第1話:なんか敗北感…
主人公の名字は【天宮】となっておりますm(_ _)m
「竜兄〜! 朝だよ〜」
「う…ん」
下の階から聞こえてくる声で俺は目が覚める。
しかし俺は朝にめっぽう弱いために、すぐに布団から出ないと二度寝してしまう傾向にある。すると睡魔と俺の理性が戦闘を開始した。
睡魔:HP9999
理性:HP6
・・・ふっ、朝の睡魔は無敵なり。RPGで例えるならばレベル1の主人公がいきなり裏ダンジョンのボスに戦いを挑むようなものだ。絶対に勝てるわけがない。
そんなこんなで良く分からない思考を繰り広げていても、時間が経つに連れて睡魔はより強力になっていく。
我が理性を一蹴し、俺を夢の世界へ……。
「とぉっ♪」
「ぐはっ」
いざなえなかった。
「痛ぇ…。普通に起こせっていつも言ってるだろ? 綾乃」
「ゴメンねお兄ちゃん、足滑らせちゃって」
黒髪のツインテールで身長は150未満のちびっ子、綾乃が俺の腹の上に覆い被さっていた。
てか足滑らせたって絶対嘘だろ。とぉっ♪ って楽しげにダイブして来やがったじゃないか。
胃が空っぽじゃなかったらリバースしていたところだ。
しかし、俺の睡魔もしぶとい。渾身のダイブを食らっても未だ俺を眠りに誘おうとしている。
綾乃に乗っかられたままウトウトしていると、綾乃が俺の口元に濡れたタオルを置いた。繊維の隙間を水滴がコーティングし、空気の侵入を遮断する。つまり、俺は今呼吸が出来ないと言うことに……。
「ぶはぁっ!」
「きゃぁっ!」
寝ている体を急激に起こしたため、乗っかっていた綾乃はコロンと布団の外へと転がった。
「殺す気か綾乃ぉ! いや、それ以上にどこからタオルを出した!」
「……タオルの方が重要なの?」
む、我ながら愚かな質問だったか。
でもどこから取り出したのかは本当に気になるぞ。物理法則を完全に逸脱したわけだし。
もはや完全に睡魔は根絶やしにされた俺は背伸びをしながら立ち上がり、未だ床に寝っころがっている綾乃も立たせる。
「眠気もなくなったことだし、着替えるとするか」
「そうだね」
「というわけで、綾乃は自室に戻りなさい」
「ヤだ」
「………」
俺は綾乃の襟を掴んで持ち上げ、強制的に部屋から退出させた。まったく、マセた妹だ。
綾乃はいつから道を踏み違えたのかを考えながら、俺は着替え始めた。
ブレザー系統の制服(今は春だからブレザー自体は着ないけど)を着て、俺は最初に聞こえた声の主が居るであろうキッチンへと歩き出した。
因みに綾乃は着替えるのが滅茶苦茶遅いからしばらくは降りてこないだろう。
遅い、のレベルはパジャマに着替えるだけで12分もかかってしまうほどだ。
何をどうしたらそんなに遅くなるんだか……。
「遅いよ竜兄」
「すまん。綾乃とのトラブルでな」
「……また?」
そう、先ほどのようなやり取りはもはや日常茶飯事なのだ。
因みに今俺と話しているのは義妹の瑠奈。背中の真ん中あたりまでのポニーテールで少々茶色がかってる。こいつもトラブルメーカーだ。はぁ、気が重くなる。
気を取り直して朝飯を作っている最中の瑠奈の後ろで新聞を見る。
……だれだ、親父くさいなんて言ったのは。安心してくれ、俺は番組表と4コマ漫画しか見ないから。
「ねぇ竜兄、ここにあったタオル知らない? 急に無くなっちゃったんだけど」
・・・。
綾乃は魔術師か!?
