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四章:Intermission-present(4)
 
 実を言うと私の部屋も、圭織や愁也君の部屋と同じ六畳間なのだが、たぶん物量的な問題で私の部屋の方が広い。うちに来たことのある圭織と愁也君が自身の部屋と比べてそう言うのだから間違いはないのだろう。
 
 部屋にあるのはベッドが一つ、小さめの机が一つ、それに姿見が一つ。ああ、後はゴミ箱がある。小物や服なんかはクローゼットにすっぽりと収まっており、クローゼットのスペースはなお余るほどだ。だから私含めて五人くらいなら余裕で全員入れるし、クローゼットの中にしまってある折り畳み式の丸テーブルを出せば勉強する環境も整えられる。座布団はたぶん足りないが、他の部屋から持ってくればいい。
   
「私の家、駅から歩くよ?」
「いい、とりあえず広い場所が欲しい」
 
 私が確認をとり、祐子のこれ以上ない理由づけで勉強する場所は決まった。
 
 
 私は部屋に入るなり額についた汗を拭い、机の上にあるエアコンのスイッチを入れた。羽が開く機械音の後に部屋の中の温度を計りとったエアコンが轟音とともに冷気を発し始めた。
 
 途中でコンビニに寄り、飲み物と少量(?)のお菓子を買った。そしていつもより多めの三十分程をかけて私たちは私の家にたどり着いた。高校生が五人も連なって歩くと歩くペースも違うし、自然とはなしながらになるため、余計に時間を食ってしまう。夏なので日は長いが、実際の時間は何も変わらない。私以外のみんなはここに来るまでで時間はすでに十分に無駄にしており、帰りも考えればすぐにでも勉強にとりかかるべきだった。
 
 しかし、誰もそれを言い出そうとはしなかった。みんな鞄を置き、力つきたかのように私の出した座布団の近くにいる。座ってはいない。私ももてなしたいのは山々だったのだが、座布団と丸テーブルを出したところで床に座り込んでしまった。初夏とはいえ、三十分も日の下を歩いてきた人間がこの部屋に五人もいるのだ。部屋の暑さは尋常じゃない。エアコンが轟音とともに放つ冷気の量を考えると、それは確かに冷たいものであるはずなのに、その音で暑さを感じてしまう。
 
 しかし、いつまでもだらだらとしているわけにはいかない。エアコンが動き始めて一、二分経ち、気持ちだけ部屋が涼まってきたと感じた私は立ち上がり、コップを取りに行くと言い残して部屋から出た。
 
 ドアを開けて廊下に出てみても、温度に差は感じられなかった。エアコンと私たちの熱気でどっこいどっこいということだろうか。私はそこにもやがかかっているのではないかと思わせる熱気の中を進み、階段を降りようとした。しかし、階段を降りる間もなく、私はお盆を持ったお母さんに遭遇した。
 
「暑いでしょ。これ、冷えてるから」
 
 お盆の上には氷の入った人数分のコップと麦茶のボトルが置かれていた。
 
「ありがと」
 
 私はそれを受け取り、部屋へと戻った。部屋に戻ってすぐ、買ってきた飲み物と麦茶のどっちを飲むかみんなに聞いたが、全員がキンキンに冷え、すでに表面に汗をかいている麦茶を指した。
 
 
「さて、そろそろやろっか」
 
 私たちは麦茶の二リットルは入ってたであろうボトルを文字通り秒殺し、買ってきた飲み物にも一本手をつけた。冷えた飲み物は中から体を冷やし、そして唸るエアコンの冷気が外から体を冷やした。そのエアコンの音が轟音から騒音のレベルに変わったころ、圭織がそう言い、私たちは勉強を始めた。
 
 基本は私が圭織を教え、祐子が愁也君と千晴を教えた。本当は私が愁也君を教えたかったけれど、そこは文系と理系の教科という壁があったので仕方がない。その後には祐子が二人教えるというのは負担にならないかと考えたが、二人の勉強を見つつ、自分の勉強を進めるという芸当を祐子は難なくこなした記憶を探ってみれば、森祐子という名前はテストの成績の順位で言えば上位層、三十位以内の常連だった。
 
「祐子は別にこうやって集まってやる必要ないんじゃない?」
 
 私がそう訪ねると、祐子は表情を少しも変えずに言った。
 
「別に、こういうのは損得勘定じゃないでしょ。私は今までも、ちーの勉強見てきたし、そんなに負担にはならないよ。そもそも、私の成績を見て言ってるのならそのセリフそっくりそのまま由里に返すけど」
 
 そう言われてしまえば、返す言葉はなかった。しかし、祐子は最後にこうつけたした。
 
「まあ、私グラマーの成績がちょっと他と比べて弱いから由里に教えてもらえればとは思うけど」
 
 祐子との関わりは日にすればまだ浅かったが、そのちゃっかりしたとこも、言い方も、祐子らしいと感じた。
 
 
「由里、ちょっとお母さん出かけなくちゃならないことになったから」
 
 勉強を始めてから二時間ほど経った頃、お母さんが顔を出した。
 
「晩ご飯にカレー用意しておいたから、お腹が空いたら盛りつけて食べてちょうだい」
 
 玄関まで見送りに出た私に、お母さんはそう言って家を出た。
 
 その後一時間ほど勉強してみんなを見渡してみると、集中が途切れてきているように感じた。
 
「ねえ、晩ご飯にしない? お母さんがカレー作っていってくれたんだけど」
「え、そうなの? なんか気遣わせちゃったかな」
「千晴食べるー!」
「じゃあ由里、電話貸してくれる? 携帯電池切れちゃって。家に御馳走になるって連絡したいから」
「あ、じゃあ手伝うよ。私前に台所借りたことあるし、ほかの人より勝手わかると思うから」
 
 みんな思い思いに反応したが、どうやら食べていくということで問題ないらしい。私は友人たちと食べる夕食に少しわくわくし、手伝うと言ってきかない圭織を連れて台所へと向かった。愁也君も手伝うと言ってくれたが、なぜか圭織が「一人で十分だから」とか、色々と理由をつけて手伝わせなかった。
 
 
 台所に行くと、弟の正和がカレーを食べ終わり、食器を運んでいるところだった。
 
「あ、こんばんわ」
「ほら正和、挨拶」
「こんばんわ。お姉ちゃん、これ置いてっていい?」
「後で洗っておくからいいよ」
 
 私は正和の頭にポンと手を乗せた。
 
「サンキュー」
 
 正和は廊下に消え、その後階段を昇っていく音が聞こえた。
 
「由里ちゃんの家って、家族みんな仲良いよねー」
「やっぱり、そう見える?」
「うん、少し見ただけでわかるくらいに」
「そう、ありがと、圭織」
 
 私はその言葉にちょっと照れて、誤魔化すように食器棚を開いた。
 
「さあ、準備しよっか」
「うん! でも、私由里ちゃんに聞きたいことあるんだ。準備しながらでいいからさ」
 
 そう言われ私は圭織の方を振り返った。好奇心に満ちた顔がそこにはあった。
四章のタイトルを変更しました。
Intermission-1をIntermission-pastに、2をpresentに変更しました。
内容には変わりありません。


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