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第15話:初日の厄日

 今の時刻は昼の一時。俺と綾乃はリビングのソファーに座り、真正面に向き合っている。


「なぁ、もっと開いてくれないと見えないんだけど」


「でも恥ずかしいよお兄ちゃん」


「昔は良く親に隠れて見せ合ってたじゃん」


「でも、もうお兄ちゃんも私も高校生なんだよ? それに私まだ制服だし……」


「制服だからこそ燃えるんじゃないか。言わば正装だぞ」



「それはそうだけど……まだお昼だよ? こういうのは夜じゃない」


「確かに夜のほうが雰囲気は出るが、俺は昼のほうが好きだし」


「でも……」


「あぁもうじれったい奴だな! 俺が開くよ」


「待って待って。開かないでぇ! 本当に見えちゃう!」


「もう止められないんだ」


「あぁんっ!」


 俺は綾乃に向かって手を伸ばして開き、正直な感想を述べた。


「……前と全然変わらんのな」


「……頑張ったんだからね」


 こんな極々平凡な話をしていると、なにやら変な顔をした者が一人来た。

「……なんの会話してんのよ竜兄と綾乃」


 俺は手に持っているものを開く。


「夏休み恒例の成績見せ合いの話だ。なんか変だったか?」


 成績表をテーブルの上に置き、瑠奈の顔をみる。因みに変わってないのは綾乃の家庭科の成績のことだ。


「ここに今録音したのあるから聞いてみる?」

 そう言いながら瑠奈は右手に持っているボイスレコーダーの再生ボタンを押した。ポチッ。

―――――――

―――――

―――


 俺は両手両膝をフローリングに密着させ、四つん這いになって落ち込んでいる。


「…………」


「どうしたのお兄ちゃん?」


「竜兄はね、自分が犯した罪にとらわれているの」


 今回は言い換えせねぇ。

 いや、いつまでも落ち込んでいると名誉返上の機会が無くなってしまう。それだけは避けねば!


「名誉は挽回だよお兄ちゃん」


「返上したら意味ないでしょ。まったく、それだから私や綾乃に成績追いつけないのよ」


「お前らも心読めんだな……」


「普段は読めないよ」


 手をヒラヒラと左右に振って否定する瑠奈。頼む。俺をイジメるのは良いがプライバシーは守ってくれ。・・・誰だ今『M』って言ったのは。


 さて話をかえて。 皆さんの予想通り綾乃の成績には5が溢れかえってましたよ。ん? 瑠奈の成績はどの位?


「そういや瑠奈。お前の成績は?」


「こんな感じだよ愚兄」


 愚兄は止めて。

 えーと、5がひい、ふう、みい――――。うん。成績の話は止めようか。


 成績の話は置いといて、我が校『蒼香学園』は本日付けより夏休みに突入する。期間は1ヶ月弱といったところか。宿題の量は他校に比べると少なく、周りの高校から毎年羨ましがられる。

 つまり、数少ない宿題を終わらせれば自由の身というわけだ。部活を除いて。


「じゃあ竜兄、生物教えて」


 突然声をかけられたので瑠奈のほうを向くと、いつ着替えたのかワンピースになっていて麦茶を3つテーブルに並べ教科書を置いていた。綾乃はノースリーブ。

 二人とも夏真っ盛りという格好になっていた。


「……お前ら俺が教えるまでも無いだろ」


「お兄ちゃんと一緒に勉強したいんだもん」


「ほら、可愛い妹が頼んでるんだから私たちに勉強を教えてよ」


「性格悪いくせに」


「なんか言った?」


 自分の耳にギリギリ届く声で言ったのに、奴の耳には聞こえていたようで。

 ギラッという音がまさに似合うような目つきで俺を睨んだ。怖ぇ。


「いえ、なんでもありませんよマイ妹たち」


「むー。いつになったら勉強始まるの?」


 つまんなさそうにペンを見つめていた綾乃の言葉で俺と瑠奈に流れた殺伐とした雰囲気は断ち切られた。


「よし、じゃ俺も自分のをやりながら教えるよ」


 ということで俺は自分のカバンに成績表をしまい、ついでにやりかけの数学Bを取り出してテーブルに置いた。


「ところでお前らは何と何の教科の宿題をやるんだ?」


「私は生物。因みに生殖が範囲」


 と瑠奈。


「私が保健だよ。範囲は欲求不満について」

 と綾乃。


 ・・・・・。

 なにこの狙ったような教科は。そして範囲は。てか保健に宿題なんて無いだろ普通。


「これ提出するの忘れちゃったの。だからだよ」


「あそ……。まぁ悩んでてもしゃあない。やるぞ」


 俺は筆箱からペンを取り出し、憎き数学に取りかかった。

 すると綾乃は瑠奈に小声で話しかける。


「なんでお兄ちゃん悩むの?」


「う〜ん、若さゆえかな。ま、綾乃にはまだ早いよ」


「?」


 首を傾げて悩む綾乃。いちいち構ってはいられないので左腕で視界を覆い、二人を見れないような状態にした。うむ、我ながらナイス名案。


「ねぇ竜に……。むぅ」


 瑠奈が何かを言おうとして止めた。それを気にしないで真っ白ノートとにらめっこしていると腕を弾かれた。


「喚んでるんだからこっち向いてよ」


「召喚するみたいな言い方もよせ。てか恥ずかしくないのかお前は」


「なにが」


「年頃の女の子が無防備に上体を出してくるんじゃない」


 そう、こいつは両腕をテーブルについた状態で俺と話している。しかもワンピースだから胸元に目線が……。いかんいかん。人間を取り戻せ俺。


「ねぇお兄ちゃん、これはなに?」


「ん? どれど……っ!?」


 瑠奈から強制的に目線をずらしほっと一息ついて綾乃をみると、こいつの服がなぜか乱れてやがる。


「教科書に書いてあるだろ」


 またもや強制的に数学のノートへ視線をずらす。ふぅ、もうちょっともってくれよマイサン。


「ねぇ、話聞いてるの竜兄!」

「やっぱり教科書に載ってないよ〜。教えてお兄ちゃん」


 今度は二人いっぺんに襲……じゃなく教わりに来ました。

 さてここで問題。俺はこのまま無事に過ごせることが出来るでしょうか、出来ないでしょうか。


「お〜い愚兄」

「ヘルプミ〜…」


 ・・・・俺はもちろん出来ないと思うよ。はぁ。

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