「ここにあるぞ」
さっきさり気なく置いたタオルをもの知らぬ顔で指差す。
「貸して〜」
「ほれ」
差し出された手にタオルを渡し、再び番組表に目を通す。
すると俺としたことが、コップに入っていた水を少しこぼしてしまった。
「あちゃ、やっちゃったね」
「あぁ。タオルほおってくれ」
「うりゃ!」
白いタオルは瑠奈の手から離れると、弧を描かずに真っ直ぐ俺の顔に飛んできた。つまり速球。
「誰が投げろと言った。ほおれと言ったんだぞ俺は」
「無事に受け取ったんだし気にしない気にしない♪」
この妹どもは…。
被害が無かったので、俺は水浸しのテーブルをタオルで拭いた。
拭いたタオルを洗面所で絞ってキッチンへ戻ると、丁度朝飯が完成していた。
さらに狙ったかのように綾乃も着替え終わって、上から降りてきた。
記録は8分41秒。奴にしては凄いスピードだ。
「オハヨー、綾乃」
「オハヨ、瑠奈姉」
そう、実は瑠奈のほうが若干お姉さんなのだ。3日違いだけらしいがな。
そして2年ほど前に瑠奈がうちに来たわけだが、急にお姉さんになりたい! と騒いだので綾乃が妹として現在に至っているわけで。
「竜兄、何時までもタオル握って立ってないで、座ろうよ」
「そうだよお兄ちゃん」
「あぁ、ちょっとお前らの説明をな」
「誰に?」
可愛らしく首を傾げる瑠奈。頭と一緒に動くポニーテールがまた可愛さを引き立てる。
「画面越しの神々に」
「ふ〜ん。それより早く食べないと遅刻だよ」
既に食べ始めている瑠奈と綾乃。遅れて俺も食べ始める。
「ほうた、おひいひゃん」
「包帯お爺ちゃん?」
綾乃の発言を瑠奈が訳す。たしかにそう聞こえないこともない。てか包帯だらけのお爺ちゃんがいたら大変だろ!
「口の中を空っぽにしてから話せ」
もう朝飯を平らげた俺は食後のコーヒーを飲みながら綾乃に言う。
「そうだお兄ちゃん、今日のお昼は一緒に食べよ?」
「あ、私もー」
「だが断る」
即答した。早押しクイズの優勝者にも負けないくらいの反射速度だ。
比較的可愛い部類に入る綾乃と瑠奈が俺を慕ってくれるのは嬉しい。嬉しいのだが、悪意無きトラブルメーカーだから始末に悪い。
「え〜」
「竜兄、良いじゃん」
「ダメなものはダメだ。友達と食べなさい」
綾乃と瑠奈の空っぽになった皿を取り、流し台に置き水をはる。
「瑠奈、早く着替えこい。学校に遅刻しないように」
「は〜い」
瑠奈が着替えている最中、俺と綾乃は玄関で待つことにした。
あ、因みにここの家族構成を話すと、再婚した両親は多忙の上単身赴任でなかなか帰ってこない。
だからこの家には俺と綾乃と瑠奈で住んでいるわけだが、俺には血のつながった兄が一人いる。
大学の寮にいるからたまにしか帰ってこないけど、超人的な上にシスコンだからうっとうしいことこの上ない。ま、近々参加することになるだろうね。 家族構成を一通り話すと綾乃が口を開いた。
「ねぇお兄ちゃん」
「なんだ?」
綾乃は何か聞きにくいことでも言いたいのか、少し顔を赤める。
「……お兄ちゃんって、たまってる?」
「……なんで?」
急に何を言い出すんだこいつは。普通は絶対に聞かないだろこんなこと。
「朝、お兄ちゃんのSonが…モゴモゴ」
・・・。
綾乃、それは仕方ないことなんだよ。
男子ならば必ずあることだ。そして、やりたくてやってる訳じゃないわ!
「綾乃、それはもうちょっと大人になれば分かるさ。だが俺は欲求不満なんかじゃないぞ」
変な作り笑いをしながら綾乃の肩に手をおく。
もう綾乃の顔は耳まで真っ赤に染まって、オクトパスと良い勝負だ。で、玄関の真正面に位置する階段をふと見ると、瑠奈の姿が。
そして瑠奈は会話を聞いていたのか、目線を下ろして不敵な笑みを浮かべる。
そして一言。
「……ふっ」
・・・。
なんか凄ぇ敗北感……。
「あぁもう! 早く学校行くぞ!」
こうして俺たちの長い生活は幕を開けた。
・・・朝は妹たちが入ってこれないようにしよう。