表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

第18話:萌えとはなにか!!

「なぁ兄貴……」

「なんだぃマイブラザー」


 いきなりアメリカンになってんじゃねぇよ、純血日本人のくせに。


「一つ聞きたいことがある。これは瑠奈と綾乃とも意見を出し合った結果だ」


 瑠奈と綾乃は俺の背中に隠れるようにして居間に寝転がる兄貴を敵意むき出しに睨んでいる。

 その眼差しを敵意だと全く分かっていないであろう兄貴は気持ち悪い微笑みを二人に返し、瑠奈と綾乃は一目散に洗面所とトイレに駆け込んでいった。


 俺も行きてぇ・・・。


「なんで真っ昼間から萌えアニメ見てんだよ! しかもDVDボックスだし!」

「ふぅ〜、いかん、いかんぞマイブラザー!」


 兄貴はプラズマTVを一時停止し、床に置いてあるDVDプレーヤーを部屋の端に寄せる。意外と几帳面だな。


 しわくちゃになったポロシャツの胸ポケットから真っ黒いメモ帳を取り出して俺に向ける。


「なんだこれは」「私直筆、萌えノート!!!」


 どうだびっくりして声も出ないかがっはっはー、と言う顔をしながら兄貴はふんぞり返った。

 俺は愚かにもそのメモ帳を受け取って音読する。


「萌えは1日にしてならず。まず猫耳&尻尾を装着してセーラー服を着、『な』を『にゃ』にして喋りましょう。語尾にもつけるとなお良し……」


 く、くっだらねぇぇぇええ・・・!!


 そして俺は兄貴にこのメモ帳を返そうとすると兄貴の姿がどこにも見えない。あれ、どこいったんだ?


「マイブラザー、つまりこういうことだにゃ!」


 俺は反射的に振り返ってその場に崩れ落ちる。


 なんと兄貴は綾乃の制服を引っ張り出してきて、そのデカい図体にぱっつんぱっつんなくらい押し詰めて着ていた。身長186cmのガッチリ体型の奴が着るセーラー服は面白いとか気持ち悪いとかそういう次元じゃない。一種のホラーにしか見えないし、吐き気まで催してくる。


「あ、兄貴…その格好を止めてくれ……死ぬ…」


 腹の底から湧き上がってくる吐き気を制圧しながら頼む。だがそんなことはお構いなしとばかりに兄貴は自分の姿に見とれていた。


「うーむ、これが今の私か。意外と似合うではないか」


 でっかい鏡の前で兄貴は惚れ惚れと自画自賛する。そしてやっちゃいけないワーストスリーの一個をやりやがった!


「ほれほれマイブラザー、男の夢であるチラリズムだ。存分に堪能せよ」

「するかぁああっ!」


 兄貴の顎に向かって得意になった右ストレートを放つ。それは綺麗にはいって、兄貴を夢の世界へと旅立たせた。


 ふぅ、危なく目が腐るとこだったぜ。そして網膜に焼き付いた映像と記憶を消去しようと顔を洗いに行き、げっそりしている綾乃と瑠奈と廊下ですれ違い洗面所に入った。


 ぬるま湯を溜めている最中居間のほうから、『キャァアアア!』とか『目が、目がぁああ!』って叫び声が聞こえる。

 それとともに『綾乃、ロープとナイフ持ってきて!』と『鞭も持ってくる……くすん』という不適切な言葉も我が耳へ。

 ・・・まさか殺しはしないだろうな。


「おい、殺しをやると世界は平和になるが面倒なことに……」


 顔を洗ってさっぱりした俺は居間の扉を開けて絶句した。

 兄貴がパンツ一丁のブリッジしたような状態で手足を縛られ、瑠奈に鞭で叩かれている。あれ、ここ俺の家だよな? 大人の階段を一気に上がったような気がするぜ?


 すかさず綾乃が俺の腹に体当たりをして、俺はバランスを崩して誰もいない廊下側へ倒れる。綾乃は手慣れた手つきで俺の下腹部の上に乗り、涙ぐみながら制服を見せる。


「お兄ちゃ〜ん……制服買ってぇ」

「うーん、兄貴に着られてショックなのは分かるが財政的にちょっと」

「むぐぅ……」


 あ、泣いた。


「あぁもう分かったよ、買ってやるから泣き止め。そして下りろ」


 そろそろ理性が危ない。

 新しい制服を買ってやることを約束した綾乃は俺に礼を言ったあとすぐさま身を翻して瑠奈に加勢し始める。


「もぉあんたのせいで『竜兄チェリー奪還作戦☆』が台無しじゃない!」

「瑠奈姉と私で必死に計画したのにぃ!」


 ピシャーン、と鞭の良い音が響く。

 つーか今瑠奈と綾乃はなんていった。なんかとんでもない計画名が聞こえたなあ。え、チェリーは何かって? さくらんぼに決まってるじゃないか、アハハ……ハハ……ハ。


「協力&立案者の海斗君のこと忘れてるよ綾乃」

「あそっか」


 あやつもか。次あったらサブミッションコンボ食らわしてやる。


 俺は瑠奈と綾乃にその作戦の概要を聞こうとしたがあまりにも怖いので止める。ソファーに足を組んで座り、DVDプレーヤーを再生した。

 画面上にいるメイド服のお姉さんが動き出す。


『……というわけで″萌″と言うのは生きる上で必要不可欠なのです。分かりましたか、ご主人さ』


 しゃべり終わる前に停止ボタンを押した。

 白昼堂々こんなの見やがって……!


 兄貴を蹴ろうかと思って綾乃たちのほうを向くと、恐怖の顔になっていた。


「どした二人とも?」

「「あ、あれ……!」」


 二人の指差す方向には鞭が転がっている。どうしていいか分からない俺はそれを拾って、とりあえず全力で兄貴をひっぱたいた。


「ぬぐぅっ、も、もっと!」


 ・・・なるほど、こういうことか。Mっ気を前面に出して来やがって。


「綾乃、そこにあるDVDプレーヤーの中身をくれ」

「これ?」

「そうそれ」


 綾乃からソフトを受け取り、準備を始める。

 俺の行動をイマイチ理解していない瑠奈が頭を傾げながら、


「なにするの?」

「いや、これをこうしてだな」


 ソフトの面上に使われなかったナイフを突きつけて、うっとりしている兄貴の眼前に出した。

 それをみるやいなや兄貴は顔面蒼白になり、


「やめろ、止めるんだマイブラザー&シスター!」

「んじゃぁ金輪際俺と綾乃と瑠奈の迷惑になるような行動はとるな」

「それは無理。てへっ!」


 兄貴は言うタイミング、声の大きさ、その他において完璧に否定した。言い方は非常に喧嘩を売ってるとしか思えんがな。

 それに対して俺はにっこりと微笑み、


 パキィッ!

 ソフトを刺し砕いた。


「うおおおお! マイDVD vol,7『キャサリン』がぁあああ!」


 そんな名前があったのか!?

 兄貴はまるで世界の終焉を目の当たりにしたような絶望顔になり、綾乃と瑠奈たちは不敵な笑みを浮かべながらDVDボックスを壊し始めた。


 我が家に平和が戻りますように……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