第16話:クソ兄貴、再誕
今回は少し短いです……。ごめんなさい
「し、死ぬかと思った……」
否。何回死のうと思ったことか。
カバン片手にゾンビさながら歩いていく。事情を知らない者が見たら間違いなく避けて通るだろう。知らない奴はいないだろうが。
校門あたりまで行くと暇そうにしていた一人の女の子が満面の笑みになって走って来た。そう、帰宅部所属の変態シスター瑠奈だ。
「……なんか悪口言った?」
「いや別に」
やはり勘鋭いなこいつ。侮りがたし。
「つーかなんでお前ここにいるんだよ」
「だって家にいたら綾乃のご飯食べないといけないんだもん」
納得。だが、
「帰らないと帰らないで問題ありだからなぁ」
「地獄まで 二人で行こう 天宮家」
「……不吉な俳句作るな」
俺と瑠奈は並んで帰ることにした。
帰る途中、俺の顔をまじまじと見ていた瑠奈は口を開く。
「なんでそんな性……じゃなくて生気無いの?」
・・・今不適切発言聞こえなかった? 気のせい? なら良いんだけど。
「思い出したくもない」
そう、思い出したくない。
部室入ると同時に凛先輩に制服を剥ぎ取られたとか、それを海斗が改造連写付きデジカメで撮影したとか、さらにその写真を凛先輩が買い取ったとか、それから後輩の目が軽蔑になったりとか、etc……。
・・・マジで鬱だ。死のう。
「にしても凄いよね〜」
ふと瑠奈の持っている一枚の写真で自害の道は閉ざされた。
「貴様……それをどこで入手した」
「凛先輩に貰っちゃった」
「返せ」
「や〜だよ〜♪」
瑠奈は写真を高々と上げ、走っていった。一瞬遅れた俺だが、すぐに追いかける。あれだけはマズい。本気で追う!
あの写真。合成やらCGを使ったものなんだ。え? 前と同じネタ? 違う!
あれは『上半身裸の俺と海斗が抱き合ってる』という禁断の一枚だ。海斗は自分が犯してしまった行為で精神崩壊を起こしてしまったくらいだ。
足の筋肉が崩壊するような気持ちで追うも、差は一向に縮まらない。瑠奈の逃げ足は自他共に認める俊足なのだ。
「竜兄、くらぇ〜」
楽しそうに。本当に楽しそうに瑠奈は写真を紙飛行機にして大空へと飛ばした。
「くっ!」
ジャンプして紙飛行機を捕ろうとするが、出来なかった。
紙飛行機はゆうゆうと風に乗り、小さくなっていく。
俺、ここまでの屈辱は初めてであります大佐……。
「まっ、元気出しなさい」
「誰のせいだよ」
俺は目が熱くなるのを感じた。涙じゃないよ、汗だよこれは。ぐすっ。
それから俺は瑠奈を攻撃しながら家へ帰った。
家へと入り、自分の部屋に行くために階段を上がる。二階に部屋がある瑠奈もまた然り。
俺は部屋の扉を勢い良く開け放った。
「フハハハハ! ソロモンよ私は帰」
ピシャ。
勢い良く閉めた。
「なぁ瑠奈」
「……今のってもしかして」
「うん、カスだね」
同意だ。カスと言われた存在。それは超シスコンであり、俺と綾乃の血の繋がった兄貴である。
そうか、夏休みだから帰って来たんだな。
「いきなり閉める奴があるかっ!」
スパァン! と良い音を立てながらクソ兄貴が顔を出してきた。身長は186cm、体重73kgの短髪。下手したらホ○に見られる容姿だ。
「じゃ竜兄、私と綾乃は出掛けてくるね」
そう言って瑠奈は反転し、下にいる綾乃のもとへ。
残ったのは兄貴と俺だけ。
「むぅ。久しぶりに会ったというのに、恥ずかしがり屋さんめ。あとでがっちり抱擁してやろう」
止めろ。あんな妹でも死なせたくないし。
「つーかなんで俺の部屋にいるんだ」
「ふっ、知れたこと! お前秘蔵の○○本を奪いにきただけ!」
「ざけんなぁ!」
俺の拳が兄貴の右頬を変形させる。
兄貴は体を捻りながらその場に倒れこんだ。
「ふっ……。我が生涯に一片の悔い無し」
あー。こんなマニアックな奴だけど、よろしく頼むよ。
今日は疲れたからこの辺で……。
「竜也は人妻が…ぬぐぉっ!」
俺は兄貴の腹を踏みつけた。
俺はお前を兄貴なんて認めねぇっ!