一章:いつもと違う朝(9)
洗面所の鏡をまた見た。その顔は沈んでいるように見えた。気を取り直して隣接するお風呂のドアを開け、浴槽の蓋を開けて栓を閉める。そのまま湯を沸かすボタンを押そうとして、ふと思いとどまった。
――練習してみるか。
丁度今日、後数時間後には私はこの世界での初めての戦闘に行かなければならないのだし。そう考え、浴槽に手を向けた。向けなくてもよかったが、その方が想像しやすかった。水が湧き出るイメージを想像する。
そしてどこからともなく水が湧き出した。浴槽いっぱいに水が溜まると、次に熱を加える。少し多めに水を入れてしまったので、加える熱も気持ち多めにしてみた。湯気を見て頃合いだと思い、成果を確かめるために制服の袖がつかないように気をつけながらお湯に手をつけた。
「熱っ!」
……少し、熱くしすぎたようだ。今度は私は急いでシャワーを手に取り、水を出した。軽く火傷してしまった自分の指を冷やしながらその水を浴槽に入れてお湯を冷ました。
仕方がない。私は昔からこの手の能力が苦手なのだ。その湯気からお湯はまだまだ熱そう見えたが、私はシャワーの水を止めた。始めに水を入れすぎたこともあり、もう浴槽がいっぱいだったからだ。後で適当にお湯の一部を捨てとかなくてはいけない。そのお湯は私が作った物なので、もったいないということもない。私の能力を使うためのエネルギーがほんの少しなくなっただけだ。恐る恐る今度は手の先でお湯に触れると、まだ熱いが入れないこともない、と思った。
私は一度お風呂場を出て制服を上から脱いでいく。下のスカートも脱ぎ、下着を外していく。やはり、この裸になる姿を見るということはあまり慣れることが出来ない。もちろん、今までの自分の姿なら構わないし、私は同姓愛者、つまりはレズだとか百合だってわけでもない。何だか恥ずかしくなって胸を腕で隠す。
風呂場に入ると私の全身が鏡に映った。何度見ても息を呑むようなプロポーションだ。まるでモデルのよう、とまで考えて、これじゃナルシストか。と思い当たった。またもや恥ずかしくなり、さっさとお湯を被り浴槽に入ることにした。
「わっ」
かけたお湯の熱さに私は思わず声を上げた。余計なことを考えている間にお湯を熱く入れてしまったのを忘れていた。ためらいながらももう一回全身にお湯をかけた。しかし二度目は体が慣れてしまい、そんなに熱くなかった。足の先からお湯に浸かっていく。全身が入ったところで私は身震いをした。からだの中から寒気がすべて抜けたように感じた。
浴槽に入っても下を向けば不思議と引っ込んでいるお腹に目が行く。先程のように、決して食べていないわけではないのに。
「やっぱ、甘いものなのかな……」
由里、私は甘いものがそれほど好きではない。むしろ好みは苦いものの方である。もし、それでこの体型を維持出来ているというなら、これからの私の生活は少しきついものがあるかもしれない。私が由里である以上、食生活の極端な変化は避けるべきだからだ。
そんなくだらないことを考えながら、私は数時間後に待つ戦いのためにお湯の中で体を休めた。
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