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第13話:瑠奈ちゃんが苦手になりそうです(by海斗)

「おっす竜也」


「おっす変態」


 今日は以前みたいな事件は起こらず、平和に学校へ入れた。普通の生徒ならば飽き飽きした日常も、今の俺にとってはまさにオアシス。

 海斗、もとい変態にも挨拶したことだし自分の席に座る。

 痛い。


「………」


「どうした竜也」


 イスに座ったはずの俺が急に立ち上がり、自分のイスを見下げていることに違和感を覚えた海斗が尋ねてくる。


「これをやったのは貴様か」


「だからなにを」


 俺を超不審人物のような目つきで見ている海斗を手招きし、我がイスを見せた。


「おぉ……すげぇな」


 イスがなぜ痛いのか。それは刺さらない程度にまで尖らせた木片のカケラがあったからだ。


「机の中にはこんなものまであったぞ」


 俺はゴソゴソと机の中に手を入れ、見つけたものを取り出す。


「……竜也、そんな趣味あったのか?」

「違うっ!」


 取り出したものを机の上に投げ、全てを否定する。

 取り出したもの。それは見るからに使い込まれた『縄』と、こんな太いのあるのかと思わずにはいられない『ろうそく』である。


 このシリーズを集めるとエスエ…ごほん。自主規制します。


「このシリーズはまるでエス…」


「それ以上言うなぁ!」


 クロスチョップしながら海斗の口を塞ぎ、強制的に言葉を飲ませる。


「い、いきなりクロスチョップするとは」

「お前が危ないセリフを言うからだ」


 パンパンと服についた埃を払いながら立ち上がり、このシリーズを片付け始める。

 ったく誰だよこんなことする奴…。


「おい天宮」


「なんだクラスメートA」


「客だ」


 ろうそくを縄で縛ってゴミ箱に捨てようとしていると、クラスメートAが話しかけてきた。客?


「竜兄〜」


 客。それは事情を知らない者が見たら絶対に心ときめく笑顔をしている瑠奈だった。場所はいつものベランダだが。

 俺は窓に近寄り鍵を開けて窓も開ける。


「なんか用か瑠奈」


「9日10(ここのかとうか)


 懐かしいギャグだな。


「アホ」


 それだけ言って窓をしめようとすると、瑠奈の目がある一点で動かなくなったのに気付いて手を止める。


 まずい。非常にまずい。

 イスの上にある木片も説明不能だが、今まさに俺が持っている縄とろうそくは怪しすぎる。


「竜兄、あれ……」


「え、あ、あれはだな」


 俺の足りない頭が、海斗の私物だ。そう言おうと口を開けた瞬間、


「気に入ってくれた?」


「へ?」


 またもやニコッと笑う瑠奈。

 考える。今のことばを整理し理解するとだ。


「もしやこの不思議アイテムの類は……」


「私のだよっ♪」


 『♪』じゃねぇ。いくら親が不在がちとはいえ、お兄ちゃんはそんな風に育てた記憶はありませんよ? たぶん。

 俺は過去を振り返ってどこで瑠奈が道を踏み外したのかを目を閉じて考える。


「あ、ちなみに協力者もいるよ。ほら、そこの竜兄のイスに木片があるでしょ?」


 そう言われて我がイスを再び見直す。うむ、平和な教室に変な雰囲気を醸し出している。あれほどの強大な負のオーラは初めてだ。

 とりあえずいつまでも見てると変なので瑠奈と向き合う。


「あれを作ったのは…」


 瑠奈が先を言おうとすると、俺は後ろからくる視線を感じる。振り向いてみる。すると一人の見慣れた人がいそいそと俺のイスに新たな木片を足していく。


「え〜と、なにしてるんだ綾乃」


「木片の補充だよ」


 それがどうかした? とでも言いたげに首を傾げる綾乃。


「つまりだ。この一連の騒ぎは」


 窓際に手を置き、ヒョイと乗り越えて教室に入ってきた瑠奈が言う。


「そ♪ 時間潰しもかねてね」


 こ、こいつら…。お前らのせいで俺に『蒼香学園の恥さらし』って称号がついたんだぞ。一番メジャーな称号は『M竜也』だがな。ふっ、我ながら死にたくなるぜ。

 肩を下ろし、俯いてダークな状態に入っていると背中を海斗にポンと叩かれた。


「どうやら俺にも好敵手が出来たようだな」


「……頼む。張り合わんでくれ」


 力無い声で反論した俺は木片を払いのけて机に突っ伏そうとした。が、木片はびくともしない。気分を落ち着かせてもう一度試みる。動かない。それどころか摘んで持ち上げることすら出来た。


「あ、途中で取れると面倒だからアロンアルファ〜で固定したよ」


 ・・・・・。


「直してくれ」


「えー…」


 真顔のまま綾乃に近づき、少しだけ笑う。もちろん敵意てんこ盛りに。


「な・お・す・よ・な?」


「う、うん。わひゃった〜」


 両手をぶんぶん振り回し、痛みに耐えようとする綾乃。なぜかと言うと頬を俺が引っ張っているからだ。

 手を離し、綾乃を俺のイスのところへ運ぶ。


「あぅ〜痛いよ〜」


 綾乃は赤くなった頬をさすりながら作業に取りかかった。自業自得だな。


「さて、じゃあこの不思議アイテムは」

 縄とろうそくを持ち主である瑠奈に渡そうとする。

 瑠奈は俺ではなく海斗に視線を動かし、


「持ち主である海斗君に返そうね」


「ん? この調教アイテムはお前のじゃないのか?」


 浮かんできた疑問を言う。それでも瑠奈は俺に目線を動かさずに海斗を見つめる。


「いやそれは瑠奈ちゃんが俺のPCでネット購入を」


 海斗が否定しようとすると、瑠奈は胸ポケットから手帳を取り出してパラパラとめくっていく。

 俺も海斗もそれを黙って見ていると、何かを発見した瑠奈は教室中に響き渡る声を上げる。


「海斗君は隣に住んでいる主婦神谷さん(32)と…」


「俺の私物です!」


 瑠奈が言い終わる前に顔面汗だらけの海斗が止めた。

 ・・・・・。

 主婦となにがあった海斗ぉぉ!


「というわけで竜兄、この調教アイテムは海斗君のだから♪」


 そういうと瑠奈は満面の笑みで教室から去っていった。相変わらずわけの分からん奴だ。


「んじゃこれの処理は任せたぞ」


「あ、あぁ……」


 半ば放心状態の海斗にアイテムを手渡し、まだ作業を進めている綾乃のもとへ。


「ほれ、もうHR始まるから戻れ」


「でもまだ全部取り除いてないよ?」


「あとは俺やっから。早く教室戻れ」


「ありがとー!」


 すると綾乃は何を思ったのか、にぱ〜と笑いながら抱きついてきた。俺の胸部に当たっている柔らかい二つの感触は……あれに間違いない。


「い、いいから離れろ!」


「あはは、じゃまたあとでね〜」


 力ずくで離した綾乃も笑いながら教室から去っていった。

 ふぅ。疲れた。残された俺は自分のイスをまだ来ていないクラスメートBの席と交換した。すまんなB。


 さて、最後の仕上げだ。さっき綾乃が俺に抱きついてきた時に耳に入った言葉、『シスコン イズ 竜也』って言ったクラスメートを探さなくてはな。




 後日談。


 『シスコン イズ 竜也』と言ったクラスメートに復讐をした俺は廃人と化している海斗に『主婦がどうした?』と聞いたら、ビクッと体を動かしたあと奇声を上げながら走り去っていった。

 一体、なにがあったんだ……。

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