさ、モンゴルに帰れないんだよね』って電話なのだが、思い当たる人物いるか?」
懐かしいな俺俺詐欺。
つーか脱線事故とかいう重い話を持ちかけて同情をはかろうとしてるのだろうが、その規模の事故はニュースになる。そして今はそんなニュースはないので、詐欺けってーい。
「海斗、兄貴とタッグ組んで詐欺師をなんとかしろ」
「ためして合点でぃ!」
『ためして』は要らない。そしてなぜ時代劇ノリ・・・。
海斗は受話器を挟むように兄貴とくっつき、おもむろに旅行バッグからノートパソコンを取り出して次々とコードを取り出して接続している。
赤とか黄色とか様々だが、市販では見たこともないようなものまで。
兄貴は海斗の行動を見たら気色悪い歯を惜しげもなく見せて笑い、
「あー君君、そんなことしてると地獄に行ってる親が悲しむぞ?」
と説得じみたことを言い始めた。確かに悲しむだろうが、勝手に相手の親を殺して地獄送りにしてる兄貴も酷いもんである。
まぁとにかく兄貴は詐欺師と十分ほど話し続け、海斗はPCのデスクトップに『完了』の文字が出てから兄貴に見せた。
「君と話したことは楽しかった、だがお別れのようだ。せいぜい余命を楽しむがいい」
物騒なことを言って電源を切った。
海斗はコードを乱雑に取り外しながら手慣れた手つきでまとめ、兄貴にノートパソコンを渡した。
すると兄貴は目にも止まらぬ速さでキーボードを打ち始めていく。
「……なにしてんの?」
海斗が答える。
「今の声紋をPC内部に記録し、〜(省略)〜さらに今受信した電波をもとに〜(中略)〜自作改良型逆探知機を組み合わせ〜(大略)〜・・・云々・・・」
なにを言っているのか分からないことが分かりました。
「もうちょい簡単で明瞭に、親切かつ丁寧にかいつまんで教えてくれ」
「・・・ずいぶん優しく言ってほしいんだな」
すると兄貴がカタカタやりながらこっちは見ずに答える。
「まぁなんだ、今の奴の住所特定と動かぬ証拠、家族構成から友人知人に至るまで調べ上げるんだ。あとは履歴か」
・・・。
それも犯罪っ!
んー、でも詐欺をする奴も悪いしな。自業自得として納得してもらうよりあるまい。
そいつ以外に迷惑がかかるようなら全力で阻止しなければならんが。
「クックック、楽しくなってきたな海斗君」
「八つ当たりもかねてせいぜいいたぶりますかね、フェッフェッフェ」
危ない奴らめ。
このまま俺も同じ部屋にいたら汚染されるので、一階にある土産屋まで足を運ぶ。
途中瑠奈たちの部屋もノックしたが返事は無かったのでまだ寝てる可能性もある。寝る子は育つっていうけど、悪知恵ばかり発達しましたよ妹たちは……。
様々な人がリラックスをしている空間に出て、キーホルダー類を見ていると女性陣に会った。
「あれ、寝てなかったの?」
「ついさっきご飯食べてきたとこだよ。ところでなにしてんの竜兄」
「見て分からんのか、キーホルダーを見ている」
瑠奈の後ろで凛先輩と綾乃が若干暗い雰囲気であるが、どしたんだ? 食中毒だったら嬉……悲しいな。
「どしたんだ二人とも」
「あお兄ちゃん。あのね、私と凛先輩は夢を見たの」
「私が跪く竜ちゃんの頭をハイヒールで踏みつける夢で、綾乃ちゃんが竜ちゃんを食べる夢見たの」
勝手にそんないかがわしい夢見ないで下さい。
俺は少しでも心配してしまった自分自身を罵倒しながら、女性陣のあとをついてくことに。なんか買い物したいらしいから荷物持ちってとこだけどね。
まず最初についたのは極々一般的なスーパー。俺らが住んでる街よりは比較的安く仕入れることが出来るらしい。
そんな中凛先輩が言い放つ。
「竜ちゃん、闇鍋しない?」
「闇鍋っすか?」
既に両手いっぱいに野菜とか肉をぶら下げている状態で聞き返す。後ろにいる綾乃と瑠奈は闇鍋という言葉の響きだけで心ときめいている、それだけに不安が募る。
「まぁいいですけど、食べられるもの入れて下さいよ? それと、『もう食べらんない』なんて逃げるのも無しなら」
「交渉せいりつ〜。あ、他の男子にも言っておいてね♪」
「お兄ちゃん、お金お金♪」
「竜兄、有り金有り金♪」
結局俺の金か・・・。さて、俺はなにを買いますかねぇ。
てかスーパーの袋を持ちながらホテルに戻んのか? ちょっと気が引ける・・・。まいっか。