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第22話:肝試し、腕試し

 生け贄になった海斗を全力でボコボコにしてから数時間。夜は静まり返る丑三つ時。


 俺たち六人は懐中電灯を片手に山へ向かって歩いていた。そう、夏休み恒例肝試しである。

 そもそも肝試しが世に広まったのは……、


「はーい、要らない説明しないの」

「いや伝統を伝えるのは大事だぞ?」


 瑠奈が読心術を使いながら俺に追いついてきて突っ込む。


 道無き道を開発するかのように邪魔な枝をへし折っていく海斗と兄貴。その後ろで俺が取りこぼしは無いか確認しながら歩き、女性陣はゆうゆうと付いてくる。

 ま、こういう仕事は男の役目だから仕方ないが……。


「ほらほら早くしなさいよ」

「頑張ってー」

「ハレルヤ君が火をふくわよ〜♪」


 好き勝手なことを言いまくる女性陣。てかさっきからハレルヤ君の先っちょが俺の腰に当たって痛いんだけど。


「ふぅ、やっと到着したな」

「うむ、さすが我が進路図。肝試しにはもってこいだな」


 先陣を切っていた兄貴と海斗が足を止め、暗闇の奥を眺めながら頷いている。

 ふむふむ、森と言えば森だが整理はされてないな。確かにかなり気合いが入った肝試しが出来そうだ。


「ね、ねぇ竜兄」

「どした?」

「お兄ちゃーん」

「綾乃までどうした」


 気のせいか、二人の顔は青ざめて引きつってすらいる。こんなことは珍しいな。


「あ、あれ……」

「ん? 看板?」


 瑠奈の震える指の先には、赤錆だらけの看板が横たわっていた。こう書いてある。


『自殺者多し、遭難者多し。気をつけろ、魔の手はすぐそこに』


 ・・・これか。

 柄にもなく瑠奈はへっぴり腰になり、綾乃に至っては軽く全身を強ばらせている。凛先輩はそんな二人を羨ましそうに見つめ、頭の上に懐中電灯を置いて光らせた。

 ウルトラクイズか。


「竜ちゃ〜ん、怖〜い♪」

「嘘つきは嫌いです」


 ♪って楽しそうに言ってたじゃないか。しかも顔はよからぬことを考えてそうな笑顔だし。


 抱きつくかのような凛先輩を片手で制していると海斗がなにかを発見した。


「こっ、これは!!」

「やだぁーーーなになになになに!?」


 綾乃がものすごい速さで、それこそどこまで遠くに行けば気が済むのかというほど遠くに行ってしまっていた。もちろん来た道を戻っただけなのだが。


 俺は瑠奈と凛先輩に迎えに行くよう頼み、海斗のもとに行く。兄貴は横たわっていた看板を縦に置き、正拳突きの練習をしている。わけわからん。


「どした、なに見つけた?」

「エロ本、しかも裏あべしっ!」


 殴ろうとしたら、遠くにいたはずの兄貴が一瞬で海斗の間合いに入って膝蹴りをかます。そして本を奪い取る。


「けしからん、けしからんぞ海斗君! このような素晴らし……やましい本は私が使わせ……処分する!」

「本音だだ漏れだぞ兄貴」


 兄貴からも奪い、雨風にさらされてぶわぶわになった本を思いっきり引き裂いてから遠くにぶん投げた。その後、兄貴と海斗が悲しみにより発狂し森の中へと走り去っていった。

 ま、肝試しのチーム分けが楽になったから良いけどね。


 そんなこんなで時間を潰していると、やっとこさ綾乃と瑠奈と凛先輩が戻ってきた。


「お兄ちゃん、海斗君が見つけた物って何だったのッ!?」


 未だ怖いのか、今すぐにでも逃げられるかのような体制になる綾乃と瑠奈。そして逃げられないように腕をロックしている凛先輩。


「あぁ、単なる本だよ。それより早く肝試ししよう」

「チームはどうするの?」

「えぇー! 皆で行こうよー!」

「そうだよそうだよ! この脚フェチ竜兄ー!」

「誰が脚フェチだ!」


 ずいぶんと懐かしい話を持ち出しやがって。

 四人で肝試しに行っても面白くもない。やっぱり二人一組だな、でも怖がり瑠奈と綾乃を同じチームにしたら、下手すると警察沙汰になりかねない。

 というわけで、


「瑠奈と綾乃、お前らは俺か凛先輩のどちらかを選んでもらう」

「竜兄!」

「お兄ちゃん!」


 うん、そう来ると思った。

 凛先輩は凛先輩で俺と行けないことがショックなのか、かなり落ち込んでる。


「話は最後まで聞け。話し合いでは埒があかないので凛先輩に選んでもらう」

「えーっと、私が一諸に行きたいのは竜ちゃ……。綾乃ちゃんで良いです、はい」


