第21話:天罰天誅鞭ハレルヤ君
海と山。この自然二大景観を一気に楽しめるところはそう無いだろう。それがここでは楽しめるし、ちょっと歩けばデパートやら電化製品専門店、服屋に宝石店まであるという豪勢っぷり。四泊五日とはいえ、全てを回るのは困難であると言えよう。
それゆえか、今は別行動をとっている。左半身が焦げている兄貴と、不気味な含み笑いをしていた海斗は電化製品専門店へ行きたいとロビーで暴れ出したので許可し、俺も身の保証のためにそちらに行こうとしたのだが甘かった。
凛先輩のフェイバリットウェポンである『天罰天誅鞭ハレルヤ君』により脳天をぶっ叩かれ、気を失ってしまった……。
そして今現在、目の覚めた俺はビーチパラソルの下にいた。
「くっそ……、頭がガンガンする」
「あ、竜兄起きた」
真っ赤なビキニに身を包んでしゃがんでいる瑠奈が隣にいた。
俺は頭をさすりながら上体を起こした。
「おう瑠奈。あれ、綾乃と凛先輩は?」
「海の家にかき氷買いに行ったよ」
「そうか、……ところで一つ聞きたい」
「ん、なに?」
ずんずんと接近しながら瑠奈が言う。くっつくな、ただでさえ暑いんだ。
「なぜ俺は水着になっている」
そう、ハレルヤ君に殴られた時はノースリーブに七分というラフな格好をしていたはず。
「着替えさせたから」
・・・平然と答えやがった。
てか誰がぁ!? 綾乃も瑠奈はまだしも、凛先輩は犯罪予備軍なんですけど!!
いやいや、予備軍どころか一軍に抜擢されてもおかしくない。つまりは犯罪者なわけで。
「……誰が犯罪予備軍よ」
「はい、お兄ちゃん」
二人で四つのかき氷を持って来てくれていた。
俺は綾乃が渡してきたかき氷を受け取り、凛先輩は瑠奈にかき氷を渡した。お、赤いからいちごシロップか。
「あ〜疲れた。竜ちゃんなかなか起きないし、いろいろしちゃったじゃない♪」
「それは凛先輩が女王様的武器を振り回したからであって―――っていろいろってなんすか! 綾乃、そこで頬を紅く染めるな!」
かき氷そっちのけで猛然と立ち上がる。
くっ、このタイミングで綾乃の頬が染まったということはまた俺の人権無視が始まったのか。
「そうだよ綾乃、まだ序の口なんだから」
「そ、そうだよね。お兄ちゃんのピーがピーになってるのはまだ序の口だよね」
ふぅ、と落ち着いたため息をはく綾乃。言うのが恥ずかしいのかピーなんていう伏せ字まで使いやがって。
あぁ……俺のプライバシーはなんて無力。殺虫剤を目の前にした蟻のような気分だ。
俺は気を取り直すかのようにかき氷を一口食べて、思いっきり吐き出した。
「うわ汚っ! ちょっと竜兄、どうしたのよ」
「ちょっと、いやかなり変な味してさ。なんだろ、鉄みたいな味が」
しかしこの赤さはどこをどう見てもいちごシロップ……いやまてよ、赤と鉄。もしかしてこれは、血!?
「綾乃、この赤いのって」
綾乃の代わりに凛先輩が答える。答えるというか、ボロ布のようにボコられた痕がある海斗を地中から引きずり出した。
「彼の血よ♪」
「―――何でまた血祭りに?」
どしゃぁ、と膝から崩れるように倒れた海斗に近寄り脈をはかる。ちっ、生きてやがったか。
海斗は今にも死にそうな体で、震える声を出す。
「赤外線カメラ……お…前に、託す。絶対に、奪われるなよ」
「瑠奈、カメラやるよ」
海斗から受け取ったカメラを瑠奈にパスした。
「裏切り者おおおおおお!!」
「悪いな、綾乃が映ったかもしれんカメラは兄として処分する。犯罪だし」
瑠奈はフィルムを取り出して、ネガを日差しに当てる。これで使いものにはならんな。
そして俺が海斗に電気あんまをしている最中、瑠奈と綾乃と凛先輩はナンパ男達を半殺しにしながら土を掘っていく。
因みにナンパ男は、大事な大事な息子を瑠奈と凛先輩に蹴られて再起不能になってました。うお、想像するだけでこっちも痛くなる。
「ギブギブ、竜也もうギブ! ぎゃああああ!」
「竜ちゃ〜ん、海斗君連れてきてー」
「あいよー」
電気あんまの足を止め、泣きながら息子の安否を確認する海斗を引きずっていく。
その先、なんと十分足らずで人一人がすっぽりと収まるような穴が出来ていた。あ、因みに縦にね。つまり顔だけ地上に出せるような感じ。
「んじゃ海斗、今から埋めるぞ」
「……息子が赤ちゃんみたいに小さいぜ」
海斗と発言を半ば無視し、次々に土を被せていく。
よし、完成!
「やったー! 人柱完成!」
「生け贄生け贄♪」
「今宵の鞭は血に飢えておる……殺!」
瑠奈、綾乃、凛先輩の順で口々にする縁起でもない言葉。
綾乃は海の家で買ったであろうスイカをパラソルの下から持ってきて、瑠奈はせっせと浜辺で泥団子(貝入り)を製造し、凛先輩はハレルヤ君にお経を唱え始める。
うん、俺が一般人なら確実に通報する。
え、俺は何してるかって? 海斗が気絶した時にぶっかける海水を汲んでるんだ。つまり、俺たちの気が済むまで海斗は気絶すら出来ないというわけ。
「な、なぁ竜也」
「なんだ?」
「これから起きるのは、全て現実なんだよな」
「あぁそうだ。充分に堪能してくれよ」
ガシガシと海斗の頭を引っ掻き回し、女性陣三人にアイコンタクトを送る。
「よ〜し、それじゃ」
「公開処刑を」
「始めましょう」
「頑張れよ海斗」
綾乃はスイカを海斗の頭の横に置き棒を振るい、瑠奈は試し打ちをするかのように貝入り球を放り投げ、凛先輩はピシィ! と元気よくハレルヤ君を扱う。
時刻は闇が支配し始める夕暮れ時。そんな中溶けるように消えていく海斗の絶叫は、天にいる兄貴の耳にも届いたであろう。合唱。
「竜也のバカやろぉぉおおお!」
予定変更、俺も攻撃隊に加わるか♪
その頃の兄貴。
ビーチから聞こえる絶叫を耳に、たった一人ホテルの中でなにか怪しい作業をしていたりしていなかったり。
「ふっふっふのふ……、海斗君、君の死は無駄にはせんよ」