五章:ひとつひとつ(11)
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空中に身を躍らせた化け物はかろうじて、といった形で空中に留まっていた。姿を現した本体の大きさは三メートル立方といったところだろう。しかしその中心部は沢山の葉、花、つるやつたなどに覆われているため、実際の大きさはわからない。そもそも、その中身があるのかさえも。下から伸びるつたがその巨体を支えているが、安定しないようでさらに数本、地面に向けて何かを放った。私はそれを目で追う。今度は根のようなものに思える。今戦場となっているこの場の下は住宅地だ。私はそれによる被害が出ていないことを確認した。
高度が高すぎて少々見づらいが、私が起こしてしまった火災、つるや根によって破壊されたコンクリート、家。そしてそれが何だかわからずにただ逃げ惑う人々、上を見上げる人々。何とかしなければならないのはわかっているが、今は目の前の化け物をどうにかしなければならない。どう考えても、こいつを暴れさせたほうが被害は大きくなる。
そう、私がある程度の対象を絞って乗り移る先を探したように、化け物たちも乗り移る先を選ぶ。私は動きやすさという点で選ぶ必要があったが、化け物の場合はわからない。何を基準にして選んでいるのかだろうか。ともかく、その過程で暴れまわられると出る被害を食い止めねばならないのだ。それに、化け物は他の世界に行くまでに力を手にしている。以前とは異なる力を。力を手にしたら使いたくなるのは、人に限らない本能のようだった。
さて、余計な思考はここで終わりだ。私は目の前の敵に注意を戻した。支えを増やしても自身を支えきれないのは変わらないようだった。あの図体の中にぎっしりと詰まっているとしたら、重さは相当なものだろう。
私は張った根とつるに火を放つ。今度はできるだけ慎重に、確実に。下での目撃者の数は既に相当なものだろうが、今からでも物は消しておく必要がある。いざとなればエリアを絞った上での記憶操作なら可能だ。それにはかなりのエネルギーが必要だから今はできない。後日やるとなれば取りこぼしなどが出るだろう。しかしそうなったときに証拠がなければそれは何人かが不思議なものを見た、ということで済ませることも可能だ。
着火した火が長い根やつるを燃やしていく。すると本体はそれを切り離した。炎を纏ったものが宙を舞い、地面に向けて落下していく。私は更なる炎によりそれを燃やし尽くした。そしてすかさず、相手の懐に飛び込んだ。
「いああっ!」
掛け声と共に手に持ったナイフを二本重ね合わせ、更に手持ちのナイフを二本そこに加え、中央で交差する長い刃に変化させた。誰か目撃者がいるならばその人は巨大な裁ち鋏を持った制服姿の女子高生だと証言するだろう。鋏と化した刃は長くなった代わりに薄く、細くなった。その分耐久性は落ちるが、先ほどナイフでつるを切った感触からすればこれでも十分だろうと判断したのだ。
私は両手でそれを持ち片刃を本体目掛けて突き刺す。一メートル程の刃は抵抗なく化け物の体に突き刺さる。私は広げた両手を手前に、閉じるようにしてその絡み合った植物たちを切断した。元々状態変化能力が得意なことに加え、刃状のものの創作などお手のものである。そうして作られた薄くも鋭い刃と梃子の力がそこに加わり、植物なぞの切断は苦労することもなかった。ナイフで切り裂いた時よりもその量と厚さは増しているというのに、それを斬った感覚すら手に残らない。
ただし複雑にお互いが絡み合ったその植物たちは落ちることなく、そしてその隙間を埋めるように周りの植物たちがうねりだす。そのせいで結局中身は見えずじまいに終わる。そしてその攻撃を放った私に対して切られた植物のつたが私をその本体に取り込むように囲んだ。鋏は閉じた直後なので開く間はない。私はその片側に鋏をあて、力を入れる。すると本来の鋏では切れないはずの面である刃の外側に当たった植物がその断面を順に見せていく。
「誰がそっちは切れないと言った!」
私は素早く距離を取る。本体が私を追おうとするが、そのでかい図体の動きは私についてくることはできない。
長く素早い遠距離攻撃のつるなどは避けられる、斬られる、燃やされる。本体は私の速さについてくることもできない。さて、相手からしたら八方塞だ。このままではやられるだけ、次の一手はどう仕掛けてくるか。仕掛けないのなら私から――と思考を巡らせる間に相手は次の一手を打ってくる。先ほどと同じく下方に向けてのつるや根による攻撃。しかし今度はそこに私はいない。ただ私の方も地上を攻撃させるわけにはいかないのでそれを切断しにかかる。刃を閉じたまま背にあたる部分でその全てを切り裂くと同時にその私を中心に二十本近くのつるが私を目掛けずに放たれた。突然の攻撃とは言えぬ化け物の行動に一瞬動きが止まったのと、さすがに一度に対処できる数じゃないということもあり、私がその半分を切り裂く間に残りの半分は地上へと達した。
それは私を中心にその私の外側に放たれたために私は全方位を相手にしなければならなく、また相手が直下に打つことでその最短距離をとられたということに遅れて気づかされる。後悔する間も惜しんで地上の状況確認をしようと下方に眼を向けるのとほぼ同時に、私は背中から衝撃を受ける。かろうじて確認できた私の体の周りでは伸びるときよりも速い速度で縮むつるたちが見える。
つまり、今私が見ている地上に埋め込まれたつるを急速に縮めることで、動きの遅い本体の一方向のみだが高速の体当たりをしかけてきたということだ。体にかけられた急激な加速度は私の体をいとも簡単に化け物の本体へとしばりつける。そして私が能力によりそこから抜け出そうとする努力もむなしく、先ほどと同じように本体は私の四肢をがんじらめに拘束した。
私は身動きすることもできず、そのまま化け物と一緒にアスファルトで作られた道路へと、その身をたたきつけられた。
8/22から旅行にでかけるため、水曜の更新はお休みです。
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