第10話:近所迷惑(俺を中心に)
「あー、ひどい目にあった……」
今俺はベッドにうつ伏せで寝ている。いつもならば慣れているので(慣れたくなかったけど)、横にならなければいけないことは無かった。では何故横になっているのかだ。
そう、ヌードデッサンがどうたらこうたらとデカい声で言い争う三人の声が廊下に響き渡り、一般生徒と教師陣の耳に入ってしまったらしい。そこに海斗がやって来て『既成事実発覚!』なんて言いながら写真を数枚撮って行きやがった。だから心身ともに極限まで疲労してしまったのだ。あ、因みに海斗は生徒会執行部と新聞部を掛け持ちでやってるから。
とにかく俺はもう起き上がる余力すら残っていない。今はただ体力回復にだけ集中したい。そう考えるといっつも邪魔が入る……。
「お兄ちゃん、元気になった〜?」
ドアを少しだけ開け、その隙間から綾乃がひょこっと顔を出した。俺は首だけそっちに向け、答える。
「大丈夫なように見えるか?」
今の俺は矢吹ジ○ーよりも真っ白な自信がある。それほど廃人化しているのだ。
「と言うわけで、ゆっくり寝かせてくれ」
そう言って綾乃とは反対側の壁を向いた。その後、パタンと静かにドアの閉まる音が聞こえた。どうやら出て行ったようだな。
「てぃっ♪」
「おぶはっ!」
背中に超衝撃を覚え、情けない声を出してしまった。背骨おかしくなりそ……。
「あーやーのー! 出て行ったと思ったらニードロップかましやがってぇ!」
寝っころがったまま怒る俺。うん、迫力無いね。その証拠に綾乃が俺の背中にまたがりながらケタケタ笑ってやがる。てか乗っかられていると非常に息苦しい。よし、肉を切らせて骨をたつ、あの一言で退場させよう。
「なぁ綾乃。どけて」
「ヤ♪ なぜか落ち着くんだもん」
俺は非常に落ち着かない。仕方ないか、言おう。
「綾乃、重い」
【竜也はザラキを唱えた!】
「えぇっ!?」
【綾乃は息絶えた!】
おぉ、綾乃がどけてくれた。てか横に倒れた。……ちょっとやりすぎたかな?
「おい、大丈夫か?」
【返事がない。ただのしかばねのようだ】
・・・。さっきからこのナレーションうっとうしいな。このネタ通じる人はどの位いるのだろうか。そんなよく分からないコメントを残しつつ、俺は力を振り絞って立ち上がった。未だうずくまっている綾乃の肩を掴んで多少無理やり体を起こす。
そして俺の目に映った綾乃の右目には『減』、左目には『量』の文字が浮かび上がっていた。
「お兄ちゃん……。私今からダイエットする!」
ダイエット宣言発動!
「い、いや、さっきのは冗談なんだが」
「うん、それは分かってるよ。でも確かに最近体重増えちゃったし……」
「マナー違反を承知で聞こう。何kg増えたの?」
俺がそういうと綾乃は俯いた。そしてゆっくりと口を開いて恥ずかしそうに言う。
「0、5kg……」
・・・増えたって言わなくね? まぁ女の子には女の子の考え方があるのだろう。男子にとって些細な数値でも女の子にとっては重大な数値だしな。
「ふーん。頑張ってな」
薄情と思われるかもしれないが俺には関係ないことだし、もう夜だから大丈夫だろう。そう思って再びベッドに横になる。綾乃もこれ以上攻撃せずに部屋から出て行ったので、どうやら理解してくれたようだな。
横になってうつらうつらしてきた。やっと眠りにつけるという矢先、
「竜兄、走りに行くよー!」
「行くよー!」
ジャージ姿になって来た綾乃と瑠奈が部屋に突撃してきた。綾乃が白いジャージで、瑠奈は赤いジャージ。ま、どっちも俺のお古なんだけどね。
「いや、俺体重なんて気にしてないし……」
俺は昔からいくら食べても太らない体質だし、いっつも平均的と言われてるから気にしたこともない。てなわけで、俺は妹たちに反対の意見を言った。
すると綾乃がなにかを瑠奈に手渡した。手渡した物はなにか、それは机の上で充電していたはずのケータイだった。データに見られてマズいものは有るのだがロックフォルダに入れているので特に焦らないでいると、
「アクオ○ケータイ♪」
って良いながら稼働部分を曲げちゃいけないほうに力を入れ始めやがった。マズい、このままでは中のデータが全て消えてしまう! 俺のフェイバリット画像が!
「分かった、ダイエットに付き合うよ」
「やった〜」
その言葉を聞いた綾乃と瑠奈はハイタッチをして喜んだ。
俺は瑠奈の手から離れ、ゆっくりと床に落ちていくケータイをダイブして受け止め安堵の息を吐く。
「じゃ外で待ってるから着替えて来てね〜」
そう言い残して綾乃たちは去っていった。はぁ、なんで疲れている時に、しかもこんな夜にジョギングをしなくてはならないんだ。
ぶつくさ言いながらも黒いジャージを着込み、走り込み用の靴を持って外に出た。
「お待たへ」
「やっと来たー」
「じゃあ竜兄、ルール説明するね?」
柔軟体操をしていた綾乃たちだったが、俺の姿を確認するや否やこちらによってきた。てかルールって?
「うん、ただ走るだけじゃつまらないじゃない? だからちょっとしたゲームをしようと思ってさ」
瑠奈が期待で目を光らせ言ってくる。
「異論は無いが」
「(ニヤッ)じゃあルール言うね」
・・・。なんか見てはいけない笑顔を見てしまった気がする。
「ルールは簡単よ。まず私たちが本気で走る。しばらくしたら私が竜兄に合図を送るから、それから走り始めて私たちより先に目的地に付けば良いの」
「ふむ。ハンデ有りの徒競走みたいなもんだな。で、目的地は?」
「学校の正門だよー」
綾乃が瑠奈の肩に顎を乗せながら言う。
「了解した。だが、学校近くに行ってから知らせるなんてズルはするなよ」
「し、しないよ〜。アハハ……」
瑠奈が自分の後ろ頭に手を回しながら辺りを見渡す。つまりキョドっている。やる気だったな……。
「んじゃ早く始めようぜ」
そういうわけで瑠奈と綾乃は全力で走り始め、俺の視界から遠のいていく。
俺はというと、柔軟をしていないことに気づいたのでアキレス健、屈伸、伸脚などの軽い運動をこなす。
綾乃たちは俺が本気で追いかけてくると思っているのだろう。だが俺は未だに眠いので、適当に走っていこうと判断した。その時綾乃と瑠奈、二人の混じった声が俺の鼓膜を振動させる。
「「竜兄(お兄ちゃん)が襲ってくるー♪」」
・・・。
「なに変なこと言ってやがるお前らぁ!」
俺は日本新記録でも超えられたのではないかというほど全力で走り出し、問題の二人を追いかけ始めた。
俺は綾乃と瑠奈に三十秒ほどで追いついて軽く説教をする。もうこんなことするんじゃないぞ、と無駄とも取れる注意をしてその日は幕を閉じたのだった。
後日談であるが、綾乃と瑠奈の言葉を聞いた周りの住人に、俺だけ超白い目で見られることになった。
あぁ、早く次の家に行って誤解を解かねば……。