 昔取ったなんとやら、睨んだら凛先輩は大人しくなり綾乃を選んだ。

 綾乃はなんとなく名残惜しそうにしていたが、大丈夫だと言い聞かせてなんとか先行させた。凛先輩と綾乃の背中が闇へと消え去るのを待ち、消えたところで瑠奈のほうを向く。


 ・・・見なきゃ良かった。

 瑠奈はさっきまでの恐怖はどこにいったのか、後ろ向きでガッツポーズを取っている。しかも小声でなんか言ってるし。


「……先行くから」

「ちょ、待って待って!」


 呆れ加減で歩き出すと瑠奈は慌てた感じで追いかけてきた。


「まったく、心身共にか弱い義妹を置いていくなんて」

「身はともかく心は嘘だろ」

「そんなこと言ってると、襲うよ?」


 それは俺のセリフ……じゃない! 俺が襲ってどうする!

 ふう、危うくやつの誘導尋問に引っかかるとこだったぜ。


 それはそれとして、整備されていない道は不便で仕方がない。

 生い茂る木々や枝を避けたりへし折ったり、滑るような足場は踏んで固くしていく。瑠奈はそうして整備した道を悠々と歩き、


「せいっ♪」

「うおっ!」 蝶のように舞い、蜂のように脳天唐竹割り(チョップ)をして猫のように後ろへ逃げた。普通に痛いんすけど……。


「終いにゃ怒るぞ」

「んもぅ、いっつもMのくせに急にSになるのは嫌われるよ?」


 臨機応変と言ってくれ。そもそも嫌われるって誰にだよ! 瑠奈や凛先輩に嫌われて俺に対する悪戯が減るなら大歓迎なんだがな。


 そんなこんなで歩き始めてから千五百秒。つまり二十五分、懐中電灯をぶんぶんと振り回して闇を照らしながら『く〜る〜、きっとくる〜♪』なんて歌っている瑠奈の声がぴたりと止んだ。

 そしてたわわに実った二つの果実を俺の左腕に押し付ける。うん、この感触は間違いなく胸だな。しかもブラの固さが分かるような、尋常じゃない力で締め付けてきて血が回らない。


「離してくんないと進みにくいんだが」

「前かがみにならないで言ってよ……」


 なんて的確な突っ込みをしながらも、瑠奈の眼は恐怖に染まっていた。珍しいな、本当に怖がってる。


「どした?」

「なんかさ、うめき声みたいなの聞こえない?」


 耳を研ぎ澄ませる。・・・確かにそう言われれば、男のうめき声みたいなのが聞こえる。さらに言うならばなにかを引きずるような音すら聞こえる。


 幽霊? んなバカな。幽霊はプラズマなのです!

 なんてよく分からないことを考えながら瑠奈を背後に回し、近づいてくる音から守る位置に。


「瑠奈、危ないから少し下がってろ」

「う、うん」


 瑠奈は言われた通り数歩下がり、俺はファイティングポーズを取りながら何回かステップを踏む。剛柔流、魅せてやるぜ!


 音の正体が、細木をへし折りながら現れた。


「ぬぉおおお! 秘密スポットが呼んでいる!」

「そ、それより早くこの本をホテルに……って瑠奈ちゃんと竜也ぁ!?」


 音の正体。

 藻を全身にくくりつけてずぶ濡れの兄貴に、それを追う形でダンボールを持っている海斗が全力で走っている音だった。うめき声は兄貴のかけ声だったようで。


 海斗は俺たち二人を見たあと足を滑らせて豪快に転び、ダンボールの中身が宙を舞う。

 すると兄貴は限界ギリギリの体制からターンして中身を全てかき集めた。なんだろう、ケースみたいなのが見えた。


「お、おう竜也、なにしてんの?」

「そりゃこっちのセリフだ」

「わ、我々は決して露天風呂を覗きに行こうとは……」


 またもや本音を口に出した兄貴。

 つーかこいつらには、


「なぁ瑠奈」

「なに?」

「こいつらに熱いお灸を据えないとな」

「うん、私も同じこと考えてた」


 一致団結、交渉成立。

 俺と瑠奈は巨悪の根元である二人を挟むように周りこみ、悪魔の微笑みを浮かべる。


「くっ、海斗君、我々に残された道は……」

「滅びのみ、ですかね……」


 巨悪の二人はケースを抱えるようにしゃがみこんだ。


「覚悟は良いな(ね)?」

「「我らが生涯に一片の悔い無しぃい!」」


 夏の山、真っ暗の闇に男二人の絶叫が溶けて混ざる。俺と瑠奈はそのあと二人を放置して帰ったのは言うまでもなく。

 最後までケースの中身は見れなかったけど、なに入ってたんだろ?

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