表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

第14話:竜也vs催眠術and黒魔術

 以前に言ったと思うが、俺は意外と読書が好きだ。だから自分の部屋の本棚には小説が結構ギッシリつまっている。

 瑠奈や綾乃が暇すぎて死にそうになると俺の部屋から小説を10冊ばかし抜きとって読むこともあり、奴らもだんだんと読書をする時間が増えていっている。


 兄として、そして一人の男としてそれは嬉しい。だが、今熱中して読んでいる本が微妙。


「なぁ綾乃」


「なに? お兄ちゃん」


 ソファーに座っている俺。そして俺の膝を枕にして本を見ている綾乃がもぞもぞと目を向けてくる。

 膝枕は昔、おふくろがいないと泣き叫んでた綾乃を寝かせるためにした思い出がある。その名残という感じで今でもたまにこんなスタイルになる。


「なにを熱心に読んでんだ?」


 綾乃が持っているのは黒いブックカバーに包まれた本。

 誰かが本を見ていると、なにを読んでいるか気になるタイプなんだ俺。

「『これであなたも縛り役! 中学館』ってやつだよ」


 聞かなきゃ良かった……。つーかそんな本を読んでいるのかお前は。


「もうちょっとタメになる本を読め」


 明らかに高校生が読んで良いレベルじゃないぞ。

 俺は綾乃から本を奪い、後ろに立っていた奴に渡した。ん? 後ろ?


「なにこれ」


「あ」


 後ろにいたのは皆さんの予想通り、瑠奈でした。最悪な奴に渡しちまったな……。


「竜兄こういうのに手を出すからよからぬ噂がたつんだよ」


「そうだそうだ〜」


 2対1になって優勢になった綾乃は急に勢いに乗り言ってくる。

 ……よからぬ噂の4割方はお前ら姉妹による猛攻のせいだが。因みに残り6割は凛先輩になりますのであしからず。


「あれ? 瑠奈姉はなに読もうとしてたの?」


 ムクリと起きた綾乃はきょとんとした目で瑠奈の手をみる。俺もつられて見てみると、縛り役以外になにか一冊の本を持っている。


「あぁこれね。変人竜兄と違って優秀な私は」


 変人で悪かったな。瑠奈は縛り本を床に置き、最初から持っていた本を見せびらかすように表紙を向けてきた。そこにはこう書いてあった。


「『ザ・催眠術』よ」


「ふーん」


 軽く受け流した俺は先ほどまで読んでいた小説を開いた。

 そして綾乃の頭に足を占拠されていたからか、右足が痺れて痛い。ぷらぷら動かして気を紛らわしていると、


「反応うすーい! さては出来ないと思ってるでしょ。よ〜し、腕前を見せたげる」


 瑠奈はそう言って腕まくりをする。綾乃は楽しそうに五円玉に糸を通し結び始める。五円玉を左右に動かすってのは有名すぎるな。ゆえに催眠術がかからないという自信も出るってわけだ。


 俺の中でなにが起因になったか分からないがやけに自信が出始め、瑠奈の催眠術ゴッコにのってやることにした。

 本にしおりを挟んで脇に置き、綾乃に紐付き五円玉を手渡された瑠奈は俺の目線に持ってくる。


「この五円玉をよく見ててね。見失ったら負けだよ」


「……なんだよ負けって」


 意味の分からないことを言ってきつつも、瑠奈の目はやけに真剣。綾乃は俺のすぐ横で口を半開きにしてこの場を眺めている。

 しょうがねぇなぁ。こいつらの期待にそって、かかったふりしてやんよ。


「あなたはだんだん眠くな〜る眠くな〜る」


 て、典型的すぎる。


「そしてもう二度と目覚めなくな〜る」


 死ぬのか俺!?


「なぁ、その遠回しに俺を殺そうとするのは止めてくれ」


 その言葉を聞いて驚く綾乃。なぜお前が驚く。


「えぇー。保険金を受け取れなくなっちゃうじゃない!」


 ・・・・・。

 妹が信じられなくなりそうですお母さん。まさか実の妹にそんなことを言われるとは夢にも思いませんでしたよ。瑠奈ならともかく。


「ダメだよ綾乃。半分は私のなんだから」


 人が信じられなくなりそうですママン。


「な、なぁ。もう少し難易度落としたらどうだ? 犯罪ごとは無しで」


 そうしないと俺が精神崩壊を起こしてしまう。

 しかし犯罪ごとは無し、という条件を出したら瑠奈が困惑の表情になり、『う〜ん』と考えだしてしまった。どうやらその関係のことしか頭に無かったようです。


 これ以上付き合っていても仕方ないので俺は自分の家事分担である洗濯物を干そうと立ち上がった。


「ちょっと待って竜兄。最後にこれだけやらせて」


「……最後だな? なら良いぞ」


 最後という単語が出たので、俺はしぶしぶとソファーに座り直した。


「よぉーし。綾乃、キッチンからろうそく二本持ってきて」


「わかったー」


 瑠奈の指示をうけた綾乃はキッチンのほうへと去っていった。まさかとは思うが、ろうそくって先日の『あれ』じゃないだろうな。

 心配で挙動不審に陥っていると、何やら瑠奈も部屋に去っていった。これは解放されたのかな?

 まぁあと少しだけ待ってみるとするか。


 しおりを抜き取り小説の続きを読み始めた俺は、二人が戻ってくるまでゆったりと過ごす。一回だけさっきキッチンからパリーンって聞こえたが、気にしない。


 綾乃と瑠奈がいなくなってから15分が経ち、ようやく二人が戻ってきた。


「お待たせ〜」


「うぅ…やっと見つかった」


 うちのろうそくは使用頻度少ないから毎年どこにしまったかで迷うんだよな。どうやら綾乃はずっと探していたらしい。しかし問題は瑠奈の格好。体全体がすっぽりと入る黒いローブを身につけている。


「なにをする気だ瑠奈」


「黒魔術」


 なんの恥ずかしげもなく答えたよこいつ。


「黒魔術ねぇ。で、なにをするんだ?」


「それはまだ教えられないよ」


「そうか。まぁ洗濯物も干したいから早くしてくれよ」


 少々投げやりな応答をする。だって科学の時代に魔術なんだもん。催眠術のほうがまだ説得力があるよ。

 足の痺れも無くなったので立ち上がって瑠奈の黒魔術をくらうことにした。


「じゃあいっくよー」


 そう言うと瑠奈は綾乃からろうそくをもらい火をつけた。そのろうそくを前後一列に並べ順に動かしていく。

 さっきの催眠術と変わらないじゃないか、そう言おうとした時、急に膝の力が抜けてドスンとソファーに座り込んでしまった。


「な…っ」


「嘘……かかっちゃった」


「なんか言ったか?」


「にゃ、にゃんでもないよ」


 一度そっぽを向いた瑠奈だがすぐに視線を戻してきて黒魔術を再開する。

 この黒魔術、さっきの催眠術の強化版のようだな。ってことは次かけるのは。


「竜兄はだんだん眠くな〜る眠くな〜る」


 やっぱり。しかしこんな定番なものに引っかかっては兄としての沽券(こけん)に関わる。ここはグッと我慢を……。

 そこで俺の記憶は途切れた。


―――――――

―――――

―――


「ん……ここは?」


 記憶が戻った俺は仰向けに寝かされていた。天井と視界に入る家具から察するに、ここは俺の部屋だ。俺は右腕で重い(まぶた)をこすり、ある違和感を感じた。


 違和感その一。

 着替えた記憶は無いというのに服装が違う。今着ているのはいつも寝る時のスタイルだ。しかし上半身裸。


 違和感その二。

 俺は自分のベッドにいるんだ。しかし俺の腹部に左右から生き物独特の暖かさが伝わってくる。そして両腕に感じる2つの柔らかい感触。……いまのは聞き流して欲しい。


 俺は勇気を振り絞って布団を剥ぎ、叫ぶ。


「俺にいったい何をしたぁ!」


 所狭しという感じで寝ていた綾乃と瑠奈が寝ぼけ眼で起きた。


「おにいちゃん、にーはお……」


 ダメだ。綾乃は完全に睡眠モードに入ってる。


「あぁ竜兄……。大丈夫、着替えさせて一緒に寝てただけだから……」


 大きな欠伸をしながら瑠奈が答える。着替えさせて一緒に寝てただけって、兄としては大問題なんだがな。


「とにかく、俺は下のソファーで寝るからな」


 そう言ったあと、瑠奈が火のついていないろうそくを取り出し、残り香らしきものを俺に嗅がせ―――――。


―――――――

―――――

―――


「竜兄〜朝だよー」

「お兄ちゃん遅刻するよぉ!」


 綾乃と瑠奈の声が下から届き、それに返事する。


「分かってるよ!」


 今の時刻は朝八時。俺は何故だか知らんが寝坊してしまって大慌て中だ。忘れ物は無いかどうかチェックし、カバンを持つ。

 学校関係ではないが、なにか大事なことを忘れている気がしてならない。うーん、まいっか!


 さて、用意も出来たし学校行かなきゃな♪




 登校中、会話中心編。


「なぁ綾乃。俺昨日催眠術やら怪しいことを受けていた気がするんだが結果を忘れたんだよ。どうなったんだっけ?」


「え、えぇっとぉ」


「なぜ口ごもる」


「ほら竜兄、遅刻しそうなんだから走る走る!」


「分かった分かった」


 俺は走り出して一番前を駆け抜ける。


「(人間、知らないほうが良いこともあるんだよ、竜兄♪)」


 ……なんか忘れちゃいけない嫌なことがあった気がするんだよなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